
1979
May
Comment [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
「アニメやるならオリジナル」 ここ数年来、そう思いつづけて きたものだから「ガンダム」を 手つだうことに抵抗はなかった。 本来が動画屋なのだから「作 画に専念・・・・・・」という身のほど こし方も自然だった。 だが、やはり、いざ仕事にと りかかってみると、そう簡単な 話ではない。シリーズという分 量は、あいかわらず圧倒的だ。 自分の作業能力の低さ加減にハ ラがたつ。気ばかりあせる。 これが現場感覚というものか ・・と思いあたる。 してみると、この一、二年の 自分はずいぶんと楽をしてきた もののようである。苦労はとう ぶんしかたあるまい。 こしらえたキャラクターは富 野氏のところへ里子に出してし まった。里子にだしたかれらが 先々どうなるのかさえ、ぼくは しらない。 が、富野氏の感覚と力量は承 知のうえだ。なかば観客、そして、なかば現場作業員というか たちで、ともかくも、とうぶん やってみるつもりだ。
July
Interview [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
AM: 主人公のキャラクターデザインを決めるにあたって、どんなイメージでお決めになったんでしょうか!?
Yasuhiko:「富野さんからガンダムのプランがでるまえから、今度はこんな主人公でやってみたいなあとという意中のキャラがあったんです。それが、いまのアムロなんですけれども、ただ、富野さんのプランではブライトが主人公だったんですよ。ぼくの描いていた主人公のイメージとはちょっと違っていたんですよねえ。むしろ、サブキャラのひとりにいアムロという少年がぼくの主人公イメージにぴったりだったんです。それで、いろいろ話し合って結局、アムロをサブキャラから昇格させた形になったんです」
AM: アムロの旧キャラのセルと現行のキャラはほとんど変更点はないようですね。若干、髪の毛の色が違うようですが……
Yasuhiko: 「ええ、ほとんど手直ししないで決まりました。ただ、髪の毛の色はねえ。富野さんもぼくもアムロの髪の毛は赤毛でちぢれっ毛というイメージをもっていたんで旧キャラのようにしたんです。でも、この色はセルの上で見るといい色に見えるけれども、実際のテレビフィルムになったときはあまりいい色にならないといわれたんで”あたりまえの色”すぎる感じの心配はあったんですが変えました」
AM: アムロの顔を決定するとき、苦労した点などありませんでしたか!?
Yasuhiko:「どこにでもいる主人公という点から平均的二枚目というわけにはいかなかったんで、そこらへんがむずかしかったですねえ。ふつうはキャラクターシートに鼻を高くして下さい”とか“かげはこうつけて下さい”などと書くんですが、今回は”00はしないように”というように書きました。また、アムロは外人の子ということなので外人特有なもの、たとえば眉毛のラインや目が大きく黒目が小さい点などに注意して描きました」
AM:コスチュームのアーミールックで、とくに気をつけた点は!?
Yasuhiko:「コスチュームはフランス軍の復古調のイメージですね。ぼくはね、膚に100%フィットしたタイツみたいな洋服は不思議でならないんですよ。ファスナーもないのに、どうやって着るんでしょうね。ブーツもぼくの描くブーツは足首にたるみがあるのが特徴だなんていわれますが、ファスナーなしのブーツならあのくらいのたるみがなくっちゃ、はけないからなんですよ」
AM: アムロの動きを描く上で気をつけて いらっしゃることはありますか!?
Yasuhiko:「わざとらしいポーズは極力さけています。たとえば、悩むアムロを描くとアゴに手をあてるのを描けば簡単ですが、日常そんなポーズしませんよね。だから、そういう動きはできるだけやめて現実的にありそうな動きにするようにしています」
August
Comment [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
シャアのキャラ クターは特に注文らしい注文がなかっ たんですよ。ただ、外見からいうと、 美形キャラなので0×国のプリンス的 になりすぎたかな、という心配はあり ます。それに、いつもマスクをつけて いるので、描くうえでらくなんです。 表情があまりないですからね。
September
Comment [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
特別寄稿 “アムロと母”に想う 「ガンダム」のアニメーションディレクター・安彦良和氏が1 クール 半を終えたひとつの区切りとして、このメッセージを寄稿してきた。
「ブーム」とかいうことで、テレビアニメが市民権を得るようになって久しい。しかし、大手を振って往来を歩けるのは、まだ一部の高名な番組や作品だけのようだ。多くの作品はいぜんとして日の当らない場所でイジケ通していなければならない。そういった作品には圧倒的にオリジナル・アニメといわれるものが多い。「ガンダム」などはいってみれば、その極みだろう。時間帯は悪い。ネット局は少ない。番宣はまるでない。そのうえ、局のつごうひとつで放映日までがコロコロ変わる。まったく、再放送以下の扱いである。だが、クズだ、三流だとバカにしてはいけない。目立たないところにこそ、えてして”Something”があなにかるものだ。よい例として「ガンダム」の13話をあげたい。主人公アムロが戦いの中で一時の休息を得、故郷を訪れて、久々に母と対面するというのが、この話の筋なのだが、一見手抜きなそのつくりの中には、手ざわりのたしかな「人生」へのメッセージがこめられている(いいかたがキザになりがちなところはご容赦願いたい)。要するに、この話は作られたものではなく、創られたものだと思わせるにたる感触が確実にあるのだ。「再会、母よ…..」というタイトルからも推察できるように、この話はいわゆる「母もの」である。が、そこいらにある安手の泣かせものとの決定的な違いは、この話の作中人物、すなわち再会する母と子が、同じように生きる過程にある生身の人間”としてとらえられているということである。母との再会に泣いた子、アムロはラストでは冷たい敬礼を残して、仲間たちのもとへ去り、母はさめざめと泣いてそれを見送るのだがれは典型的な世代の断絶の図式そのものなのだがそのシーンは決し若者の側への一方的な肩入れて描かれているわけではない。さりとて、見捨てられた母の生をもっぱらに見ようという一種のリアリズムでもない。いってみれば、創手は双方に同じように冷淡であり、温情的なのである。母と子の悲しい別れを決定づけたのはそれに先立つ小さな事件である。それは、アムロが自分の存在を発見した敵兵をピストルで傷つけたといういじらしいほど夢中な行為の結果なのだが。事件の直後、母はまだ動転しているアムロにむかっていう。「すさんだねえ、あの人たちにだって子供もあるだろうに……!」これに対する息子の返答がまたふるっている。「母さんは・・ぼくを愛していないのか?」よくもまあというくらいに二人のセリフはその場に見合っていない。母もバカなら、青くさい息子もバカだ。しかし、創り手はバカな二人に対しても徹底的にやさしい。「どうする、みんなと一緒にいくか。残るか?」というリーダー・ブライトの声にふり返るアムロの視線のむこうには、ポツネンと立つガールフレンドがいる。そして息子に捨てられた母のバックには小型トラックの運転席から見ている母の「間男」がいる(コンテには、はっきり「間男」と注釈があるのだが)。母には、母の生があったのだ。そして、これからもあるのだ・・・・・・と、その「間男のいる情景」は雄弁に物語っている。母を捨てて、自立の道をともかくもいこうとするアムロの生が、流転の前をはらむものであるのはいうまでもない。しかし母とても、いつまでも泣いてばかりいるはずはない。彼女は彼女で大変なのだ。創り手はそんなことを特別にコメントしているわけではない。よほど気をつけていても気づかれないようなささいな描写の内には、たしかにそのような含意がある。そのような部分は、あるいは創り手の生の体験の露出そのものなのかもしれない。このような作品の創作に参加できるということは大変うれしいことである。創り手のいつわらぬ心情や本音をかいまみてしまうことは無上の快感である。少なくとも、こういう充足感は○億の金をかけ大作のミクロのスタッフとしてや高名な原作ものの窮屈製作過程からは得られない。だからこそオリジナルアニメは創られなければならない。私自身もそうした作品との関わりを、できれば、それのみをこれからも求めつづけていきたい。
1981
January
Feature Article (Accompaying Yoshikazu Yasuhiko to an Autograph Signing) [Animage]:
<ぴーあーる前口上> いま、売れているも のー「シアトル喧嘩 原辰徳に安彦良和!!! エレジー』(980円・小社刊)をよろしく!!!! というわけで、読者のみなさん 「シアト ル・・・・・・』 をお買い求めいただけたでしょう か?もちろん、もうとっくに買ったよ” あ、ありがとうございます!! なんせ、安彦さんにしてみればはじめて の小説なだけに、ぼくらとしても、さて、 売れ行きやいかに..? という気持ちで した。それがなんと、なんと、すごい評判、 すごいダッシュ!! なんとかこの勢いに馬 力をつけようと腰の重い安彦さんをかきく どいて「サイン会」なるものを計画、富山 東京・大阪とまわってまいりました。 こ れは、その随伴同行記であります。 △11月3日(月曜・祭日)富山市・清文堂。 前述したとおり、安彦さんっていうのは、 モノグサなのか、おっくうがりやなのか、 はたまた人見知り (シャイ?) とでもいう のか……。
Ogata.「安彦さん、カクカクシカジカで、 富山 ヘサイン会に行きましょう!!」
Yasuhiko.「うーん、あそこはたしか飛行機でしょ 52. えっ、プロペラ機(YS11) なの? おっかないねぇ・・・・・・」 そら電話でのやりとり数十回、やっとなっと く。当日、羽田空港でおちあう。見れば、 タートルネックにバーバリーの重武装。 こ ちとらはコートなしの軽武装。思えば、富 山は北国ゆえ、むべなるかなと思いつつ、 いざ、機内へ。
Ogata.「なんか、食い物が出るのかナ?」
Yasuhiko.「そうね、腹へった・・・・・・」 東京湾上飛びぬけて、YS11は日光連山 上空から新潟を眼下に日本海へ。
Ogata.「安彦さん、シアトルのパート2は何月 ごろ? アリオンも早く2巻目を出さなく つちゃ…………」
Yasuhiko.「うん、うん、ええ、ええ・・・・・・」
Ogata.「ガンダム映画の進行はどうです?」
Yasuhiko.「日本海の色は黒っぽいなあ……」 なにを聞いても、心ソコにあらず。もっ ぱら外ばっかり見ていて、これがほんとの 上の空!! クソーっ、しゃくだから、おど かしてやった。
Ogata.「YS11って、事故が多いのよねぇ」
Yasuhiko.「そ、そんな。だから、ジェットで金沢 へ行こうっていったじゃない」 かくするうちに、無事、富山空港着。Y S11というのは、メシはおろか、飲みもの も一杯だけ。そこで、昼メシをたらふく平 らげて一路、清文堂へ。もう待ちかねてい たファンに迎えられ、サイン会も無事、終 了。翌日、念願かなって、小松空港よりジ ャンボジェットで帰京しました。
△11月16日(日曜) 東京・池袋・西武百貨 店内西武ブックセンター。 安彦さんのお宅は埼玉・所沢。 池袋とは 至近距離にある。したがって定刻着。小生 はチト遅刻。申しわけありません。 サイン 会開始前、キッサ店で打ちあわせ。 おや、 どこかで見た顔の人がいらっしゃる。 ナン ト、これが高千穂遙さん。花束を持って、 激れいにやってきたのだそうだ。ありがと うございます。 ファンはもう、会場につづく階段に長蛇 の列。アルカディアン同人”によるガン ダム・コスチュームショーも参加して熱気 むんむん。ふんい気はもりあがった。
Ogata.「あんまり待たせては悪いし、早めには じめましょうか?」
Yasuhiko.「ええ、そうしましょう」 根がナイーブでとってもやさしい安彦さ んは、頼まれれば「シアトル』以外の 色紙・ノートにまでサインをプレゼント。 こちらはなるべく著書以外は遠慮してほし いのに……。 安彦さん、くたびれなきゃい いけど。
書店の係員の話ー「これまでも、いろ いろな方のサイン会を開きましたが、きょ うは特別。すごい人気なのにおどろきまし た」 売れ行きも上々だったようで、いや、ご 同慶のいたりです。
11月24日(月曜・ふりかえ休日) 京都市・ 駸々堂河原町店。 午前9時、東京駅発ひかり2号、10号車 16番DE席。ああ、よかった!!! という のも安彦さんって、やっぱりナイーブなの ねえ。前記、富山行きはシートナンバーが 4で、彼、気にすることしきり。縁起とか ジンクスというのは、なんとなく、人を一 喜一憂させるものらしい。 閑話休題 朝もやをついて、ひかり は突っ走る。一つうしろのシートには、な んと幸運にも偶然にも、名古屋のガンダム ファンという女子大生が乗りあわせて、さ っそく、安彦さん、ご所望のサインをさらさら。
Yasuhiko.「ぼくは、京都は高校の修学旅行で行っ ただけ。なつかしいなあ」
Ogata.「安彦さん、朝メシ、ガマン しましょう。京都へ着くのはち ょうどお昼。おなかをすかして おいて、ガバッと一気にやりま しょう」 小生、品性下劣。車内ではも っぱら京都での昼御飯のみに思 いをめぐらし、あれも食べたい、 これも食べたい……。 名古屋で クダンの女子大生と別れ「安彦 さん、ぜったい、名古屋にもい らしてください」「はいはい」。 京都はさすがに古都。歴史の 重みを感じながら駅頭第一歩。 広島の「ホワイトベース」葦原 嬢、京都の同志社大学花の女子 だ。 大生、北川、林、久野、 羽田諸嬢に迎えら れて「先生ようこそ、さあ、行きまひょ」。 駸々堂は京都のドまん中にある。ここも、 朝早くからファンが待っていてくれたのだ そうな。ありがとう。店内がちょっぴりせ まいせいか、サイン待ちの行列を店前から 切り離し、移動していただいた。そして、 20人ほどずつ、会場へコマ切れで案内する。 いやはや、安彦さんの人気たるもの、す ごいばかり。もちろん、初のお目見得とい うこともあって、プレゼントや握手攻め。 ここもサイン会では、新記録の人出なそう 無事終わり、あとはもう無罪放免。 ホテ ルでアセを流し、夕食後、いよいよ待ちに 待ったるカラオケスナックへ、さあ、出動!!
安彦さんの歌った歌 南部馬追い唄・ 仲間たち・琵琶湖周航の歌etc。 小生のガナった歌くちなしの花・夜 の銀狐赤いグラスetc。 ああ、京の夜、古都の夜・・・ 古びた空気 が甘ずっぱい。高瀬川と鴨川の水がとうと うと歴史をたたえて流れていた。 京都のみなさん、ありがとう、そして、 なによりも、多忙のなかをおつきあいいた いた安彦さん、ほんとうにありがとうご ざいました。
Interview [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
前ページで述べたように、映画用『ガ ンダム』は、もう具体的なまとめ作業 の段階に入っている。 総監督の富野喜幸氏によって整理修 正された絵コンテにしたがって、作画 監督の安彦良和氏もエンジンをフル回 転させているところだ。 具体的には、11月10日現在、1・2・ 5話のつなぎ部分にからむ新作(描き 足し部分のこと)と、描きなおしに全精 力をかたむけている。 昨年、病いに倒れて以来、埼玉県新 所沢の自宅で執筆制作をつづけている 安彦氏宅にAM編集部はおじゃまし、 その進行状況と彼の『ガンダム』に賭 ける意気込みを取材してきたの で紹介しておこう。
AM. いま、どんな作業にとり かかっているんですか?
Yasuhiko.「厳密にいうと、いまぼ がやっている仕事は第1原画なんです。 これは、原画のもう一つ前の段階で、 レイアウトと動きを決めていくという 仕事で、絵そのものはたいへんラフな ものなんです。 そして、この絵を元に して各原画の人たちが清書していくわ けですが、このシステムによって作画 監督という仕事をはぶいています。だ から、この段階でぼくの仕事は終わり になり、最終チェックはすべて演出に おまかせすることになるんです」
AM. このシステムのメリットは?
Yasuhiko.「そうですね。いまのぼくのよう に体のことを考えながらやらなければ ならないものにとっては、たいへん効 果的です。 このシステムがもしうまく いけば、今後の作品作りにも生かせる と思いますが・・・・・・」
AM. ところで、現在、1・2話あた りのつなぎ用を手がけていると聞いて いますが…
Yasuhiko.「そうなんです。ちょう どいま、2話と3話の中間あ たりに入れる新作部分を描い ています。これがそのカット ですが(といいながら見せてく れたのが左ページの原画) テレ ビシリーズのなかには、アム 口がはじめて新型のノーマル スーツを着るところがないの で、そのシーンも必要になり、 新しく描き起こすことになっ たんです」
AM. そのほか、なおしのカ ットもかなりのようですが具 体的にはどんな部分ですか!?
Yasuhiko.「たとえばですね、話をつなげて いくと夜でなければならないシーンが 昼になっている。その場合、背景から 描き起こさなければならないのでそれ に合わせて原・動画も描き起こさなけ ればなりません。これがまたたいへん で…..」
AM. ところで『ガンダム』からはな れて1年数か月になりますが、当時の 呼吸はつかめましたか?
Yasuhiko.「とにかくこの 作品は設定がすごく 多かったので、忘れ ているものも数多く あります。だからカット 数はさほど多くないんで すが、いちいち資料を見 ながら描いているので時 間がかかってたいへんですね」
AM. ところで、安彦さ ん自身、映画版『ガンダム』について どう思われてるんですか?
Yasuhiko.「じつをいうとテレビ版を編集し テスト版を見て、思っていたより見 やすいものになっていたので安心しま した。というのは、余分なぜい肉をガ ッサリ落としていたからです。その後、 本格的に1本の映画にするために、 富 野さんが大幅に手を入れたため、まっ たくのダイジェスト版にはなっていま せん。しいていえば、新作とダイジェ ストの中間といったところでしょうか。 しかし、それにしても絵がもっとい いと思っていたんですが、通して見る とひどいものが多いのにはおどろきま した。そのうえ、テレビフレームにか なり助けられているのに気づきました。 だから、時間があれば ぜんぶ描きなおしたい ぐらいです」
AM. 安彦さんの今後 のスケジュールは?
Yasuhiko.「とにかく、いま の段階でぼくがやらな ければならないカッ トが500カットは あります。これは時 間数にして約1時間 分になる。おまけに これを今年いっぱい であげなくちゃならない。あとは来 年に入ってアフレコ段階で立ち会うだ けですね」
February
Roundtable Interview w/Yasuo Otsuka, Yoshinori Kanada, Kazuhide Tomonaga,Shinya Sadamitsu [Animage]:
一人前になると、もう 先輩も後輩もなくなる (12月6日、午後7時、東京・高円寺のとある中 華料理店の2F。みなさん、定刻までにキッチリ と顔をそろえてくれた)。
AM. まあ一杯・・・・・・。 金田さん、あいかわら ず酒のほうはだめなんですか?
Kanada. ええ、まあ一杯くらいなら。
Otsuka. なんでですか?
AM. 痛風なんですよ(笑)。
Otsuka. へえ、お若いのに。
AM. 大塚さん、友永さんはともかく、ほか の方もご存じでしょう?
Otsuka. ええ、お名まえはね。うち(テレコム) の若い連中、ガンダム好きだし、ぼくもね安 彦さんの「ろぼっ子ビートン」の原画を見た ことあるんです。シンエイ動画のときに。う まい人がいるものだなあと思いましたけど、 お会いしたことなかったんですよ。
AM. 金田さんや貞光さんとは……。
Otsuka. 友永さんから、うまい人がいると聞い ていましたけど、ぼくはあまり作品見ていな いんですよ。
Yasuhiko. それにしても、きょうはおもしろいメ ンバーですね。大塚さんという大御所がいて、 友永、金田、貞光さんは20歳台、ぼくは、30 歳ちょっと(笑)。
AM. そうですね。大塚さんというアニメ第 1世代の人と、あとは第3世代の人……。
Yasuhiko. 第3世代というのは、いつごろから始 まったいい方なんでしょうかね。 いかにも、 最近、自明のことばのように使われ いるけど。
Otsuka. ぼくは今年50歳になるんです、いや来 年だ(笑)。これは第1世代といわれてもしょ うがないでしょうね。森康二さん、大工原章 ぼくくらいまで、ひっくるめて第1 世代ということになるんでしょうね。いま、 みんなえらくなっちゃってて絵を描いてない 人も多いみたいだけど、こちらは貧乏でし うがないから、まだ描いていますけど(笑)。 第2世代といえば、テレビ時代の夜明けにこ の仕事に入って、いまテレビや映画の作品づ くりを背負っている人たち。 出崎 (続) さん、 宮崎(駿)さん、小田部羊一)さんとか、 ん(たろう)さん、もう、みんな400前後に近づ いている。
Yasuhiko. そうするとぼくは・・・・・
Otsuka. 第3世代ということになるのでしょう そういう分けかたをするなら。
Tomonaga. ぼくははじめて聞いたなあ。
Kanada. なんか、恐ろしい感じ。
Yasuhiko. 最近、よく聞くんです。
Tomonaga. スゴイなあと思って。もしかするとオ レたちのことかなあと思って……(笑)。
Yasuhiko. ぼくは虫プロの養成所の2期生で、虫 プロ出身では、一番若いほうだから、いつま でも若やいでおられるんでいいんですけど、 最近になって、ぼくに 後輩がいないんだっ て、ちょっと寂しくなってきて……。 大塚さ んなんか、人を見たら後輩と思えばいいんで しょうけど(笑)。
Otsuka. まあ、東映1期生ですから、後輩は大 変多いですけど、でも技術の世界というのは 1人前になるともう後輩も先輩もないですよ。 宮崎さんなんかぼくより10年若いアニメータ ーで、彼が東映に入ってきたときは、ぼくは 東映では、ちゃんとした原画だったんですよ。 で少したってから、彼が描いたコンテのとお り、ぼくが絵を描いていたでしょう。順番か らいうと、おかしいっていう人がいましたけ どね。でも、こういうことは順番じゃないで すよ。若くて、うまい人がでてくると、競争 相手のような気がしますね。ちくしょう、か なわないや、とか(笑)。 で、作監みたいなカンバン背負っちゃうと、 人のぶんまでほめられるってことがあるんで すね。 「カリオストロ」のカーアクショ ンは さすが大塚さんなんてね(笑)。ちょっと待 てくれって、あれはぼく、全然手を入れてい ないよって。 そういう傾向ありますね。
Otsuka. そういうふうに来ちゃうんですね。だ から、集団の仕事というのは、個々のことが わかりにくいですね。
「ガンダム」フィク ションだからこそ大事に
AM. では、80年のアニメ界の動きで目立っ たものをいくつかひろって、内側からの、作 り手側からのご意見、ご感想をお聞きしたい と思うんですが。 「ガンダム」からいってみ ましょうか。放映は80年の1月に終わってい るんですが、その後、再放映や雑誌で爆発的 人気が出ましたね。まあ、それで3月に映画 が上映されますけど、安彦さん「ガンダム」 は最初から中高生ターゲットという意識はあ ったんですか?
Yasuhiko. ターゲットが中高生っていうと、何か、 中高生の好みがあって、それに対して何がし かの形で迎合するというニュアンスになりま すね。ぼくは、そういう作り方しちゃいけな いんじゃないかと思います。いま、何がやり たいのか、何がやりたくないのかというとこ ろが重要だと思いますね。
Otsuka. そう思いますね。「旧ルパン三世」作 るとき、まあ女の子は見ちゃくわ ていた。そしたら、女の子の っちゃったんですね。最初か ゲットになんて思っていたわ す。じつは、自分にターゲ でね。オモえて作っちゃい ね。
AM. アニメーターの方って、ほかの作品が 人気あるというと、気になるものなんですか?
Tomonaga. 気にならないこともないですね。
AM. 金田さんは見ていました?
Kanada. ええ、少し……。
Sadamitsu. はっきりいって、金田くんが「ガンダ ム」やらなくてよかったと思うよ。 やってた 「ガンダム」パターン狂っちゃう(笑)。
Yasuhiko. いや、貞光くんも、だいぶ狂わしてい る(笑)。
Tomonaga.
Sadamitsu. くんはどのくらいやったの?
Sadamitsu. うんまあ、ちょこちょこっと絵コンテ を。でも「ガンダム」ほど、いろんな人が病 気になった作品って、はじめてだよね。
Yasuhiko. 貞光くんも倒れたね。
Sadamitsu. 神経の過労なんですよ。だから「ガン ダム」終わったら、1か月くらいで治りまし だけどね。
AM. あれだけの人気だと、PART2の話、 あったんじゃかすか?
Yasuhiko. フィクショ またやりゃいいじ したけど、フィ かっていう人もいま だからこそ大事にし たいと思いますね。
Otsuka. 自分( かで終わってしまった作品を うのはつらいですよね。何か、 くりかえしをやっているみたいで……。
AM. 映画は、新作でやりたかったんじゃな いですか、安彦さん。
Yasuhiko. いや、あれはあれで完結しているので、 PART2も新作も何もないです。
Otsuka. PART 1に集中したようなエネルギ って出っこないですね。
AM. なんで、放映後に人気がでたんでしょ うね。
Yasuhiko. いや、最初から視聴率がよかろうはず ないと思っていました。5時半放映といえば、 太陽はまだ上のほうにある。こんな時間にテ レビ見ている子がいたら、外へ行って遊べっ て、親がいうんじゃないか、という時間でしょう。
AM. だから、よけいにできた、という部分 があったんですね。
Yasuhiko. そう、自由に作れたということがあり ました。
AM. 大塚さんは、どのくらい「ガンダム」 をごらんになってました?
Otsuka. ええ、数本なんで、ちゃんと系統的に 見ていないんで、ちょっとひかえさせてほし いんです。安彦さんもそうだと思いますけど、 6時、7時って、ちょうど仕事やってるとき でしょう。「ガンダム」にしても「コナン」 にしても見られない。逆に中高生の人に聞い てみたいですよね。
Yasuhiko. 「コナン」といえば、ぼくは見ていたん だけど、いつ、どの週にチャンネルを入れて も、あっ、いまコナンがいるなと思えるんで すよね。だから 「コナン」みたいに当たって、 自分でも、人に見てくれっていえるような水 準のものならいいんですけど、ちょっと「ガ ンダム」の場合は、うしろめたい気分もある。
AM. でも、あれだけブームを起こしたとい うのは、それだけの要素があるんですよ。
Otsuka. 「コナン」でいうと、当たっていません (笑)。当たってはいないけど、いま、あれこ れといわれるのは、メンタルな部分でね、み んなが問題にしていると思うんですよ。技術 的問題というのは、案外大目に見てくれる。
AM. 視聴者は。
Otsuka. ええ。技術的に非常に高度だからいい 作品とはいえない、というところがたくさん あるんですね。高度だからむなしい る。東映動画の初期のアニメは、だれが見て もあ かも いところがあるけど、内容に のね。心を打ったと思えるんじ ですか。
Yasuhiko. もし、いま技術的水準ということでテ レビアニメみたら、とて ね。ただ、作り手が甘・ は考えますね。見て えられないです のかってこと っていっ てくれるのと、作り手としても技術的にまあ まあだと思えるような作品を作りたいと思う。
劇場用アニメーその あぶない”作りかた…
AM. では、劇場用アニメについていってみ ましょうか。これもみなさん方に関係の深い ことだと思います。70年が1本、80年が1本 と、ここ2年で爆発的にふえていますが、大 塚さんなんか、昔のことを考えると、信じら れない数でしょう。
Otsuka. 結論からいうと、テレビアニメの人気 クオリティ(質)を劇場にスライドしたっ て感じですね。昔の東映だったら5~8万枚 ぐらいかけていましたね。いま、テレビの6 本分くらいを一緒にしたものでも、十分に観 客が来るという時代にきたということであっ て、ふえたのがおかしいということはないで すね。ぜんぶ8万枚かけてたら、いまの日本 のアニメ制作人口では、何本できるかわかり ませんね。
Yasuhiko. 再編集ものも多いですね。 そういった方向性は、どうなるんでしようね。
Otsuka. お客さんが来るならいいんじゃないで すか。
AM. テレビの横すべりでも?
Otsuka. 観客の寛容度があるということでね。 やっぱり、雑誌連載で人気がある、テレビで 人気があるということでやるわけで、オリジ ナル長編なんか、意外と売れないんです。
Sadamitsu. テレビは逆に減っているんですよね。 そのうめ合わせで劇場用がふえている感じが しますね。
AM. いま、アニメ界が非常にいい状況にあ るからいいんですが……。
Tomonaga. 新たに大金をだして、どれだけいいオ リジナルが作れるのか、というところですね。
Sadamitsu. はりもうけるために作るんでしょ
Otsuka. 作り手側からいうと、アニメーター、 原画として見た場合、自分の作品を何回見て も楽しい、よく動いてるなとか、そういうよ な基準にあてはめると、何本残るんですかね。
Yasuhiko. ああ、あの年にあれがあったというよ うな..。
Otsuka. ズシンとくる充実感、作り手の理想は これだと思うんですよ。それで、みんなに好 かれて、大勢が見てくれて、しかも何回見て も楽しいっていう…。 マンガ映画というの は、流行や一過性の人気をこえた命をもって いたいなと思います。そういう基準で審査 をやったとすると何本残るかな……。
Yasuhiko. 金田くんいるからいうわけじゃないけ ど、なかには金田くんひとりでもっているん じゃないかって映画もありますからね(笑) ’81年も、映画は90年と同じようにたくさん出 てくるだろうけど、作り手のスタンバイが圧 倒的に間に合っていないですね。 能力ない けですよ。映画の画面にたえられるもすね。能力ないわ ける人って、ごく限られている、そ これも戦闘 シーンとかになってくると、もう指折り数え て・・・・・・金田くん、友永さん、石黒(昇)さん ・・・・ぐらいしかいないわけですよ。そういう へたちが、あっちこっちいって作っている。 大変あぶなっかしいことをやっているんです ね。だから、そういう戦闘シーンなんか見てい て、これはすごいなあっというのと、あぶな っかしい状態だというのと、両方感じました ね。
AM. 金田さんご本人はいかがですか、自分 で描いていて。
Kanada. ぼくが見せたなんていうと、ちょっと ・そういうことは全然ないけど・・・・・・。 でも、 いつも戦闘シーン描いていると、ぼく自身の 進歩がなくなってワンパターンになり、自分 のほうには何もない······というような感じ。
Tomonaga. うん、パターンになっちゃうとね。
Otsuka. 作り手側からいうと、十分表現できる たっぷりとした時間があって、テレビじゃで きないダイゴ味が出せないといけない。
Yasuhiko. と、思うんですよね。
Tomonaga. 必要ですね。数はふえているけど、テ レビのワク内にしぼられている。
Kanada. だから、その場かぎりというか、 見たら、もうあとはいいという感じ。
Otsuka. いまの倍時間かけて、ラッシュが上が ったところでもう一度なおすなんてすると、 ずっと質があがってきますからね。
Yasuhiko. 「火の鳥」には、そういう古典的なアニ メーションを楽しみたい、というようなとこ がありましたね。大変、 手間ヒマかけた部分 があって。ただ、これは何のためのテクニッ クなのかという、むなしい思いもしましたね。 背景にしても、フルアニメにしても。 何のた めに、どういうテクニックをつぎ込むんだ ていうことが、まったくわからない。だから 作り手は、どういうものを作るんだから、そ のため、こういうテクニックが必要で、こう いう予算で、こういうスタッフでって考えて いかないと といけない。そうしないと作品が空 中分解しちゃう。たとえば「コナン」見てい て、これは描いていてむなしかったろうなあ、 というカットをぼくは知らないんです。
Otsuka. まあ、だから・・・・・いや、 だまっていよ う(笑)。いま映画作っていなければいいたい 放題いうけど、作っているとね・ (笑)。ぼ くは、大衆的判断っていうのは視聴率じゃな いと思うんです。配収じゃない。視聴率とい うのは、見た人の数であって、点数じゃない ですね。見た人の点数はあとになって出てく るものだと思っています。だから「火の鳥」 がよかったとみんながいい出して、再上映、 放映の声が高ければ、点数がよかったという ければ、それもまた こと、だれも何も 点数なんですね。
Yasuhiko. ぼくは「ガンダム」で、再編集ものの ひとつのモデルを作ろうと思っているんです けど、やっぱり最低限、ダメというところは なおして、新しい部分を相当に入れて、やっ 木戸銭に見合うんだろうと思うんですね。
Otsuka. なおせるんですか?
Yasuhiko. ええ、15弱くらいだけど。
Otsuka. すごいですね。でも「ガンダム」のよ うなものを作るチャンスは、これからだんだ ん減るんじゃないですかね。いろ チして、原作が800万部売 にかく圧倒的に子どもに人気があるとか。 P ART2ものっていうのは、無難な線ですか らね。「じゃりン子チエ」も、人気があるか ら企画に乗ったんですね。まあ、アニメにす るほうとしては、原作の人気にオンブしない で、付加価値をつけるようにと……。動かし て見せるというのは、またべつの魅力があり ますよね。 友永さんなんか、えらい苦労して いるとこですけど。
Tomonaga. 劇場用として独立していれば成功だと 思いますけど。
長浜忠夫監督 その熱心な人間像
AM. みなさん、長浜忠夫さんとは、何かし らおつき合いがあったと思いますけど。
Sadamitsu. ぼくは一緒に仕事したことないんです。 ぼくも もよく 知りません。
Otsuka. あの人、人形劇の演出やってたでしょ う。人形劇の場合、目の前にいる子どもたち にじかに訴える。こういうことしたら喜んで くれるとか……。 そのへん、ちょっとアニメ 育ちの人とはちがう考え方持っていましたね。 もうひとつは、長浜さんは「巨人の星」のテ ーマと合致したような、マジメで一生懸命な 人でしたね。 熱気があ がありましたね。それが高 度成長のあるとき、みんなに支持さ と思 その後、日本がシラ シラケム ドにな てく ると、ちょっと重たい感じ ましたね そのへん、長浜さんも、ちょっと変えなきゃい けないと、考えていたみたいですね。
AM. 「ユリシーズ31」なんか、いいチャンス だったわけですね。
Otsuka. でも、熱心な人間像っていうのが長浜 さんの基本的テーマでしたね。ぼく好きなん ですよ、熱心に一生懸命にものをやる人間っ て悪くないですよね。
Yasuhiko. そうですね。熱心といえばそのとお で、ラッシュ見ていて、自分で大きな声を出 して、すべての役のセリフをいうんですね。 ああいうことできたのは、長浜さんだけです ね。
AM. 「ボルテス」「コンバトラー」など、一 連のロボット物で、ある視聴者層を拡大して いった役割をすごくはたしていたと思います けど。
Yasuhiko. ええ、その一連のロボット物で、ある ものを長浜さんがおやりになったということ はいえます。一途を通せる人だったですね。
AM. 熱狂的な中高生ファンがいましたかね。
Tomonaga. そうですね。ぼくが中高生だったら受 け入れていたかもしれませんね。
Sadamitsu. 純粋な部分を・・・。
Tomonaga. そう、そういう部分を。
AM. あれだけ愛と冒険”をストレートに うたいあげた作品は時期的になかったんです ね。少年マンガが殺バツとした時期ですし。 かつての少年誌が持っていたようなエネルギ あって、そこが受け入れられたような気 がします。
Yasuhiko. ぼくならテレるところを、長浜さんの エネルギーで作ったという気がしますね。 ア フレコと同じで。
アニメーター養成は、いま からはじめても6年かかる
AM. では、第2部の’81年以降のアニメ界の 展望に移りましょう。もちろん、作り手側か らの展望ということです。
Otsuka. まあ、ぼくの世代には、若いアニメー ターの諸君に、思う存分仕事をしてもらう機 会をつくる責任がある、と思っています。 お 金かけて、人材集めて、それで骨太のドラマ を作る機会が、これから出てくるのかどうか これは各社の台所の問題がありますか らね。試験して、また(テレコムに)人を入れる んだけど、どうやって訓練して、どうやって 養成して、どういう機会を与えるのか……。
Yasuhiko. ぼくのところへもアニメーター志望者 がくるんですけど、そういうときは大塚さん のところへいきなさいっていうことにし い るんです(笑)。いま、はっきりいってテレコ ないですよね。キッチリと養成してくれるていうのは。のは。
Otsuka. いや、それは入れものがあれば人間が 育つ、というものじゃないと思います。 人間 そのものの素質の問題ですね。ぼくはね、ア ニメーター なりたいっていう人には、こう いうことにしている。 “ちょっと聞きますけ ど、あなたは小さいときから自分でも絵がう まいと思っていましたか。まわりの人から絵 がうまいといわれたことがありましたか” て。そうすると”これから勉強して”って。 これはもう間に合わないんですね。 絵が上手 でなけりゃ、アニメーターに向いていないで すよ。この職業はほかの職業より適応のハバ がせまいと思う。訓練すればお金が早くかぞ えられるとかいうものじゃないと思いますね。 このあいだも絵を描いてもってきた若い人が いて、 オ アートバイのワキにカッコイイ人間が 立っているる絵なんですね。”ああ、上手だね” うア間が “じゃあ、プロポーションとか何とかそのま まで、真反対の絵をこの場で描いてごらん” っていったら、描けないんですよ。
AM. むずかしそうですね・・・・・・。
Otsuka. ディスク・ジョッキーになりたいみた いに、あこがれてきますけど、きびしいんで すよ。やっぱりやる以上は頭角あらわさない とソンですからね。お茶にごしつつ、 つつ、ヘタヘタだっていわれて30歳すぎたら、情けな ですからね(笑)。でも、うまいヘタ は相対的なものでね、まわ のでね、まわりがぜんぶ下手だ ったらうまく思われるし、まわりがうまけれ ばイヤになるしね。宮崎さんとか月岡(貞夫) さんに出会ったときは、ワァーうまいなあと 思って、いやになったりね。でも、絵はうま いヘタだけじゃなくて、個性のちがいもある ので、一概 概にはああだこうだといえませんけどね。
Yasuhiko. テレコムの将来展望は?
Otsuka. 長い目で見て、若い人の、訓練の場は つくれると思うんですよ。ある程度、納得い くまでやらせますから、友永さんなん 「チエ」何回描いてももどってくるんで”い やんなったなあ”なんていってますけど(笑)。 まあ、納得いけばいいんですよ。
Tomonaga. かけな ふくっても······(笑)。
AM. 大塚さん、一人前のアニメーターにな るには6年かかるって、おっしゃっていまし たね。
Otsuka. 6年というのは一般論です。素質 る人は、2年でも一人前になる。自分の を出しはじめるようになるのに、
Sadamitsu. 金田くん、3年かからなかったでしょう?
Yasuhiko. はじめて絵を見たとき、15年くらいの キャリアの人かと思った。絵がふてぶてしい んです(笑)。
Sadamitsu. フニャフニャって、アル中が描いてい るみたいな絵(笑)。
Yasuhiko. よくいうとさえてる、悪くいうとふて ぶてしい(笑)。
Otsuka. それは
Yasuhiko. さんにもいえるんじゃない ですか。
Yasuhiko. いや、ぼくはふてぶてしくないですよ。 (笑)。5~6年であそこまで奔放な仕事、 つうできませんよね。
Sadamitsu. 演出が何もいわなかったから、好き勝 手できた。ぼくが見て、これまずいよっていう “あっ、ぼくもそう思っていた”って(笑)。 やっぱり、ふてぶてしい(笑)。
何かやれといわれたとき 何人集められるかが勝負
Otsuka. ぼくね、一時期ウォルト・ディズニー のことを調べたことがあるんです。あの人 こんなことをいっているんです。うまいアニ メーターというの 人にひとりだ、と断 言しているんです。ディズニーは、アメリカ で学校をつくり、人材はヨーロッパ、アメリ カ全域からカネとタイコでさがしたんです。 だから、ある時期のディズニープロは、そう うたる人が集まったんです。才能のある人 が集まるとプロダクションの次元がパーッと あがる感じ。 熱気が変わるんでしょう
AM. それは組織として重要なポイントです ね。
Otsuka. テレビで長島(前巨人軍監督)を見てい ると、ベンチでこうやってバットを振るマネ) あんなタマ、なんで打てないのかなという顔 で首かしげているでしょう。 選手のほうは一 生懸命やっているのに(笑)。絵というのは、 あれと同じようなところがあって、うま は他人の絵をみて、こんなカンタンな絵がど うして描けないのかなあ、と思うらしい。 や、ぼくじゃないですよ(笑)。人によってはヘ タな絵をみると、すごく腹を立てて、なんで こんなものをかけないんだ、わざとかか んだろうっていうんだ(笑)。そ うんだ(笑)。それは、かかな んじゃ ・て、かけないんですよ(笑)。 ぼ んか長年、作監やっているから腹立てな ようにしているんです。これはもう描け んだって。でも、絵がかけて、演技力があっ て、他のさまざまな条件をこなせる人、1万 人にひとりもいるかどうかわかりませんね。 しかも、その1万人にひとりの人だけじゃ、 映画作れない。うまい人も、そうでない人も ふくめて、大勢の人間が必要なんですね。
AM. 大変な仕事なんですね。同志の信頼感 みたいなものが必要になってくるわけですね。
Otsuka. たとえば、安彦さんが何かやろうとす るときに、どうしてもパートナーがいるんで すね。うまい原画がズラっといて、その上に うまい動画がズラっといなければおもしろい ものできない。友永さんも金田さんも貞光さ んも、何かやれといわれたら同じことですね。 だから、若い人によ 人によくいうんだけど、あんま り孤立すべきじゃないんですね。金田さん 1本やれって ていわれたときに、何人集められ るかが勝負。制作が集 制作が集めるとかなんとかじ なく、金田さんが声をかけたときに、断わら ないやつが何人いるかということ。 断わらな い仲間を作っとく必要があるんですね、タテ にも横にも、上にも下にも。
Yasuhiko. いまは、 いまは、優秀なチームを編成するって いうより、員数さえなかなかそろえられない んですね。だから、演出家にしても、キーア ニメーターにしても、金勘定じゃない、本当 の意味でのプロデュースを必要としているん だと思います。
Otsuka. 本当に、これは深刻ですね。
Yasuhiko. 結局、人脈を作るにはどうしたらいい かということ、企画だと思いますね。いい気 球があがると自然と人が集まる。高いギャラ 払うとか何とかじゃなくてね。で、そういう 気球を上げられるのはだれかというと、プロ デューサーとか企画者とかじゃない、作り手 ですよね。
Otsuka. ガンダムの富野 (喜幸)さんなんかね、 虫プロ時代、巨人の星ハイジーコナンと長 いあいだにいろんな人と接して、そういう中 からアニメーションの組織論をつかんでいっ た人だと思いますね。
与えられた作品をどうやっ て、自分のものにするか
Yasuhiko. いま、アニメーターの人って、案外成 りゆきで仕事をしているでしょう。反省もこ めていうんですけど、自分がもっと、何を作 たいのかっていうことを大事にしていった ほうがいいと思いますね。
Tomonaga. そうですね。
Otsuka. そう思いますね。ぼくは、こういうこ とがあったんです。東映にいるころ、「白蛇 伝」でナマズが暴れたり、やれ竜が火を吹く とか、大グモやサソリがあばれるとか、荒 いところばかりやらされたんです。 美人の主役描きたいっていうと”いや、ちょっ とそこは〟とかね(笑)。パクさん(高畑勲) なんかもそう思っている。ぼくはドロくさい 女描くって。で、その後、東映をやめてシン エイ動画にいって「ムーミン」やったでしょ う。オレに作監やらせろって。東映に遊び にいって ね “オレだってかわいいの描けるん だって(笑)。何人かから、見なおしたよと いわれましたけど。「コナン」のときには宮崎 さんは”ダイスは大塚さんにまかしたー〟な んていってましたが、ラナを描いていると”チ ヨッチョッと”といって取りあげられて(笑)。 ま だああいうのはダメらしい(笑)。こういう ことはほっとくと、演出が決めてくるんです よ。危険なんですね。彼はああいうのにむい ているって決められてそんなところばかりや っていると、アニメーターとしてのハバがセ マ くなってくる。ちがうテーマにも取り組ん でいかないとね。
AM. 爆発の金田”なんて。 あんまりいい 傾向じゃないんですね。
Yasuhiko. いちがいに悪くないと思いますが。
Otsuka. もちろん、とっかかりとして、きわめ て重要なことです。でも、それだけで喜んで いると、それなりのパターンができちゃって、 やがてマンネリだっていわれてね。
AM. 金田さん、意欲としてはあるんでしょ う?
Kanada. ええ······ありますけど……。
Tomonaga. ああいうカットできる人、ほかにいないからね。
Yasuhiko. あいつにたのめば、このくらいのもの があがるだろうと決められるのは、かえって 迷惑な場合もありますね。
Otsuka. 爆発とか、すごい戦闘シーンとかでお もしろい場面をつくることができれば、ほか のことでもできますよ。アニメーションて、 そんなに間口のせまいものじゃないですね。 で、また戦闘がきたというときに、ぼくはこ ういうのもできますよと、もう別のところへ いっていればいいんですね。
Yasuhiko. それにしても、いま若いアニメーター 希望者がふえているというの、具体的にはピ ンときませんね。
Otsuka. いや、募集するとすごくたくさんの若 い人がきます。
Yasuhiko. サンライズはテレコムみたいに試験は ないから、やりたいって人が来た場合は、た またまあいた机があったら、そこにすわって もらうということで、入社基準は何もない。
AM. 受け入れ体制の問題なんですかね。
Otsuka. 受け入れ側が、外注化、細分化してい きましたからね。募集したら、 サンライズな んか、すごいでしょうね。アニメーションて、 最終的に若い人の体力というかエネルギーと 熱気で支えないといけませんよね。ベテ ラン”というのはマンネリということにもな 未熟”というのは“新鮮”というこ とにもつながる。どんどん若い人をとって、 どう組織化していくのかってことが、ぼくら の展望ですね。
Yasuhiko. で、作り手はやりたいテーマをもって、 たとえ、依頼された作品でも、それをどうや って自分たちの作品にしていくのかというこ とですね。
Otsuka. そう、それしかないですね。 「ハイジ」 なら「ハイジ」、「ガンダム」なら「ガンダム」 で自分たちの最良、最高を作っておきたいと いう気持ちが大事でしょうね。 終わったのが10時。”チェ〟の仕事をしにもどっ た大塚さんをのぞいて、2次会へとくりこんだ。 いいかげん酔っぱらえば“女性”の話でも······と 思ったら、アニメーターの人ってマジメ。 深夜ま でアニメの話で終始した)
Comment [for Mobile Suit Gundam, The Anime]:
1: キャラクターデザインのこと 「ぼくはキャラクターデザインは『ライディ ーン』からです。そのあと 『クムクム』 『コ ンバトラーV』と『ろぼっ子ビートン』のゲ ストキャラ、そして『ザンボット3』『ガン ダム』とやって、こないだ『白い牙』をやり ました。でも、キャラクターデザインだけで はゴハンを食べられませんよ。アニメーター の仕事の一部であって、ぼくなんかアルバイ 以下ですね。 『ザンボット3』と『ガンダ ム」で富野(喜幸)さんのオーダーを受けま した。富野さんは非常にキャラクターの”感 じ”を伝えるのがうまい人で、しかもとても サッパリしたやりかたをされるんです。 2: アニメーションディレクター/作画監督 「自分がデザインした作品で作監をやって、 いろんな原画の方とつき合いましたが、原画 マンには2通りいるんですね。キャラクター をとことんマネしてくれる人と、自分の画風 でやる人が ぼくはどっちかというと似 てなくてもいいからたのしくアニメイトして くださいってほうなんですが、キャラクター を大事にしてくれる人も うれしいですよ。むずかしいも のです(笑)」 3: こぼれ話 シャアのマスクのこと 「シャアは『美形にしてくれ』という注文が ありまして(笑)。そのつもりでマスクで顔を かくしたんですよ。むこうが『マスクを取っ たら美形だろうね』というんで、誰かが『も ちろんです』なんて言ってくれたけど、じつ はぼくはマスクを取る予定じゃなかったんで す。ところが2話でまいりました(笑)。」
Interview [“Interview with an Anime Human”, The Anime]:
郵便屋さんがマンガ本をドサッと持ってきてくれた
TA. お体の方はもういいんですか。
Yasuhiko. ありがとうございます。なんか大病し たみたいでカッコ悪いんですが・・・・・・もうだい たいいいみたいです。ただ以前の状態までは まだ戻っていませんので、今のところはあま 無理しないようにしています。ま、来年の いつごろになるかはわかりませんが、様子を みて元のペースに戻そうとは考えています。 いずれにしろ、皆さんにはいろいろとご心配 をかけました。
TA. 現在はやはり「ガンダム」にかかりっき ですか。
Yasuhiko. かかりっきりということではありませ んが、中心はやはり「ガンダム」ですね。
TA. 作業的にはもうどのくらいまで進んでいるんでしょう。
Yasuhiko. 今出した直しカットの修正をや っています。今日(11月21日)あたりで予定 の八割ぐらいは終ったんじゃないかな。 スケ ジュールがゆるすようだったら手直し分をも う少しふやすことになると思います。できる だけいいものをお観せしたいですからね。
TA. そうしますとアフレコは来年に入ってか ということになりますか。
Yasuhiko. とにかく今年中にオールラッシュをや ろうということですので、アフレコは来年に なってしまうんじゃないでしょうか。
TA. 作品の内容については、やはりまだ教え てはいただけない (笑)…
Yasuhiko. そうですね。本当はここでくわしくお 知らせできればいいんでしょうが、今お話し ましたようにまだ制作途中ですので・・・・・・・でも スタッフ皆テレビの反省の意味もこめて力い っぱいやってますし、きっといいものができ あがると思いますよ。ご期待ください。
TA. わかりました。じゃあ「ガンダム」につ いては完成を待つということにして、次に安 彦さんの歴史についてお聞きしたいのですが たしかお生まれは北海道でしたね。
Yasuhiko. そうです。 北見から北に50キロほどい 遠軽町東社名淵というところです。 オホ ーツク海の近くでね、冬なんかは信じられな いくらい寒い。それに東社名淵には戸数が30 戸ぐらいしかなかった。
TA. じゃあ、遊びというと野っ原を走り回る といったことが。
Yasuhiko. そうですね。町 遠軽)まで10キロぐ らいありましたから、町に出てって遊ぶなん てことはできませんし、おっしゃるように遊 といったら野っ原で走り回るぐらいしかな い。ただ僕は小さな頃から絵を描くのが好き でしたので、家ん中で絵を描くことも多かっ た。
TA. マンガなんかもよく読んでたんですか。
Yasuhiko. いや、マンガは好きでしたけど、それ ほど家が裕福じゃなかったし、町まで遠いと いうことであんまり買ってもらえず読めなか ったですね。ところがある時、いつもくる郵 便屋さんが「あそこの家にマンガ好きな息子 「がいる」といったようなウワサを近所で聞い たんでしょうね、古本のマンガを町から、手 に抱えきれないほど持ってきてくれた。もう この時は飛び上がりたくなるほどうれしかっ たですね。で、そのことが、小さな村でした からパッと広がってマンガ目当てにドッと集 ってきた。(笑)
TA. 躍脚光をあびることになったわけです ね。(笑)それで安彦少年もマンガがより身近 かなものになり熱を加えていくことになるの でしょうけど、その中でも特に印象に残って いるものがありますか。
Yasuhiko. あります。 鈴木光明先生が描いた歴史 マンガで「織田信長」というの。上、中、下 三冊ものでね、とにかくおもしろくておもし ろくて、こればっかり読んでました。それで 自分でも描いてみたくなり、「織田信長」を マネて「川中島の戦い」という作品を描いた んです。小学校三年生の時でした。
TA. 鈴木氏の作品のどんな点にひかれたので すか。
Yasuhiko. タッチがすごくソフトでね、手塚調と でもいうんでしょうか丸っこい絵でね、僕は こういうのが好きだったものですから、もう すっかり感動してしまった。それに時代考証 が今考えてみても実に正確に描かれていたん ですよ。僕なんかくり返し読んでたのであ のあたりの歴史にはくわしくなってね。中学 の歴史の授業で安土桃山時代あたりになる と、あれも知ってる、これも知ってるって自 信満々でした。(笑) ま、それはともかくと しても(笑)この三冊のマンガ本からいろん な意味で影響を受けたのは事実ですね。
TA. 鈴木光明氏にお会いになったことは?
Yasuhiko. お会いしたことはありません。今でも すごく気になっているんですが・・・・あ、それ で最近ちょっとおもしろい話があったんです。 先日、友人で漫画家の和田慎二氏(少女マン ガ界で活躍中)に会う機会があって、いろい ろ話してるうちに鈴木氏の話題が出まして、 彼は(和田氏は)「いや、鈴木先生は私の恩 師なんです」 という。ちょっと奇偶なんで僕 も驚いたんですが、鈴木氏は今、なんという 学校かは忘れたのですが、マンガの学校を開 いて後身の指導にあたられているそうですね。 和田さんなど優秀なマンガ家が 多数でてらっしゃるということです。
TA. ところで、安彦さんの小学校以後のこと について伺いたいのですが、やはり中学、高 校にいってもマンガは描き続けていたわけで すか。
Yasuhiko. 高校の初めころまでは、とにかくマン ガ家になろうとマジメに思ってましたし、一 生懸命描いてましたですね。ところが高二(遠 軽高校)になっていろんな雑念がドッと入っ てきて、そのうちにそんなこと(マンガ家に なろうということ)すっかり忘れていました。 で、卒業も近くなってきて将来何をしようか ということになり、僕は「織田信長」以来歴 史が好きだったものですから、大学へいって 歴史をやり、末は高校の社会科の教師になろ うと、弘前大学の人文学部に入ったのですが、 どこでどうまちがえたのか(笑)今はアニメ ーターになってる。
TA. どうまちがったのですか。(笑)
Yasuhiko. ま、あの頃は世の中が騒々しい時代で してね、僕もその騒ぎの中に足をつっこみま して、その当時は現在のように大学も寛大で ありませんでしたので、結局、大学をやめざ るをえなくなってしまった。
TA. で、すぐに東京に?
Yasuhiko. ええ。卒業免状がありませんので定職 にはなかなかつけないですし、臨時の仕事み たいなものも弘前あたりでは見つからない。 だからといって田舎に帰ってもなおさら見つ からないことはわかってましたので、それな いっそ東京へ出ようということになって上 京したわけです。一九七〇年の年です。
TA. でアニメを?
Yasuhiko. いえ、アニメなんて想像もつきません でしたね、その時は。それより僕は小さなこ ろから活字コンプレックスみたいなものがあ りましてね。自分のいいたいことを言葉で適 格に表現できる人がうらやましくてしかたな かった。だから東京に出てきて何をしようか と考えた時、真先にそういった活字に関連す 仕事をしたいと思ったんです。それで考え 結果、写植屋さんに就職した。
TA. 写植のオペレーターをですか。
Yasuhiko. そうです。しかし、三ヶ月ほどやった のですがおもしろくありませんでね。(笑) 給料も安いし。それに出てきたのが夏場だっ たもんですから、すっかり暑さにやられてし まった。それで、どうにかならんもんかと新 聞をひっくり返していましたら、 虫プロの末 人広告が載ってて、早速いってみたんです。 その時はアニメーターというのは、マンガ映 画を作る多勢の人の一部である、といったこ とぐらいはわかっていましたが、どんなもの かは全く知識はなかったですね。テレビなん でもそれまではほとんど観たことはなかっ たですし……ま、それでいってみますと絵を 描く仕事ですし、写植屋よりはおもしろそう なので入ったんです。 なるほど、どうまちがったのかよくわか りました。(笑)そのおかげで私たちは安彦 アニメを観ることができるようになった訳で すし、よくぞまちがえて下った、という感じ がするのですが(笑)。それはともかくとして 虫プロに入られて最初の作品はたしか、藤川 桂介さん原作の「さすらいの太陽」でしたね。
TA. そうです。入って最初三ヶ月間ぐらい虫 プロのアニメ養成所でアニメの基本的な勉強 しまして、その後すぐ「さすらいの太陽」を やりました。第一回の放映が46年4月8日で したね。
あらゆる意味でしっくりいった「ガンダム」
TA. その後、虫プロで「新・ムーミン」「フ アミリー・クラシック」(日米合作)「ワン サくん」などを、創映社(日本サンライズの 前身)に身を置くようになってからは「勇者 ライディーン」「超電磁ロボ コンバトラー V」 「闘将ダイモス」そして最近の「機動戦 「士ガンダム」など私たちアニメファンを熱狂 させる作品を生み出してきているわけですが そうした作品の中で特に印象に残っているの はどんな作品ですか。
Yasuhiko. 年代順にあげますと、まず「わんぱく 大昔クムクム」ですね。どういったことで印 象に残ってるかといいますと、後で述べる「ガ ンダム」もそうだったんですが、この「クム クム」に関しては自分の本音をかなり出して 作れたということなんです。自分の本音を作 品の中に盛り込むというのは、なかなかでき ないもんなんですよね。この作品に関しては 自分で企画したこともありますが、かなりす なおに本音をしのばせて作ることができまし たね。
TA. “作ってる”という実感が持てた作品だ ったということですね。
Yasuhiko. そう、その最初の作品でした・・・・・・しか し、この作品もいろんなあつれきが出てきた りして、シリーズとしては「ガンダム」のよ うなよい印象は持っていないですね。とにか 作品によって良し悪しが極端だったですも のね。一方にはビデオでぜひ録っておきたく なるようなすばらしい作品があるかと思えば、 もう一方にはまったく妥協の産物としかいい ようのないものがあった。(笑)
TA. その他ではいかがですか。
Yasuhiko. そうですね…これは絵コンテだけの 出張仕事だったんですが、例の「宇宙戦艦ヤ マト」もいろんな意味で印象深い作品ですね。 たしか49年だったと思いますが、それまでは 僕は制作プロというのは虫プロと日本サンラ ・イズしか知りませんで、よそも同じだろうと 西崎義展)さんのアカデミー制作にいった のです。ところがあまりに違うんですね、雰 囲気とかがね。ヘエー、こんなところもある のかってビックリしちゃった。とにかく、ベ らぼうに解放的な印象でした。ま、僕の場合、 外に出るのが少なかったので特にそう感じた のかもしれませんがね。でもすごく気分転換 になったですね。
TA. 他のアニメーターにも会えたということ もあるんじゃないですか。
Yasuhiko. もちろん、それはありましたね。アニ メーターに限らずいろんな人に会えたことは 僕自身にとってすごくプラスになりました。 その頃(最初の宇宙戦艦ヤマト制作の頃) 7 カデミイには個性的な人がたくさんいまして ね。現在でもその中の何人かの人とは友達づ きあいをさせてもらっていますよ。とにかく 「ヤマト」に関してはスタッフがノッて やってましたし、楽しい雰囲気でやれたとい うことが印象に残っています。
TA. あと一作だけをあげていただくとします と、やはり「ガンダム」ということにな りますか。
Yasuhiko. そうですね、やはり。これについては 本年三月の劇場公開もあり、現在もくすぶっ ている作品なんですが、前にもちょっといい ましたように、この「ガンダム」はあら ゆる意味でしっくりいった作品でした。企画 から始まって、設定、富野 (喜幸)氏の原案、 スタッフとの協力、そしてキャラクターに対 自身の思い入れも含めて全ての面 しっくりいった。こんなことはそうめったに あるもんじゃないんです。だいたいは途中で 雑音が入ったりしてくる。これに関してはそ うしたことが一度もなかった。僕もうれしく なって、いいなあ、ようし最後まで頑張るぞ ! って張り切ってたら急にあんなこと(病 気で入院してしまった)になってしまった。 (笑)それも含めてこの「ガンダム」は 印象深い作品ですね。
TA. 先ほどの言葉でいえば、かなり本音を出 せた作品といえるわけですね。
Yasuhiko. 終始一貫出すことができました。その 意味でもすごく愛着を感じてますし、この先 何年やっても忘れがたいものになるような気 がしますね。おそらく富野さんも同じ気持じ ゃないのかな。
気になるのは高畑勲さん、大塚康生さんそして宮崎駿さん
TA. ところで、変な質問なんですが、安彦さ んはご自分をどんな特徴のあるアニメーター だとお思いですか。
Yasuhiko. 僕の場合、ハッキリしてるのは、原作 ものをやらないことなんですよ。これまで に一度も手を染めていませんですからね。た 今度、日本サンライズで「白い牙」という スペシャルものをやるのですが、これが原作 もので、僕も初めて経験することになったの ですが、これにしてもキャラ設定だけですし ね。それに随分長く休んでしまって迷惑をか けてしまいましたので、そのくらいのことを しなければ申し訳ないという気持があります ので……。
TA. 原作ものをやらないという理由は?
Yasuhiko. まず原作を超えるということは非常に むつかしいということですよね。それでうま くいったとしてもまあまあ”の評価がいい 方ですし、失敗などしようものなら、それこ クソミソにたたかれる。ホント何にもいい ことない。(笑)それだったら自分の好きな ものをやった方がいいですものね。その点、 東京ムービーの人たちはすごいと思いますね。 この数年かなりの数の原作ものをやられてい ますが、大きくコケたものがほとんどないで しょ。どれを作ってもちゃんとやってしまう。 「ルパン三世」なんかは原作を超えたんでは、 と思わせるほどのすばらしさですものね。
TA. では、これから先も原作ものに関しては やるつもりはないということですか。
Yasuhiko. そうですね、今のところはまったく考 えてないですね。
TA. それから、安彦さんにとって気になるア ニメーターってどんな人ですか。アニメータ でなく演出の人でもけっこうですが・・・・・・
Yasuhiko. 先ほどもいいましたように、僕の場合 つきあいがたいへん狭くてそう聞かれてもこ まるのですが……そうですね、やはりいちば ん気になるというか注目しているのは、高畑 勲さん、大塚康生さん、そして宮崎駿さんと いった人たちですね。お三方に僕は一度もお 会いしたことがないんですが、お三方の作品 はいつも欠かさず観るようにしてるんです。
TA. どんな点に魅かれるのですか。
Yasuhiko. とにかく本音で仕事をされているとい うことですよね。まず、これはどの作品を観 ても感じますね。それから、お三方とも〝リ アリティ”ということに対して自身の確固た る哲学というか方法みたいなものを持ってる ように思えるんです。そしてそれを、限られ テクニックの中でどうやったら最大限に発 揮できるかということを、一貫して考えてお られる。そのあたりは本当にすごいと思いま すし、僕もこの点はぜひ見習って行きたい。 それからお三人の作品が非常に若々しくて、 新しい、という点も魅力ですね。こんなこと をいっては失礼なんですが、お三方とも僕よ りずっと年齢が上のはず(笑)ですが、そう いったことはまったく感じさせない。 するたびに新しさと若々しさを人に見せつけ ていく。すばらしいですね。
TA. なるほど。ところで、最近小説を書かれ ましたが、これからはこうした分野でもやっ ていきたいということですか。
Yasuhiko. いや、あれはイタズラ書きですよ。(笑) 入院してて時間がポカッとあいちゃいまして ね。ただ、前にもちょっといいましたように、 活字というものに僕はコンプレックスを持っ てましてね、かねがね文章表現ができる人が うらやましくて、自分も何とかそうなれれば 今回のような小説を書いたことは一度もな かったんですが雑文なんかは時たま書いたり してたんですよ。それで今回、時間があった ということで、そういった変なムシ(笑)が さわぎだしてね。
TA. 今回の小説をアニメにするような予定は あるのですか。
Yasuhiko. いえ、それはまったく考えていません。 実は先日もある制作プロの人から、そんなよ うな話があったのですが、これはアニメにす るようなものではないですのでおことわりし ました。
TA. ところで安彦さんは仕事のない時などは どんな過し方をしているのですか。
Yasuhiko. そうですね、僕の場合、外に出て何か するというようなことはあまりありませんね。 ハングリーな生活をしてきましたので、これ といった趣味もありませんし、ハングリーだ から無趣味だっていう理屈も変ですが(笑) 本当は何かスポーツでもやった方が体のため にはいいんでしょうけどね。でも最近は子供 たちが大きくなってきたので、近所の空地な どでキャッチボールなんかやって遊んだり してます。
TA. 最後の質問なんですが、ご自身のアニメ ーターという職業をどう思われていますか。 どんな風にこたえていただいてもけっこうで すが……。
Yasuhiko. そうですね、僕の場合、先ほどもいい ましたようにこの仕事に入ったのが、ほかの 方なんかよりかなり遅かったものですから、 とにかく、最初の4~5年というのは無我夢 中でやってたわけです。皆のレベルに早く追 いつこうとね。ですから、その頃は自分の職 業についてあれこれ考えるといったことはほ とんどありませんでした。それが「クム クム」あたりからちょっと変ってきたんです。 技術的にもコントロールできるようになって ある程度余裕も持てるようになってきたから だと思いますが、アニメがすごくおもしろい ものに感じられるようになってきたんです。 意外でしたね。そんな気持になるなんて思っ てもみませんでしたのでね。とにかく、その 時から、アニメを一つの作品として捉えられ るようになり、またそういう風にアニメを観 てくれる人が非常に多いことも知って、その おもしろさが、ますます拡がってきました。で すから、もし、今だれかに”お前の職業は?” と聞かれたら、アニメーターです、とこたえ られます。ようやくそういえるようになったのですか。
April
96-Part Q&A (just the Yasuhiko answers) [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
3: どこが新作部分、つまり描きお こしの部分なのか?
長い箇処としては、ルナツーの部 分。それから、マチルダの登場から ミデア機が攻撃されるまでのひとつ なぎの部分です。あと、数カット程 度の描きおこしは、かなりあります。 (Yoshikazu Yasuhiko)
17: 新キャラクターは登場するのか?
でません。(Yasuhiko)
18: でてこなくなるキャラクターは いるのか?
カットされる部分があるため、で てこなくなるキャラクターもいます シャアの部下、マチュウとフィック スや、セント・アンジェを目指して ホワイト・ベースを降りた親子など でてきません。(Yasuhiko)
19: 今回、描き直したキャラクター は?
設定そのものから描き直したとい うキャラクターはいません。ただ全 体を通して、アムロもシャアも、あ るいはサブキャラクターも、よくな かったところは描き直しましたので、 そういう意味でなら描き直したキャ ラクターはいるといえます。 (Yasuhiko)
20: サングラス姿のシャアは、でているのか?
その部分は手を加えていないので そのままです。(Yasuhiko)
21: ランバ・ラルとハモンはでてく るのか?
川のラストのほうで登場します。 (Yasuhiko)
Comment [for Mobile Suit Gundam, Animage]:
ガンダムを映画化するにあたり、描き 直したところは、テレビのフィルムでは 絵がまずくてどうしようもなかったとこ ろ、つながりが悪いから直したところ、 直しただけでは不十分なので、新たに描 き加えたという三点になります。 背景を描く人もそうなんですが、描き 直しにはほんとうに苦しみました。シー ンが飛び飛びで、カットも飛び飛びなた め、絵コンテを注意深く見てやるのです が、前後のつながり などがわからないわ けです。コンテを見 てわかっているつも でも、実際にこれ でつながるのかなと いう不安がいつもあ り、気分がなかなか のらないのです。た いしたカット数ではないのですが、一つ のつながりでやった時よりも、むしろし んどかったと言えます。ですから、今回 の映画もそういう意味で多少のバラツキ が出てきていますが、これは、再編集映 画の宿命であり、限界ではないかと思い ます。 しかし、ガンダムのファンの方には、 良くなったと言ってもらえる作品になっ ていると思います。今、ガンダムをひい きにしてくれている人たちは、いいとこ ろを見つけよう、見つけようとしてくれ ますので「良くやった」と言ってくれる のではないでしょうか。 直す以前のもの 比較すれば、良くなっていることは確 かだと自分でも思いますから……。 ガンダムという作品は、ようやく3部 作の第1部が終わったばかりなので、あ 半分以上残っているものをどう始末し ようかということで頭がいっぱいです。 恐らく、これからの作業はもっと辛く なるだろうと思いますね。
May
Feature Article (Yoshikazu Yasuhiko vs. Fan) [Animage]:
3月12日、神戸大学漫研が、春休みを利用して上京。 安彦 良和さんに会う” という情報をキャッチしたAMは、その もようを誌上公開させてもらうことにした。というのも、 この漫研は、積極的な活動サークルとして知られる”アニメ 本格派の集まり”で、その批評眼は抜群と聞いていたから だ。そんな彼らが「ガンダム」公開直前の安彦さんと、率直 な意見交換をくりひろげたー。
神戸大「どうして絵が変わ るのですか?」 安彦「作監として、ほかの 人の絵をチェックしている 最中は、なおさないほうがい い絵にぶつかると 設定をかえちゃう!!」
Fan. 安彦先生、 ごぶさたしています。先生とは、去 年、京都でお目にかかって以来のこ とで、お久しぶりです。
Yasuhiko. …その、先生っていうのや めてくれませんか(笑)。 という会話でスタートした座 談会。 神戸大学漫画研究会がア ニメの研修旅行”をはじめて 今年で3回目。その旅行につい ての「心得」につぎのようなこ とが書かれてあった 「お目にかかる方々には礼儀正 にこやかに!!!」
Fan. あのォ、いつご ろから絵が確立していったんですか。 たとえば、虫プロ時代とか。
Yasuhiko. いつのまにか、いまのぼくの 絵ができた、って感じかな。アニメ の仕事をはじめて、その絵を他人に ホメられたり、ケナされたりして、 また他人の絵を見て「いいなァ」と 感じていくうちにひとつの型ができ あがっていったんだと思う。でも、 こまかく見ていくと、いまでも、ぼ くの絵は変わっているんですよ。
Fan. それは『コンバ トラーV』(5年前)のころといまを 比較してですか?
Yasuhiko. もちろん。極端にいえば、ひ とつの作品のなかでもキャラが変わ っていくこともある。こんど、映画 になった『ガンダム』で、新しく描 き加えたときも監督の富野(喜幸) さんがぼくの絵を見て「テレビのと ぜんぜんちがうじゃないか」ってい われたほどだから(笑)。
Fan. どうして絵が変 わってしまうのですか?
Yasuhiko. 作監という仕事をすると特に そうなるんだけど、作監はいろいろ なアニメーターがキャラ設定にした って描いたものをチェックする仕 事ですよね。で、ペラペラと絵を見 ていくうちに、なおさないほうがい いと思う絵にぶつかることがある すると、自分の設定したキャラを変 えてしまうんだね。
Fan. “ヤラレタ!!!”と いう感じですか。
Yasuhiko. そうだね。でも、クヤシサは ない。むしろ、収穫だと思う。で、 それが多いのは、ぼくがアニメータ ーとして歩いてきた道とはぜんぜん ちがう東映系とかシンエイなどの人 たちと組んで仕事をするときです。
Fan.「いいな」と思う方向にどん どん変えていくんですね。だとした ら、昔、自分が描いた絵は見たくな いほうですか。
Yasuhiko. いとおしい、とは思うけどね。 でも、見たくないなァ(笑)。ウチの 子どもが、いまテレビで放送されて いる『ガンダム』の再放送をビデオ に収録しようとしたので「ヤメトケ !! 」っていっちゃった。1年前の作 品でも、恥ずかしいですからね。
神戸大「東映出身の人の作 品をどう見てはります?」 安彦「『カリオストロの城 などを見ると、脅威ですね」
Fan. よく、アニメ界では“東映系” “虫プロ系”という言葉が使われて ますけど、虫プロ出身の安彦先生は 東映系”の作品をどんな感じで見 てはるのですか?
Yasuhiko. 『カリオストロの城』などを見 ていて思うことは、脅威ですね。マ ニアが見ても納得するし、一般の人 が見てもおもしろいと感じる作品を たんねんに作っていますから。
Fan. 虫プロ系の作品に対しては、 どない思てはるんですか。
Yasuhiko. そうねェ・・・・・・。雑多な人間が 無秩序に集まってきたのが虫プロで、 その意味からすると、異端的な作品 を作ることが多いよね、いい悪いの 問題ではなくて。
Fan. 先生ご自身はいかがなんです か、虫プロからアニメの世界に入ら れて。
Yasuhiko. …..最初はメシのためにこの 世界に入ったわけだけど、いまから 思えば、よくぞ虫プロに入ったとい う気がするね。東映だと、確固とし たアニメ作法がすでにあり、その点、 虫プロは表現手段でのいろいろな可 能性に挑戦できる風土があった。当 時ぼくは、アニメだけがすべてでは ないと思っていた人間だから、虫プ 口のそういうところとウマがあった のかもしれない。
Fan. それで、いま雑誌『リュウ』 に『アリオン』を描いたり、小説を 書いたりする形がでてきているんで すね。
Yasuhiko. マンガを描くこと自体は、ア ニメの幅を広げることにもなるし、 それとちょっと打算的発想だけど、 マンガがアニメへの”目で見る企画 書〟の役割を果たすこともあります からね。事実 『アリオン』をアニメ にしたいとの申し込みも受けていま すし……。 でも、お断わりしてます けど。
Fan. 『シアトル喧嘩エレジー』など、 小説のほうはどうなんですか?
Yasuhiko. (多少、恥ずかし気に)あれは単 なるヒマツブシですよ。それと、ぼ くのなかに活字コンプレックスがあ って、それを何とか打開したかった という気もありました。
Fan. その打開”という点で、今 後のアニメ作りで腹案みたいなもの があるんですか。『ガンダム』とはち がったまた新しい趣向のものとか・・・。
Yasuhiko. それは、わからないですね。 『ガンダム』でもそうだけど、結果 として“ガンダム現象”といわれる ほどの、まァ、ありがたい支持をみ なさんから受けたんですが、でも最 初から作り手が「よし、この作品 で新しい突破口を見つけ出そう」な どとリキむと、かえってロクな作品 ができないですね。
Fan. お話のなかにあった“ガンダ ム現象”ですけど、〝現象”とまで いわれるようになって、作り手側の 人間として以前と変わったと感じる ことがありますか?
Yasuhiko. やはり、アタリマエのことだ けど、うれしいですよね、自分の描 いた作品が支持されたことは。最初 はマニアの人からの反応があり、 れから多くの人たちからの反響があ った。でも作らせる側の人はいまだ に“ガンダム現象”をそれほど評価 していない、という気がしないでも ない。相変わらず目先の利益に追われ ていると思う。新番組の出方を見て も、そういう気がしますね。
Fan. あのオ、話が少し横道にそれ るかもしれませんが….
Yasuhiko. どうぞ。
Fan. 『ガンダム』のおもしろさは、 作り手の思想が前面に出ていたこと じゃないかと考えているんです。 ア ニメーションの表現の要素をいくつ かあげれば、まず絵が動くこと、そ れに演出・ストーリー。あるいは1 枚の絵に大きな魅力を感じることも ある。そのなかで 富野監督の思想を ズバリ出したこと は、新しい表現で もあったし、見る 側も新しい楽しみ 方をひとつふやし たのだと思います けど……。
Yasuhiko. そうだね。 いままでは、娯楽 的なものに作り手 側の思想、という 人生観、世界観 をしのばせること はイケナイコト、 だった。いや、少 しはあったけれど、その思想は道徳 的であり、教科書的であった。未熟 だったわけですよ。
Fan. その理由は、さっきのお話の ように、アニメにはほかにも楽しむ 要素が、まだたくさんあったからで すね。
Yasuhiko. そう。世間も「しょせんマン ガ映画だから」と思想の貧弱さには 目をつぶっていた。これに対してマ ンガ映画で思想を前面に出していく と風当たりが強くなってくるかもし れない。でも、ぼくはそういった傾 向はいいことだと思います。
Fan. しかし、現実のアニメを見る と〝相変わらず”といった企画の作 品ばかりで、ぼくら青年が見ても、 おもしろいと感じる人生観をもった 作品は少ないですね。その意味で『じ やりン子チエ』には期待しているん ですわ。
神戸大「私たち、みんなでワ イワイいいながらアニメ を作るのが楽しいんです」 安彦「ぼくは、自分ひとりで 絵を描いていたほうが 楽しい人間だから・・・・
Fan. 実は、ここにいる荒木くんは 2年前 『アニメージュ』さんに神戸 大学漫研のことが掲載されているの を見て、神戸大に入学したんです。
Yasuhiko. ・・・へえー、そりゃまた。
Fan. というのはですね、アニメフ アンは見るのと同時に自分でもアニ メを作りたい。で、神戸大の漫研も、 2本ほどアニメを自主制作している んです。
Yasuhiko. 何分ぐらいのを? 今井 3分と8分です。
Yasuhiko. セルを使用しているの?
Fan. 1本はセルを使用してます。
Fan. で、内容はもちろん、セル枚 数も非常に多いんです。3分のほう で2000枚ぐらいかな。そのほか 音楽も入れ、セリフを入れ、効果音 も入れた。もう、ちょっとしたもん だ、とぼくら自負してるんですけど、 先生、このムービーのカメラ見てく ださい(と、机の下から取り出す)。 これ、27万円もしたんですよ。国産 ではいちばん高いやつです。
Yasuhiko. そういったお金はどこから集 めるわけ?
Fan. 部費とかバイトして貯めると かするんです。でね、私自身絵が描 けるわけでないし、カメラをいじれ るわけじゃないから色ぬりといった 下請け”の仕事をやらせてもらっ てるんです(笑)。それでも、アニメ を作るのが楽しいのは、ひとつには 自分がかかわった絵がスクリーンの なかで動くということ、それと、 ループでワイワイやりながら企画を 考え、シナリオを書き、コンテを切 って、といったことを進めていくこ とがすっごく楽しいんです。
Yasuhiko. なるほどね。グループでやる のが楽しいという人はアニメ向きで すね。アニメ作りというのはいろん な人の知恵と技術を集めてできあが っていく部分がありますから。でも 作画の人でよくアフレコスタジオへ 行っている人がいるけど、ぼくはこ の世界に入って2~3回ぐらいしか 行ったことがない。その時間があれ ば、自分で絵を描いていたほうが楽 しいというタイプですから。
Fan. 小さいときから絵を描くのが 好きだったのですか?
Yasuhiko. 絵、はね。ただアニメの絵を 描くこと自体はそれほど好きじゃな かったなァ、 虫プロのころは。
Fan. ぼくは、小さいとき、テレビ で見たアニメに感激し、以来アニメ ファンになったんですが、安彦さん はどうでした?
Yasuhiko. 先ほどもいったように、アニ メが好きだったんじゃない。 虫プロ 時代、 手塚先生のレオが大好きで、 レオの絵が描ければそれで満足だと いう人がいたけど、ぼくはそういう ことはなかった。突き放して見てい たせいか、虫プロのアニメを冷静に 見ることができたし、その後のアニ メ観にプラスになっているところも あると思います。
Fan. いまも、アニメはあまり好き じゃないのですか?
Yasuhiko. (笑いながら)いや、もう10年 近くやってきたし、もうヤメたいと いっても状況が許してくれないでし ょう。ただ、今後は絵を描いて、ひ とさまに「見てください」と胸を張 っておすすめできる作品を世に出し たいですね。いままで、ラッシュの ときなんか、体を小さくして、こん な(目に手をあてて指の間からのぞ く) かっこうで見てましたから(笑)。 最初は緊張して、何を質問し ているのかわからない神戸大チ ・ムだったが、時間がたつにつ れ、体も口もほぐれたようで、 的確な質問を放っていた。研修 の「心得」にはつぎのことも書 かれてあった。 「お目にかかる予定の方々への 質問をあらかじめ考えておくこ と」
Fan. あの、ぶしつけなお願いで すけど、この画板にサインしてくれ はります?
Yasuhiko. いいですよ。 このことばが引き金となって 座談会会場は突然、サイン会会 場へと変身。引卒者(!)梅名く んなども「ぼくの弟と家庭教師 先の子からサイン頼まれてます ので」とすかさず色紙をさしだ して全員爆笑。 しかし、座談会のなかで安彦 さんが「アニメの新人は実写よ り出にくい。修業期間が長いか らだ。このニーズにこたえるつ ぎの世代の人たちが登場するに はあと2~3年は必要だ」とい う声を、どのように心に残して 神戸に帰っていったのだろうか というわけで、3月12日、よく晴れ あがった春うららの空の下、所沢のレ ストランでおこなわれた2時間の対 話”は、無事終了。
生身の安彦さんに会って感激いっぱ いの一行は、終了後は、持参のセルフ タイマーつきカメラで記念写真をパチ り。その一枚が、144ページの写真とい うわけです。
Interview [for Mobile Suit Gundam II – Soldiers of Sorrow, Animage]:
新作部分や描き下ろしポスターな ど「ガンダム」の絵に関することは、 やはり気になる。 キャラクター・デ ザイン、アニメーション・ディレク ターの安彦氏に”絵”について聞い てみるとー
AM. 第1部のときにシャアとセイ ラのポスターをお描きになった理由 は?
Yasuhiko. あれはそんなに気に入ってい ないんですよ。どうして、あれをポ スターに描いたかわからないですね。 たぶん、メインのポスターがシャア とアムロだったから、なにかべつな キャラクターというこ とで描いたんだと思い ます。
AM. 第2部は31話ま でということですが、 その中で気に入ってい るエピソードなどは?
Yasuhiko. どれがいいとは 明言できませんね。ど れも捨てがたい。 でき るだけたくさんとり上 げてほしいです。
AM. 第1部では、テレビのときと はカゲのつけ方が違っていたようで すが……。
Yasuhiko. サンライズでは、基本的にカ ゲをつけてはいけないんです。 作画 のときにカゲをつけすぎると、仕上 げのスタッフと申し合わせていない カゲははぶかれてしまうこともあり ます。今回、映画版では仕上げの長 谷川さんのご厚意により、ふだんな らぶかれてしまうようなカゲまで 入れられることができて、非常にあ りがたかったです。
AM. 第2部の新作部分は?
Yasuhiko. 少なくしたくないと思ってい ます。スケジュールは、第1部より もキツイけれど、なおしは少なくと も第1部程度は入れたい。 また、で きればテレビをやっていたスタッフ は映画でも全員かかってほしいです ね。第2部は、それほど手なおしで きないかもしれないけど、そのぶん 第3部で大々的に手なおしを加える つもりです。とにかくなによりも、 第1部は予想外の支持があってうれ しかった。第1部はいろんな面でい たらなかったけれども、第2部・第 3部でうめあわせをするつもりです ので、ひきつづき「ガンダム」を応 援してほしいと思っています。
Comment [for Mobile Suit Gundam II – Soldiers of Sorrow, The Anime]:
『ガンダム』ですか。なんといってももう 二年前の作品ですから、「懐しい・・・」 いわれても仕方のないところなんですが なんの因果か、映画ということになったお かげで未だに現在進行形なんですね。ちょ っと変な気がします。でもこんなふうでい られるというのもファンの人達の支持が、 予想以上に沢山得られたためですから、本 当にありがたいナァと思っています。 とにかく、ガンダムと言えば、勝手気まま にやった設定とか、病気とか、いろんな想い 出がからんだシリーズですから、もちろん 忘れられない仕事ではあるんですがね。 第一部の再編集の時にはまず一度、富野 さんの編集したフィルムを主なスタッフが 揃って観せてもらいました。もちろんあち こちつじつまがあわなかったり、作画が気 に入らなかったりするわけで、これは直さ なければ……というところが数多く出てき ました。 まあ欲を言えばキリがなかったんですが、 スケジュールもあることですから、そこは 各人”おさえて、おさえて・・・〟ということ で、結果的には四百カットほどの作画上の 直しということになっているわけです。あ と、演出の藤原君が工夫して直してくれた カットもありますから、四百数十カットが 「修正」ということになるようです。使わ れた動画枚数でいうと八千枚だそうで、そ れはちょっと予想を超えていて、皆んなあ とで聞いておどろきました。やっぱり、劇 場用に直すということで、別に意識した訳 でもないんですが、テレビの時よりは少し 手間をかけてしまったんですね。あと、〝カ ゲ”のことを試写を見た人なんかからいろ いろ言われました。 「カゲのつけ方が変っ たね」というのです。あるいは「カゲが好 きになったみたいだね」とかね。でもそう いうわけじゃないんですよ。あれはとにか 仕上げさんの、具体的にいうとディーン の長谷川社長の好意によるものなんです。 普通、サンライズの場合、手間がかかり すぎるということでカゲの使用は基本的に ダメということになってるんです。必要最 少限というのが、まあ現実ですが・・・。それ で作品に入る前に、作画と仕上げの間で細 かく了解事項を作るんです。このキャラの アップの時はこの辺にカゲをつけるとか、 こんなシーンには特例として全面的にカゲ ……とかね。でも、本当にこれは不自由で、 時にはカゲの問題でスタッフ同士がケンカ したりすることもあるんです。ホントにみ みっちい話ですがね。 でもこんどの映画の話では、長谷川君が、 こちらから何も言わないうちに、「カゲ、い いよ、必要なとこには全部つけるよ」とい ってくれて、これは本当に嬉しかったです ね。だから、ひとにもよく言うんだけど、 最低限「カゲ」の分だけは、テレビより良 くなっただろう……………とね。まあ、絵の方は 一年経ってかえってヘタになっているかも しれないけど。 でも本当に今度の映画は、一体どのくら いの人が観に来てくれるのか、まるっきり わからなかったですね。見当がつかなかっ た。ひょっとしたら百万人以上の人が…と も思ったけど、でも悪くすると十万人もい なかったりするかもしれないという気もし ……………。途中で、前売りの出方なんか見て、 「ああこれはまあまあの線は大丈夫だな」 と思って少し安心したけど・・・・・・やはり松竹 の人にだって、折角配給してくれたんだか ら、めいわくはかけたくないですしね。 公開された現在の見通しでいうと最初の 「ひょっとしたら………」の数字さえ超えて くれそうだというんで、これはもう出来す ぎだと思います。感激ですね。 もこの後のこともあるし、あんまり実感は ないんだけど。でも、おかげで残りの二部、 三部の公開も決まったし、尻切れトンボに はならなくてすんだようだから、その意味 では、前売りを買ってくれた人達、劇場に 足を運んでくれた人達には、本当に感謝し ています。 しかし、こうなってみると大変責任を感 じますね。「好きな人は見てくれるだろう」 というようなことでの気楽さが失せてくる ような感じもするし。もちろん馬鹿なこと するとガンダムファンに笑われてしまいま すしね。 でも、大衆化ということいえば、例えば 小さい子なんかも沢山観てくれるというこ となんかでも、これは、やっぱりモノがア ニメなんだから当然の成り行きだと思うん ですよね。低年齢化というのはね。学校な んかで話題になって、「あれを観ないとおく れちゃうぞ」というようなことでワッとく るということもあるだろうし。だから、そ んなのにまどわされちゃいけないと思って るんです。低年齢化という現象があるから 対象年齢をもう五才下げてつくるとか七才 下げてつくるとかいうことはね、過去に別 のところでそんなこといわれたことありま すけど、そんな器用なこと出来るわけがな いじゃないかって、ケンカしちゃったんで す。 僕はもっぱらサンライズという会社 で仕事してるわけです。なぜサンライズな のか、何にこだわっているのかと訊かれる ことがよくあるんですが、簡単にいうと、 サンライズという会社は非力ですから、自 分がやった仕事の意味というか、貢献 というか、そんなものがよく判る気がす るんですね。「ああ、俺がやったことで会社 がこれだけプラスになってるんだな……」 とか「この班は俺がいなくなるとこのくら い困るんだな・・・」とかね。その辺がすご シビアに感じられる。大きな会社の、し っかりした班の仕事だと、たやすく自分は 歯車の一部になっちゃいますからね。虫プ ロの時もそうでしたし、虫プロがつぶれな いで今でも残っていたとしたら、やはりそ うだったでしょうしね。 案外、サンライズで仕事してる人っての は全部そうなんじゃないでしょうか。もち ろん「オリジナルがやれる会社」ってこと も、大きな理由ですがね。 今度の上映が終るころには次の第二部の 仕事に追われていると思います。アムロと かシャアとかの、いってみれば『旧い友人 達』とまた逢わなくちゃならないわけで、 もう、どうしたってこのつき合いは当分続 くわけですから、ハラを決めて、しっかり つき合っていこうと思います。 皆さんも第 二部、それから第三部と、おしまいまでど うぞ 『ガンダム』とつき合ってやってくだ さい。 (談)
Interview [for Mobile Suit Gundam II – Soldiers of Sorrow, My Anime]:
運を天にまかせてじゃ なく、運を富野さんに まかせてー安彦良和
MA. 第2部では、絵的にどうい 手直しをしていくのでしょうか。
Yasuhiko. 第1部の初号が上がった際、 富野さんと話したのですが、新作の カットが他の部分から浮いてしまう という印象を受けたそうです。これ は、個別に悪いカットを引き出して 直すという方法をとった結果で、第 2部では、シーンごとに押さえて、 それをよくしていくという直しかた をしていきたいと思っています。
MA. これから、大車輪ではりき らなければならなくなると思うのですか…。
Yasuhiko. 少し人員を増やしてもらわな ければいけないと思っています。 画を描いてくれる達者な人をあと数 名確保してもらわないと、第1部の ときと同程度の直しも無理じゃない かと思います。理想として500~ 600カット程度と考えていますが、 今は、限られたカット数で、できる だけ多くのシーンを見ばえのするも のにしたいと思っています。
MA. 第2部は具体的にどのよう な構成になるのでしょうか。
Yasuhiko. 第2部に該当するところは、 第1部以上にエピソード編なんです ね。具体的には、16話~21話はアム ロの脱走とランバ・ラルとハモンの 死まで、22話~25話で大きな戦いが あり、同時にマチルダの死、そして 26話~28話がミハルの話、29話~30 話がジャブローの話とチビちゃんの 話というようなパートに分けられま す。これを全部取り上げるとなると、 1本の映画としてのまとまりを欠く のではないか。とすると、大きなエ ピソードをひとつ落としてしまうよ うなことをするかも知れない。です から、今は、運を天にまかせてじゃ なく、運を富野さんにまかせています。 絵的にいうなら、第1部の時より 能動的に直していきたいと思ってい ます。ちょっと無責任ないいかたを すれば、予算とかスケジュールの問 題もありますが、第1部では、カッ トごとの受け身の直し、第2部では シーンごとの直し、第3部において は、構成も含めた直し、となれば、 映画化の意味が出てくるんじゃない かと思います。まったく新しいエピ ソードが入るということは第2部ま でではありません。あるものをいか にうまくまとめるかですね。
MA. どのキャラの生きかたを見 て欲しいと思いますか。
Yasuhiko. 戦争というものに、シビアに 触れている点で、ミハルとその小さ 弟妹たちのエピソードですね。
June
Comment [for Mobile Suit Gundam/Animage GP, Animage]:
アニメのキャラを作りだすさい、 はじめからそのキャラの性格や容姿 が決まっているわけではありません。 こちらで勝手に作画していくわけで、 このシャアも「美形キャラで」とい うことが決まっていただけでした。 その点アムロは革命的でしたね。 はじめから具体的な設定があって、 描く前から性格がわかっていたから です。だから感情移入もそれだけ強 く働いていたのも事実ですが・・・。
Spotlight Article [“My Anime Life”, My Anime]:
「気がついたら十年間 アニメをやってきていた」
「東京に来たら “なんとか”なっ てしまった」
もう何度も言ってきたことなのだ けれど、アニメーションを仕事とし て始めたのはほんの偶然がきっかけ だった。2、3センチ四方くらいの 小さな求人記事をたまたま見つけた という、たったそれだけのことが僕 アニメに引き合わせたのだ。 仕事は70年の秋から、より正確 には77年のお正月明けの、新番組 「さすらいの太陽」製作開始から 始まった。しかし、正直に言って”水 を得た!”というような劇的な感じ はなかった。自分にもなんとかつと まりそうだという、ややホッとした ような漠然とした印象の他には、め ぼしい感興は何もなかったと言って もっとも、それはそれなりに大変 なことではあった。不器用で、要領 が悪くて、世間知らずで、無能で、 大学さえ出ておらず、もとより何の ライセンスもなかった僕にとって、 恰好の仕事などそうそうある訳はな かったからだ。事実、右も左も判ら 東京で職を探してウロウロして いる間にも、何人かの人から僕はこ う言われた。 「東京へ来りゃなんとかなるって考 えてのことだろうけど、甘いよ。そ んなものじゃないんだよ世の中って ・・」身に滲みる苦言だった。事実、 「東京でならなんとか……」と、僕は 大変に甘く、そう踏んでいたからだ。 なんとか”になどなってはいけな いのだった。少なくとも世の中の常 としては……。 しかし、何の間違い のせいかこれが”なんとか”なって しまった。僕に、よりによってこの 僕に割合向いていると思われる仕事 が見つかってしまったのだ。 っぱり東京だ ―と僕は思った。そ して、この仕事には当面、とにかく しがみついていなければと思った。 振り落とされでもしたら、それこそ 本当に僕は完璧に路頭に迷うしかな い。早い話が、絶対に生きていけな い――そう否応なしに確信できたからだ。
「アニメづくりって、 因果な仕事だなァ・・」
とにかく仕事にはくらいついた。 当然薄給だったから、アルバイトに なるような小仕事も喜んでさせても らった。コンテの清書、宣材やタイ トルバックの作画、なんでもやった。 単調な動画仕事からしばしのがれて そうした雑用に手を染めることがで きるのは、それだけで嬉しくもあっ た。そして何よりもそうした雑用の 地点というのは、言ってみればちょ っとした小高い丘のようなもので、 そこからは比較的良く 「TVアニメ 作り」という、仕事の景観を見通す ことができた。 皆目、様態の定かではなかった「T Vアニメの世界」というものが段々 と良く見えるようになって、僕はよ うやく自分のいる地点、立場の ようなものがのみ込めてきた。そし て、言ってはなんなのだが、少々ゲ ンナリしてしまった。 アニメ作りというのは因果な仕事 なと僕は思った。少なくともそ れは、どこをどう見てもおよそ魅力的 ではなかった。まず、全工程をどこ で切ってみても決まって出てくる金 太郎アメみたいな一定のカオ――「莫 「大な手仕事」という現実があった。 バカバカしいほどの労苦の産物とし てのアニメーション。それが、しか 現実にはどう見ても社会的にはま ともに扱われていないという実感も 無論あった。 みみっちい原作の拝借、 仰々しい制作のカセ、自主規制、 高 い制作原価、そして安い売り値、制 作スタッフの没主体性・・・・・・斜陽期に しかかった虫プロダクションとい 会社ならではの部分も無論あった だろうが、ともかく見るもの聞くも の、気の滅入るネタばかり…という のが実際のところで、僕はいよいよ かたくなに、この仕事を〝メシのタ ネ”と厳しく規定せざるをえなった。
「とにかく前へ、 他人よりも前へ・・・・・」
大学という回り道のおかげで、 虫プロ入社時、僕はもう二十二歳 という、言ってみれば分別ざかり の齢になっていた。幸い僕と同期 の養成所生には同い齢の男が二人 い、更に途中からはT君という一 層の年長者が加わってきたりもし て、おかげで年齢的な悲哀をなめ ることは少なかったが、それでも 安穏としておられないという事情 には変わりがなかった。ハラをく くって仕事にくらいつくという 悟ができると、今度は少しでも早 ・他人よりも上手くならなければ という焦りが昂じてきた。 上京したての田舎者がまず出っ わす驚きに、東京の盛り場の雑踏、 そしてその中を泳ぐように歩く人 の足の速さがあるが、見わたす限り 人、人・・・・・・で満たされた感のあるア ニメの制作現場の事情もそれと似通 っていた。雑踏の只中のような見通 しの悪い身の置きどころにあっては、 さしあたっての問題はともかくも、 他人よりも前に出、そして視野を広 げ、自分にとっての可能性の領域を いていくということ、 ただそ れだけしかないのだから…… 僕は都会の人々に負けない速足で 歩くことにした。肩を巧みに使い、 狭い人と人との間をすり抜ける術も 覚えた。ノンビリとしている人たち などは、得たりとゴボウ抜きにする ことにした。着実に増加する負債に 屈して虫プロが倒産に追い込まれる ころには、そんなわけで僕は、かろ うじて「一人前」と呼ばれる程度 TVアニメーターになっていた。
キレイゴトで、 マイナーなんて・・・
僕を拾ってくれた創映社(現日本 サンライズ)は、当初からマイナ ”を地でいくような会社だった。 虫プロの現場プロデューサークラス が設立したこの会社は、口の悪い連 中に言わせると「虫プロという沈没 船からいち早く逃げたネズミたちの ケチ会社」ということになっていて、 事実そのような印象もないわけでは なかった。 確固たる製作理念のなさそうなこ とは一見して知れたし、金銭的な羽 振りも良くはなさそうだった。野心 も、冒険心もなく、あるのは少数の 人たちの間の、なにがしかの共生感 のみ……虫プロの「疲れ」もしくは 「カゲ」そのもののような創映社と、 そこに出入りしていた人たちの図は、 今にして思えば、例えば南シナ海を 漂うボートピープルのような風情だ った。 マイナー”という話が少数者の威 勢のいいかけ声として一般的に使わ れだしたのは、比較的最近のことだと 思う。とにかく昨今ときてはパリパ リのメジャーでさえもが“マイナー” という呼称を、勲章として欲しがった りもする。そのような変な時代だか 気を付けなくてはならないのだ が、元来、マイナー”とは〝悲哀” の代名詞であったはずである。 手塚治虫という日本マンガの主柱 をバックとして、文字通り業界の大 メジャーであった虫プロダクション から「創映社」への転落、当事者にと ってそのプロセスは「悲哀」そのもの であったことだろう。創映社=サン ライズの意気のあがらぬのは当然の 話だった。「マジンガーZ」が敢然と して切り拓いてくれていた「低俗商 業アニメ」への途へ、サンライズが自 暴自棄的にのめり込んでいくのは、 見えすぎた必然であったに違いない。
「偽善がこんなにも まかり通るということ・・」
およそ子供を相手にした文化と称 される世界ほど、「偽善」というもの がおおっぴらに横行している領域は 他にあるまい。僕はどっちかという と、「偽善」という言葉の、問答無用的 な切り捨ての語感を好まない。単純 悪よりはよっぽどマシな「偽善」が世 の中には一杯存在することも、それ あってこその、この世間であるこ とも承知している。しかし、実際に 見知ってきた、例えばアニメ界の偽 善のあり様はとにかく愉快ではない。 要するに露骨すぎる。可愛げがなさ すぎるのだ。 早い話、「教育的な愛のドラマ」を 本質的に教育とも愛とも無縁な制作 者がこしらえることは容易である バクチの開帳者がそのアガリを福祉 事業に寄附するというよりも、多分 それは簡単であるはずだ(なんと言 っても当人のハラはちっとも痛まな いのだから……)。しかし、偽善的なバ クチの胴元に対するほどには、世論 は偽善的な子供文化の仕掛人に対し て厳しくはない。 当然たくさんの意識的、無意識的 偽善者たちによって牛耳られた子供 文化の領域は気味悪く歪んだものに なる。さながら風化した言葉や観念 のはき溜めの観を呈したりもする。 ムナクソの悪い押しつけ倫理や、 にもクスリにもならないヒマつぶし ドラマが「天下公共の器」と称され る高価なテレビ電波に乗って全国に バラまかれていく..。 結果として「偽善」に対する反作 用は、例えばザ・ドリフターズふう の「偽悪」的ポーズとして現れてく る。倫理性を、反倫理の立場から見 直すということになる。確かに危険 ではあるが、これは十分に理に叶っ た途なのかもしれない。
「偽善的な〟俗悪〟こそ どうしようもない」 無論、子供文化に於ける「俗悪」 をおしなべて買いかぶる気などはと うにない(ドリフターズだって、僕 は格別に好きではない。最高だった のは元気だったころのクレイジー・ キ キャッツだと、実は今でも確信して いる)。最悪なのは言うまでもなく、 偽善的で、尚かつ低俗という手合い である。そして面倒なことに、サン ライズというマイナーな弱小会社が 主たる仕事の領域として選びとった のは、そのような「最悪のパターン」 に限りなく近い、実にきわどい部分 だったわけなのだ。 いきおい作り手は慎重にならざる をえない。 社会的な賛辞というよう な報いは最初から期待しないとして も、「最悪」のそしりだけはなんとか まぬがれようということになれば、 彼はともかく、注意深く「偽善」的 部分を回避しつつ、できる限り巧 みに「俗悪」を料理するという以 外にない。これは、尋常でない難 である。単に「技術」を売ると いうような、並みの作り手にはで きるわけがない。
「当事者間のアニメ 論があったっていい」
きわどい一線を辿っていく「俗悪」 への風当たりは当然に強い。更に それがまた「アニメ」ということに なると、輝かしい 「正統史」を後 ろ楯にしての批判がこれに加わる。 つまり内容に加え、表現手法もまた俗 悪であり、低劣だというわけである。 優雅にして上品な、かつ、健康な古 典的アニメに与して「俗悪・低劣」を 撃つほどに簡単なことはない。し ばしば実際に見られるのだが、ズブ の素人が、たいそうな高所からこれに 唱和するということもある。いずれ にしても、泥まみれの「当事者」と しては “いい気なもの だ!”とい うほかはない。 アニメというのは因果な仕事だ! という僕の最初の印象は的を得 ていたと、今にして思う。実際それは、 因果めくほどにどうしようもないシ ロモノなのだ。 なによりも面倒なのは、アニメー ションというのが、徹底してつくり ものだという事実である。「ただ単に 歩く」「ただ単に走る」というふう な単純この上ない描写でさえも、 アニメーションにとっては、そして またその技術屋にとっては、実に深 刻な対象なのである。彼等は眉間に シワを寄せ、エンピツとストップウ ォッチを握りしめ、その「ただ単に ・・・」を描出しなければならない。彼 等のチビたエンピツがそれを慎重に 描き出さない限り、たったひとつの 「ただ単に…………」さえもが、スクリ ーン上では作動しないのだ。 えてみれば、これは全くオソロシイ 事実ではないだろうか。 単純な「ただ単に……………」の集積に 始まり、微妙なニュアンスを含む演 技や、気の遠くなるほどに面倒な効 果技術に至るまでの全プロセスを、 徹底して「つくり通す」ということ が作品成立の基本条件となるアニメ ーションは、その技術的な特殊性に よって、どうしてもかなりに閉鎖的 な「作り手側のブロック」を生む。 つまり、つくるという過程の実際の つらさをよく知っている者のみの世 界を、である。 事情通や作り手(当事者)だけの 閉鎖世界といえばどうしても印象は 陰湿になる。実際、現実に考えられ そのようなものは、あまり健全でも なく、建設的なものでもありそうに ない。しかし、アニメーションとい ものが特殊な「一切合切をつくり 抜く」という工程の上に立った表現 領域である以上、本当に実際情況に 見合った、現実的な相互批判や提言 は、そのような当事者間の世界以外 ではなかなかに得られにくいと思う。 早い話、「つくり抜く」という宿命 的課題の重たさを理解しない人間の 無責任な古典賛美などを、僕は拝聴 しようとは思わない。そんな視点か らの提言や圧力に振り回されるのは 御免こうむる。僕はこの因果な仕事 =アニメーションなるものと、何故 かしらかかわり合いしてしまって、 そしてそのことによって、実際に泥 んこになって苦労している御同輩た ちの意識に、より多く学ぼうと思っ ている。
「気がついたら十年・・・ でもごれからも当分・・」
これを手放したらもう本当に食う アテがない――そういう切羽つまっ た思い込みがあったとはいえ、移り 気な僕を十年余りもつなぎとめてく れたアニメーションという、この因 果な仕事の不思議さそれはやは 「魅力」と呼ぶべき何かなのだろう。 そして、それに加え、現在の僕にア ニメーション技術と同等、もしくは それ以上にアテになる技術の持ち合 わせのないことも確かな事実であ る。ならば当分、僕のパートナーは アニメーションであってくれなけれ ば困る。幸い、ここ数年の情況の変化 は、「激変」というに近い。どんな可 能性や新しい局面が前途に拓けてく るか、好ましくない分をも含めて、 まるで見当もつかない。 ままよ、いってみるしか方法はな い。マイナー”は幸か不幸か尊称 と化した。「俗悪」に偏し、時とし て低俗に近づいたとしても、でき得る 限り偽善的なクサミは排する、という 姿勢にも反省はない。 画業を例えにすれば、ようよう絵 筆の持ち方を覚えたというあたりが 現在のところかとも思う。キャンバ スに向かうのはむしろこれからであ る。数年後に一体何が描けているか、 そもそも何かが描かれ得るものか・・・・・。 自分自身としても、興味は結構、 尽きない。
July
Comment [for Mobile Suit Gundam II – Soldiers of Sorrow, The Anime]:
まず、メインポスター(13ペー ジ掲載) ですが、第1部のものと まったくちがう色調にしてしまう と、別ものと思われてしまうため “わかりやすく”するためにブル を使ったのです。もう1枚のほ う(11ページ掲載)は、なるべく 人間をたくさんいれてしまおうと いうことで(笑)。色が淡いのは、 ぼくがマーカーや水彩絵の具がす きだからです。それにしても、ポ スターには毎回苦労しますねえ。
Comment [for Mobile Suit Gundam II – Soldiers of Sorrow, Animedia]:
マチルダが死ぬ時、アムロは何も知りません。 あとになって、マチルダが死んだと聞かされ、 アムロは茫然とする。そこには、空白の時間と 精神状態があるわけです。 ですから、悲しみを奥行 きあるものにするために も、涙を本質的にするた めにも、アムロの涙をど う表現するか悩みました。
September
Comment [for Mobile Suit Gundam II – Soldiers of Sorrow, Animedia]:
最初の構成では、ミハルとカイは収ま らないとあきらめていたんです。 でもぼ くが、どうしても入れてくれって、ムリ に入れてもらったんです。 なぜそういったかというと、ガンダム 43本全部の話を通じて、一番世間的なも のというか、実社会的なものがカイとミハルの話の中で出 ているんですよね。確かに戦争が素材なんだけども、あま り直接に戦争、戦争っていってないんです。でも、ミハル の回りにだけは、戦争が多くあるんですね。だからアムロ と直接関係ないけど、ストーリーを大局的に見ると、やは りこのシーンは入れるべきだと思って入れてもらった。 富野さんがこのシーンを入れないといった理由のひとつ は、TVシリーズの絵が悪いということもあるんです。だ から入れるけど、どうしてもダメな絵はなおしてくれとい う条件がありましてね。 結果的にはミハルがホワイトベー スへ乗りこむ一連のところをかき直しただけなんです。 ミ ハルが妹や弟とわかれるシーンは、キャラはちがうんだけ ど、ふんいきが出ているんで、そこはTV版を全部活かせ たんです。
November
Interview [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, Animage]:
「ガンダムIII」はど うなっているのか、 とくに新作部分の絵 というのが は!?ー いま『ガンダム』フ アンの話題の中心。 というわけで安彦氏 宅を訪ねたのだが「じつをいうとつぎの仕事 にもボチボチとりかかっているのです」(安彦 氏)というビッグ・ニュースもキャッチ。 以 下は、その全インタビュー。 (9月10日取材)
AM.「ガンダムIII」の進行状況はどうですか?
Yasuhiko. まだまだです。はじめたばかりですか ら100カットと少し……。
AM. 全体でどのくらいのなおしになるんですか?
Yasuhiko. 1200カットくらいかな。
AM. これまでの3倍…ですか、それじゃあ本当にまだまだですね。
Yasuhiko. 2月のなかばまでになんとかというこ とになってるんですが、さてどうなるか・・・・。
AM. そうすると、まだ当分は「ガンダム」 に専念ということで・・・つぎの仕事の予定は!?
Yasuhiko. 一応はあるんです。 ボチボチとりかか ってはいるんですが・・・・・・高千穂遙原作の「ク ラッシャージョウ」です。
AM. それはニュースですね。シリーズです か、映画ですか。
Yasuhiko. 映画です。
AM. いつごろの公開予定で!!
Yasuhiko. 最初の予定は、83年正月。ところが、 正月は受験生の方が見られないということで、 一応は春を目標に・・・ということになりました。 これはなによりも高千穂くんの希望です。
AM. どういう形で参加されるんですか。
Yasuhiko. 一応は監督ということです。もちろん、 作画もやりますし、絵コンテも描きます。実 は『ガンダム』の合い間をぬって、もう絵コ ンテは終わっているんです。
AM. ほかの制作スタッフの方は!?
Yasuhiko. まだ動きだして日が浅いものだから、 メインの人たちしか決まっていませんが、シ ナリオが原作者の高千穂遙。演出は『ダイオ ージャ』の鹿島典夫さん。美術が中村光毅さ ん。メカニックデザインはスタジオぬえが担 当します。シナリオは準備段階でぼくなりに 書いたものがあったんですが、書き終わって みると、ぜんぜんおもしろくない。 高千穂く んとも相談して、結局、彼に。原作者がシナ リオ書くんだから最高でしょう。
AM. ストーリーの内容は原作の どの部分に!?!
Yasuhiko. 小説になっているやつをやってもおも しろ味がない。小説を読んじゃえば先はわか っちゃいますからね。だから、まったくの新 作を高千穂くんに書いてもらいました。
AM. 実質的にどの程度の進行ですか。
Yasuhiko. 作画以降はおあずけです。いまは「ガ ンダム」のほうが最優先です。
AM. デザインの変更点は?
Yasuhiko. キャラデザインは基本的にはありませ ん。メカニックデザインのほうはスタジオぬ えが手を入れるといってます。だからミネル バなんかも多少、変わります。ただ、ぬえの メカはねえ、動かしづらくて……。(笑)
AM. すっかり『クラッシャージョウ』のほ うへ話題がそれてしまいましたが「ガンダムIII」についてはいまどんな気持ちですか?
Yasuhiko. 2年前のちょうどいまごろやっていた TVの話をいままたやっているのですよ。病 気でダウンする寸前のカットなんかをやって るとなんだか妙な感じですが、今度こそ、途 中でぬけた仕事を完成させるためにがんばる つもりです。とくに、最終回の部分には手を いれたいですね。TVシリーズでは山崎くん ががんばってくれましたが、彼には悪いけれ ど、最終回というのは特別なんです。最終回 をやるのがTVシリーズをやる場合のひとつ の目標みたいなところがありますからね。お そらく山崎くんも納得してくれると思います。
AM. ふたつの映画でたいへんですね。
Yasuhiko. ええ、それでよくいいあってるんです。 ふたつ 合わせると32 00カットですか、それ くらいになるんですよ。これをぼくとほんの 数人しかいない少数スタッフでこなせたら、 これは、ちょっとたいへんなことなんじゃな いかな、てね……。ちょっといばっていいん じゃないか、てね(笑)。1年間で3200カ ツト の大長 編映画をつく るんだから! スタッフは多く はないし、まだまだ非力ですが、なんとかそ れなりのものを作りたいと思っています。
Interview [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, My Anime]:
パートⅡの楽しみはなんといっても 完結編であるということであろう。そ して新作カットが見られること、テレ ビとの違いなどだが、もうひとつ、テ レビ・シリーズでは安彦良和氏が病気 のため手をつけられなかった部分を、 新たに手がけるということが注目を集 めている。そこで直撃インタビュー。
MA. ガンダムⅢはTVシリーズの第32 話からなのですが、 安彦さんが病気を して、手がつけられなかったところで すね。そのあたりはどうですか?
Yasuhiko. 32話という のは最初からや らないことにな っていました。 33話は中村プ で作監をやってもらったけど、あの話 は大変気に入っていたから、僕もチェ ックしたんです。その33話の直したい と思っていたカットを、五、六カット 残しちゃったのかな。 34話はちょっと 手をつけたくらいで、後はだめだった んです。病気したのが、2年前の10月 の初めだからちょうど今頃ですよね。 それで、今、映画のほうの作業が、病 気する前のシーンあたりまで進んでい るんですよ。2年前にやっていたこと と同じことを、今や っている。2年 前にタイムマシ ンで戻ったみたい な感じがして、変 な気分がします。 映画のおかげで、 病気でやれなかった 仕事をまたやれる、 ということはめった にない。心残りだっただけに、ちょっ と得がたい、いい経験だなって思って います。
MA. 物語は、テレビとか絵コンテなど を御覧になってわかってるんでしょう が、いろんなことで、2年間のギャッ プがあると思うんです。パートⅡの時 もずいぶん言われてましたが・・・・
Yasuhiko. それは、あまり気にしないこと るんです。変わっ っているもの はしようがない。テレビに1回流れた ものを差しかえるわけにはいかないで すもの ね。せ めて映画のほうだ けでも、あいつが やったらこうなっ た、というふうに見 てもらえるなら・・・・・・。 現在絵コンテに全部目 を通して打ち合わせを やっているけれど、た だ、絵コンテを見て、「こ うなっていたのか」とい うところがずいぶんあるんです。テレ ども、見ていなかった話数が2、3本 ありました。仕事に入る前に、最終回 までビデオで見て、その時、初めて全 部見たという感じです。見ても何かわ けがわからなかったり……。
映画のアムロとララァは?
MA. 今回の話の中心は、アムロとララ アの出会いから、光る宇宙あたりだと 思いますが、絵コンテを見てどうでし たか。
Yasuhiko. テレビを見て、 「何やよくわからん、 むずかしいな。いろんな事情か 絵も不十分だったから、よけいわか らないんじゃないか」と思ってたんで すけど、今回の絵コンテを見て、それ だけじゃなく、根本的にむずかしい作 品ですね。内容もそうだし、全体の流 れもよくわからない。今回は、単なる 再編集ではなく、以前なかったシーン なども出てくるし、大分おぎなってあ るんですよ。簡単にすんでたやりとり が、ワッと濃くなったりね。 四、五カットだったシーン が十カット以上になった りしてるんですけど、や っぱり、この 後半という のはむずか しいですね。 このあたりが、 ほんとうの最終パートになるんだ けれども、直すというより、初めて やるという気分でやっちゃおうかと思 ってます。
MA. 直すといえば、新作カットはどの くらい見られますか?
Yasuhiko. 現在千百カット。その他に富野 さんが「どうする?」というのがいっ ぱいあるんです。それを入れると、千 二百カット・・・もうちょっとあるかな。
MA. 番気になるのは、どのエピソー ドがふくらんでくるか、とい うことなん ですが。
Yasuhiko. やっ ぱりそれぞれ のかかわりあいじゃない ですかね。アムロとララァ、シャア アムロ、シャアとキシリア、そ れからアムロの周辺の人たち 前半部分では、ミライさ んとか。カムランとか スレッガーとか、日常芝居が尾を引い てますからね。個人的にはそういう部 分の方が好きなんです。
MA. ララアが死ぬところがありますね。 とても感覚的でテレビを見てても、よ くわからなかった。 時が一緒になった とか、イメージが広がっていって二人 で駆けていくというシーン。あのあた りは、どうなりますか?
Yasuhiko. いく分、ふくらむんじゃないか と思います。でも、見た目を少しよく するぐらいしかできないんですよね。 ああいう情景を描いていると…..。 文的な意味でわかる必要はない、とい うことだと思うんです。やっぱり、ガ ンダムのよさっていうのは、それぞれ が身にしみて感じとるっていう、「それ ぞれのガンダム」みたいなところにあ ったと思うので、そういうことが可能 なシーンは、なるべくそうしたいです。
シャリア・ブルは登場しない
MA. 他のシーン、例えば戦うだけの人 間関係などはどうでしょうか。マ・ク べ、シャリア・ブル、ドズルなどの周 辺はテレビのままですか?
Yasuhiko. シャリア・ブルとマ・クベがテ キサスでどうこうというのは、なくな ります。マ・クベは死なないで、キシ リアについていってます。 ギャンは出 てきませんよ。
MA. ラスト・シーンはかなりのスペク タクルですけど、大画面になるともっ 迫力が出るでしょうね。あの辺の新 作カットはどうなってますか?
Yasuhiko. 最終回は山崎君という人がやっ てくれたんです。ていねいに仕事をや ってくれた人には悪いんですけど、や っぱり最終回は自分でやりたい。 前の 絵がいいとか悪いとかにかかわらず、 なるべくたくさん直そうと思ってます。 カットの流れはあの通りだろうけど、 これはもう絵を描いた者の意地でね。 シリーズやる時は、最終回をやるのが 楽しみなんですよね。それをできなか たのが心残りで、他はできなくても、 最終回は直したい。申し訳ないですけ ど、このことは了解してくれているよ うです。 ☆☆☆☆☆☆(9月18日)
Interview [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, Animedia]:
> スタジオ近くのレス トランでインタビュー。 安彦氏は得意のちょっ 小首を右15度傾ける ポーズで、熱っぽく答 えてくれた。
AN. テレビの時は病気 でダウンされたわけですが、 何話まで作監された んですか。
Yasuhiko. 33話です。24話にとりかかったあたりで肋 膜になり、五か月ぐらい入院しました。
AN.『めぐりあい宇宙編』は病気中のテレビ版が 中心になるんですが、たとえばどういう部分が新 作として、描きかえられるんでしょうか
Yasuhiko. 約半分くらいが描き直しです。 テレビの最 終回まで、主なところを拾って直したら、 キザな いい方ですが、自分にとってガンダムは終わる。
AN. 半分も描き直すとストーリーもかわるのでは。
Yasuhiko. あくまで話はテレビ版をベースにして進行 します。 ただ病気中テレビを見ていてむずかしい 所があったんです。たとえばシャアやアムロの行 動にしても見ている人によくその行動理由がわか らない……。そこがちょっと弱かったから、ラス トでシャアがキシリアを殺すとこなんか突然の感 じがしてしまう。各キャラにちゃんと芝居をさせ てやるのが、アニメーターの責任だから、自分が 納得できて見ている人も納得するように描き直し たいんです。
レンとの小競り合いで「めぐりあ い……』は完結へ向けて幕を上げる
AN.「めぐりあい······』の冒頭シーンは、テレビ 版の何話から始まるのでしょうか。
Yasuhiko. 32話「強攻突破作戦」です。シャアがホワ イトベースを追っかけ、ドレンとはさみ撃ちをす るという話からです。
AN. わりと自然な流れですね。
Yasuhiko.『ガンダムII』からの流れからいって、冒 頭はテレビ版の流れでいいと思いますよ。 ですか らテレビ版をわりとそのまま使っていますね。 ※冒頭シーンをイメージしてもらうために、32話 をダイジェストしてみようー。
ザンジバルは、小破した装甲の修理を急ピッチ で進めながら、シャアはレーザー交信でドレンと コンタクトをとった。ドレンのキャメル艦隊とザ ンジバルで、ホワイトベースをはさみ撃ちすると いう作戦だ。 ドレン大尉のムサイタイプ キャメ ル”は”スワメル” “トクメル”の二隻をしたがえ、 ホワイトベースへコースを向けた。 キャメル艦隊のムサイ三隻がホワイトベースに キャッチされた。後ろにザンジバル、前にムサイ。 強攻突破しかないと判断したブライトは、艦をキ ヤメル艦隊に突撃させた。 ドレンの指揮のもと三隻のムサイが、ホワイト ベースへ攻撃を開始した。ドレンの攻撃はますま す強力になっていく。その時、デミトリーとの戦 いでキズついたガンダムの修理が完了した! ガ ンダムはバズーカをスワメルに直撃させ、ドレン の乗るムサイのブリッジを切り裂いたが・・・・・・。
背景も描きかえ。地 球がいつも見える!
AN. 背景はテレビ版のをそ のまま使用するわけですか。
Yasuhiko. 宇宙空間の場合では かなり背景に描き込みがあ ります。テレビのとき宇宙 空間はベタでしたが、映画 では、たえず下半分に地球 が見えるとか、そういう表 現で、背景自体がアピール できるように絵的な味付け がなされるようです。
III部をどうしても私は猫 き直したかったんです
ララァはすべてがかわる
ララァのワンピース姿はたぶ ん戦闘服姿にかわるでしょう
AN. テレビ版のララァはヒラヒラしたワ ンピースを着ているが、エルメスに乗っ て戦かったりするのに、何か不自然な感 じがすると、見ているファンからの疑問も 多い。その辺から安彦氏にたずねてみた。
Yasuhiko. パートⅡでセイラのカットを全部 手直ししたようにララァの部分はすべて 描き直す予定です。テレビの時に作画し ていただいた人には、たいへん悪いなと 思うんですけど。苦しい中で描いてくれ たのを直すというのはネ・・・・・.。 でも特別な事情だから(安彦氏にとっ てガンダムが自己完結するためには直さ ざるを得ないこと) 許してもらおうと思 っています。ヒラヒラ衣装を途中で軍服 に着せかえようという話になっています。
ララァの表情、特に瞳にハイ ライトを入れるかも知れない
AN. ララァの目は埴輪の目のように思え ます。感情が表に出ないので、どういう 女性なのか理解しずらいと思える。逆に そこが神秘的でいいという人も多いが。
Yasuhiko. 実は富野さんのアイデアでひとり ぐらいハイライトのない目を持ったキャ ラクターがいてもいいね、という ことでララァの目にハイライトを 入れなかったんです。 でも意味ありげになりすぎちゃ って、ちょっと困っているんです よね。(笑い) そこで映画では、ララァもふつ うの人間なんだという風に描きた いと思うし、とにかく自然に描き ましょうということになってるんです。 でもララァってキャラは描きにくいで すね。 閉口しています。
思念波などのビジュアル表現 はテレビ版の通りですよ
AN. ニュータイプの思念波というのか、 テレビ版ではララァの画面に数字を書い てその上をペンでなぞったようにしたり カミナリが落ちたときのような波型が頭 から発せられたり。映画ではこれらの表 現はもっとくふうがされるのかと思うが。
Yasuhiko. 映像的には、たいしてかわらない と思うんです。ひとつの決まりごとみた いなものですから、かえってかえないほ うが、いいんじゃないかと今は、思って いるんです。
アムロはせがれのようですね
父との別れの部分もちゃんと 結論をつけてやりたいです
AN. アムロがサイ ド6で父テム・レ イと再会。思いも よらないことだけ に、アムロの喜こ びはひとしおでし た。だが以前の父 ではなかったです ね。そこの父との 別れが今ひとつ理 解しにくいですね。
Yasuhiko. おっしゃる 通りです。あそこ はなぜ悲しいのか テムがどうかわっ たのか、ちゃんと 表現してやらなけ ればいけないんです。それがうまくいっ てないのは、絵が芝居をしていないとい うことだと思うんです。映画ではその辺 をしっかり描きたいですね。
芝居をちゃんとさせるのはア ニメーターの責任ですよ
AN. 安彦氏の思い入れた っぷりのキャラはアムロ だと即座に答えてくれた。 自分のせがれのように思 うアムロにちゃんと芝居 をさせたいという。芝居をさせるとは?
Yasuhiko. アムロの心の悩みなどを、やはり 見ている人にわかる形で芝居させないと ね。演出家のイメージはコンテでわかる けど、キャラクターに命をあたえるのは やはりアニメーターだと思うんです。 コンテを読んで、伏線はどこか、それ がどう展開するのか、その辺を読みとっ て、キャラがちゃんと生きているってい う絵を描きたい。とくにアムロはね!
ラストに向けてアムロのパワ ーアップをはかりたいですね
AN. テレビ版最終回はアムロのガンダム シャアのジオングの壮絶な戦い。 その 戦いの中でも、ララァをめぐるアムロと シャアの考え方の違いがニュータイプを 理解する上で大切な ポイントになる。 アムロ 「きさまがラ ラァを戦いにひき込 んだ!」 シャア「それが許せ んというのなら間違 いだな·····アムロ君」 アムロ 「なに?」 シャア「戦争がなけ れば、ララァのニュ ータイプへの目ざめ はなかった」 だ!」 アムロ「それは理屈 シャア「今、君のようなニュータイプは 危険すぎる・・・・・私は君を殺す」 こういいながらもシャアは、世界の真 の平和のためにニュータイプは同志的結 合をしなくてはならんという。この心の 動きが戦いのハデさに負けたら完結はわ かりにくいものになるが……。
Yasuhiko. 最終回は全体にパワーアップしな いとつらいな。あれだけの長い話のシメ ですからね。この芝居のウラとか、この 芝居はどういう伏線を受け、どう展開す るのかを、絵コンテを読んで、読みきれ 最大限の芝居をつけてやらないとダメ なんですよね。 特にガンダムはこれで完結する訳です からある程度は納得出来るというふうで ないと困るんですよね。 つじつまの合わないところを補給して やる。するとニュータイプを含めて、な んとなく納得できるものになると思うん ですよね。 武闘のシーンは、 全カット直します
テレビ版最終回「脱出」の中で、シャ アとアムロがサーベルのような剣で戦う 武闘シーンがある。二人の剣での戦いも 少しとう突な感じがする。 また、シャアとアムロが激しく戦って いると、セイラが「二人が戦うことなん てないのよ! 戦争だからって二人が戦 うことは」という。 だがそんな声が聞こえないのかアムロ とシャアはぶつかりあった。「い、いまラ ラァがいった……………。 ニ、ニュータイプは 殺し合う道具ではないって・・・・・・」 このシーンはガンダムの完結へ向けて 大きなヤマ場になるはずだ。それだけに 安彦氏のイメージをぜひ聞きたいのだ。
Yasuhiko. コンテからの直しになるはずです。 理由は、なんとなくリアリティーがない から……で。例えば、全然チャンバラな んかやったことのないアムロが、対等に シャアとわたり合っているのは、なんと いってもおかしい。 ここもやはり自然なアムロ(スーパー ヒーローじゃない)であってほしいから そういう絵にしたいのです。 そうすれば、チャンバラの意味、ひい てはアムロとシャアのラストイメージも 少し変ったものになると思います。 なるほど、という気持ちだ。安彦氏 がコンテから直す、アムロとシャアの剣 での武闘シーンがどのようなイメージに なるのか、映画を見る楽しみが、またま た増えてきたぞ!!
まだまだ描きかえの部分は多い!
シャアの行動にはちゃんと納 得のいくようにしたいんです 仮面の下に過去を隠す男、シャア・ア ズナブル。 ザビ家に仇討ちをすべく執念 を持つ男。自分の弱さを決して人に見せ ないプライド高き男。 いく多の名セリフも残したシャア。 た とえば「フフ・・・・・ガルマ、きこえていた 君の生まれの不幸をのろうがいい」と か「認めたくないものだな。······若さゆ えの誤ちというものを・・・・・・」などが代表 的だ。このセリフでわかるようにシャア はまさに鉄のようにかたい意志を持った クールガイだった。 ところがテキサスの攻防あたりから、 セイラに軍から身を引けと兄としての情 をさらけ出す。これが結末でジオングが ガンダムにスキをつくる伏線になってい るのだ。だがここまではシャアの人間ら として理解できる。ところが、後半 少しばかりシャアの言動にちょっと首を かしげるシーンが多くなってきたように 思える。それは、ザビ家を倒すだけでは 真の平和がない。ニュータイプの世界が こなければというところと、最後にキシ リアをバズーカで撃つ行為のとう突さ だ。この素朴な疑問を安彦氏へぶつけて みた。
Yasuhiko. まずニュータイプの世界創出の件 は、わからなくてあたり前です。ぼくも わからない。ぼくらとしては絵のせいだ といわれないようにちゃんと芝居させる 絵を描き直すことで応えたいんです。 次にキシリアを撃つ点ですが ファンの方からも良く覚醒剤中 毒の発作的行為じゃないかなど といわれるんです。 ここも前半 にちゃんと伏線が描かれてない ためだと思うんです。だからこ こはその伏線の部分を描きくわ えることになるでしょう。どう なるかは映画を見て下さい。
光る宇宙のイメ ージも描きくわえだ
「めぐりあい宇宙編」 は最初「光る宇宙」と いうタイトルの予定だ った。でも光るといっ てもイメージがピンと こないだろうというこ とで、だれにでもわか るように「めぐりあい ……」にかえたという エピソードがある。 当初〝光る 〟と つけようとしたぐらい だから、描き直しの部 分も宇宙空間の部分や ポイントポイントで背 景などで光るものがず い分出てくるそうだ。 安彦氏によれば、宇 宙空間などでも光るも のはたくさんあるし、 見る人は楽しみが増え ると話してくれた。 ではこの光は、ガン ダムの中でどのような 意味を持ったのだろう。 ニュータイプの世の中 がくるという希望の灯 だろうか? それとも ステージ上の役者を照 らし出すスポットライ トの役目があるのだ ろうか。 テレビ版では三つの 光るものがある。①戦 いの激化を象徴する宇 宙空間に飛びかうビーム。 ②光に包まれて 消えてゆく、ララァの乗るエルメス。③ア ・バオア・クーのソーラ・レイシステムの 収束ビーム。これら三つに共通しているの は戦いの激化と、死にゆく者への悲しみだ。 とすれば光とは仏様の後光のようだー。
ミライとスレッガーの口づけ のとう突さも今、考慮中です
AN. テレビ版でいえば360話の「恐怖! 「機動ビグザム」で、スレッガーにミライ が突然「死なないで下さい」といい口づ けをかわすシーンがありますね。 ミライ とスレッガーの関係が不明なんですが。
Yasuhiko. ミライに軟弱なフィアンセがいて 自分の方が女でありながら強くなってし まった。男にものたりなさを感じた時ス レッガーに殴られ心を動かされた。これ が伏線というのが富野演出なんです。 ブライトはもてそうで、もてない。 設 定の段階から、ブライトはマフラーは編 んでもらえるけど、本当はもてない男な んだろうなと考えていたんです。このへ んは説明しすぎるとヤボになるけどね。 今のところ、このエピソ ドはわりとそのまま入っ てくると思いますよ。ただ とう突さがいいのか悪いの か、どう描き直すのか。 ここはむずかしいところ でもあるわけですね。
ギレンとキシリアも描き加え
AN.「めぐりあい……』 ではジオン軍の 描かれ方が少ない。焦点がアムロやシャ アにしぼられるからだが、あまり省略し ていると対戦国の内政的なものがわから ず、キシリアがギレンを殺すという動機 もわかりずらくなる。 ・ア・バオア・クーのギレンはソーラ・ レイを使った。この作戦の意図はキシリ アにはわからなかった。ソーラ・レイは 地球連邦軍の大半を破壊した。と同時に 父デギン公王をも殺してしまった。 キシリアが兄ギレンを撃ったのは父殺 しに対する憎しみだったのか、それとも タイミングのずれた和平工作を阻止する というギレンの指揮者としての限界に見 切りをつけたのか。 「意外と……兄上も甘いようで」という のがキシリアの兄殺しのときの手向けの ことばだった。ここがわからないとなぜ シャアがキシリアを撃つようになったか の説明もむつかしくなるのですが?
Yasuhiko. この部分にも描き直しがかなり入 ってくると思うんです。確執のようなも のが、各自の行動の背後に見えなければ、 面白くないし……。 ここがちゃんと描かれることにより ジオン軍対連邦軍の和平協定締結の背景 が、はっきりとわかるはずだ。そういう 意味で重要な場面だ。
ジオンのニュータイプ、シャ リア・ブルはカットされる!
AN. 3時間半分もある第一稿からさらに 2時間10分位にしぼるとすれば、テレビ 版にあった話、あるいは出た人物などが カットされざるをえないでしょうね。具 体的にいってどこが、そしてだれがカッ トされるのでしょうか。 現在さしつかえ ない範囲で、語っていただけますか。
Yasuhiko. そうですね。テレビ版でいえば第 39話「ニュータイプ・シャリア・ブル」が 全部といっていいほどカットされると思 いますよ。 ララァとアムロ、そしてシャ アとニュータイプが登場してくる。もう そこを描くだけでも時間内(映画の)に 入るか入らないかというぐらいですから。
AN. ただ39話には、ララァが初めて実戦 に出るシーンや、再会したシャアとセイ ラのエピソード、兄シャアが妹セイラに 金塊を渡しホワイトベースを降りるよう にすすめたこと、ホワイトベース内では アムロの反応にガンダムがついてゆけな くなったことなどが盛り込まれている。 全体の流れを考えるとき、これらのエ ピソードは切り離せないだけに、多少前 に持っていくか、演出的な方法でイキて くるだろう。とすれば、シャリア・ブル だけがカットされそうだ。
戦闘シーンも多少 描きくわえました
新メカの登場はない。ただ絵的にはか なり描き直しが入るそうだが、基本的には テレビ版をそのまま使うというのが多いそ うだ。 戦闘シーンのひとつだろうが、ガンダム や、ホワイトベースが画面のロングから、 動画でヨロヨロと手前に進んでくるような カットでおもしろいエピソードがある。
Yasuhiko. ロングから手前へ10秒ぐらいかけて 進んでくるカットがあるんですが、ああいう シーンはたいへんお金がかかるんですよ。「宇 宙戦艦ヤマト」ではよくやってるんだが、あ れはたくさんのスタッフとお金を持ってい るからできるんです。 ガンダムの場合どう かというと、カメラワ ークで手前にトラック アップして処理をした り、あるいは絵が横位 置だったら、絵そのも のを手で引っぱるんで す。ガンダムはいって みればとても厳しい条 件の中でやったという ことですね。 なるほど、わずか 数秒単位の戦闘シーン のカットにもずい分と 苦労があるわけで。そ れだけ苦労して作り上 げただけに、見る人の 心をもまたゆさぶるの でしょうね。 「めぐりあい・・・・・・』 で は戦闘シーンをただか っこいいという気持ち だけでなく、その苦労 そしてなぜ描き加え、 描きかえたのか考えな がら見るのも楽しそう。 そんな見方をすると 表面のドラマのハデさ とちがってアニメを作 る人たちの熱意や息吹 を肌で感じられるんじ ゃないかな。
1982
January
Comment [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, Animage]: 日本サンライズ宣 伝部提供の写真のな かに、テレビシリーズでは見たこと のないキャラを発見。さっそく、こ の美しいセシリアについて、安彦氏 に聞いてみた。 「このセシリアというキャラは、ギ レン・ザビの秘書で、 ギレンのまわ りがさびしいなあということで、 富 野さんが配したキャラです。けれど も、セリフはひとつもありませんし、 数カットただ立っているだけなので、 ニューキャラ登場とはいわないでほ しいんです」 という答え。『ガンダムⅢ』でも、 基本はあくまでもテレビシリーズと いう考えかたが貫かれている。 「キャラ修整はすべて富野さんの指 示です。 ララァは私服をいつまでも 着てるのはおかしいし、ダーク・グ ーンでも色気がない、ということ で、新しい士官服に。また、ぼくが かかわれなかったテレビシリーズの ゲストキャラで、フラナガン博士は ロングが3カットあるだけですが、 ずっと気になっていたので、感じを かえることになりました。 それと、シャアですが、親しいラ ラァといるときに、あのマスクは不 自然なので素顔になおすように、キ シリアと話すときも、表情がわかり にくいのでマスクをとるようにとい う指示があったんです。つまり、シ ャアの素顔がふたつふえたわけです」
超一流の実写監 督と、アニメの一 流監督が同じアニメの仕事をしたと き、アニメ監督のほうが確実にいい 仕事をします。そのぐらい、アニメ の演出は特殊なもの。それなのに、 アニメ作品に実写の監督をつれてく るのは、企画者、プロデューサーの 発想があまりに貧しいということで す。実写監督のネームバリューに頼 って作品を作ろうという考え方は、 うしろむきなんですね。実写の監督 にアニメスタッフの補佐役をつけれ ば多少はちがうかもしれませんが、 それにしても仕事を頼むのはムリだ と思います
February
Interview [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, My Anime]:
MA. それではまず、現在の進行状 況からお伺いしたいんですが。
Yasuhiko. 今は90%ぐらいでしょうか。
MA. そうすると、いよいよ大詰め というところですね。
Yasuhiko. いや、おまえたちならこの程 度しかできないから、それで泣いて やろう、という最低ノルマの90%ぐ らいだから、それ以上やりたいとい う最初の目標からみれば、あと2割 ぐらい残っていると思います。 九百カットぐらいが僕の最低責任 になっていて、それ以外に原画とし て、テレビシリーズをやってくれた 原画の人が途中から入ってきてくれ ました。その人たちに数十カット、 場合によっては百カット近くやって もらうつもりです。
MA. 理想としては何カットぐらい が望ましかったんですか。
Yasuhiko. 一応、千二百~千三百という のがあって、どこまでそれに近づく かっていうことですね。なるべくや ってしまうつもりですけどうちょっ ととどかないかな。納期を遅らせれ ばできるんですけどね(笑い)。納期 はきっちり守りたいと言われてるん です。ふつうの長編映画となると、 封切りの前々日にできたりするんで すけど、今回は二週間ぐらいみてい るんです。試写もやりたいとか、い ろいろあるもんですから……。
MA. あと二週間遅れてもいいとし たら何カットぐらいできますか。
Yasuhiko. だいぶできると思います。百 ぐらいは..。
MA. 見るほうとしては、二週間遅れても……。
Yasuhiko. 百や百五十増えるのと、試写 会も何もできないというのとどっち がいいんでしょうね(笑い)。
MA. それでは、パートⅢの新作部 分が具体的にどのようになっている かということをお聞きしたいんです。
Yasuhiko. ストーリーはテレビシリーズ とあまり変わっていません。ポート Ⅱの時は、死ぬ人の順番が変わった 泣いているところでケンカした り、いろいろ変わったんですが、今 回はそういう変更はなく、絵ヅラを 見栄えよくするというふうです。そ んで、量的にはたくさん直して いるんですけど、印象的にはどうだ ろうかという感じがしますね。
オープニングは、 話のドレンから
MA. パートⅢはどこから始まっているんですか。
Yasuhiko. 32話です。ドレンのキャメル 艦隊とホワイト・ベースの戦いから 始まります。
MA. では、ビグロやザクレロは出 ないんでしょうか。
Yasuhiko. 出てきません。あまり出しす ぎると気が散っちゃうんです。
MA. セイラがシャアを思い出し、 セイラが、「私は認められない、兄さ んのやり方」と言うところは。
Yasuhiko. 入ってないんです。
MA. ドレンとの戦闘シーンとい と、ストガーやハヤト、カイ, セ イラたちのチームワークで倒すとい うところですね。
Yasuhiko. ドレンというキャラクターは 何となく好きなんです。ただ、あれ はなくなると思ってたら、イキてた んで、よくイキてたなあという感じ ですね(笑い)。
MA. 描き直して、迫力的にはどうですか。
Yasuhiko. 富野さんが絵コンテを変えて るから、流れは変わらなくても印象 は違ったものになると思います。ヒ 牛の絵がくなりますね。
MA. 33話では、シムス・アルのブ ラウ・ブロが出ていますが、これは どうなりますか。
Yasuhiko. あれは出ていません。
MA. あと、ミライとカムラン、ア ムロとテム、その辺のからみはどう でしょうか。
病気をしてしまい 未練を残した34話
Yasuhiko. 直しはありますけど、絵コン テ的には同じです。 あのあたりは悪 くないと思うし、絵だけを直せとい うことだろうと思っています。特に 34話ですね。34話っていうのは、個 人的に未練があって、トータルでど ういう話って言えないんだけど、い ろいろなエピソードが詰まっている んですよ。その、どのエピソードも 好きなんです、小味がきいてて。 こ れはいい話だから一所懸命やろうと 思ったら、二~三十カットで病気を してしまいました。好きだというこ とと、やり残したという思いが一番 強いのが34話で、なるべくたくさん 直したいですね。
MA. 34話では、アムロとララァが 初めて会うんですけど、そのシーン は….。
Yasuhiko. 描き直しています。 ララァは ほとんど描き直しています。
MA. あの時のララァのセリフで、 「美しいものが嫌いな人がいて?」 というのがありますが、シャアのこ とも含めて言っているんでしょうか。
Yasuhiko. どうなんでしょうかね。あん まり深読みしなくてもいいと思いま す。絵を描くほうにしてみると、白 鳥なんか描いたことないから、白鳥 のシッポってどんなんかな、なんて 言いながら描いてます(笑い)。
MA. アムロとシャアも初めて会うわけですね。
Yasuhiko. そこはおもしろいですね。
MA. アムロはシャアだと気がつく わけですが・・・
Yasuhiko. あれはは気がつくでしょうね、 笑いし(笑い)。ニュータイプじやな くても気がつくんじゃないか思いますね。
MA. シャルとララアがモニターを
Yasuhiko.古いフィルムをよく覚えてい なんですけど、ララァのカットで テレビのものがイキているのは数カ トです。ララァの風防が壊れて死 タイミングも し、絵も悪 ので描き直 てもいいと あそこは、 になりました。あとは全部直し いう指示がきました。 きました。
MA. 35話で、シャアがララァの とを、「私の妹、とでもしておいても らおう」というところのシーンは。
Yasuhiko. あれはないです。 こなくなってます。
戦闘シーンは力及 ばず、そのままで
MA. 連邦軍のソーラシステムはどうでしょうか。
Yasuhiko. あそこはほとんど描き直して いません。人の芝居に関するところ を重点的に直しているので、戦闘シ ーンなどはそのままになっているん です。そこまでは、力及ばずという ところですね。
MA. ハヤトがケガをして、「アムロ に勝ちたい」というシーンは。
Yasuhiko. あそこは、どうしても芝居を ちゃんとやってやらなきゃいけない と思います。長いやりとりをやって いるんだけど、富野さんが、あれを 一カットでやってくれと言いまして ね。まあ、二~三カットになると思 います。
MA. テレビシリーズでは、このこ ろからアムロの気持ちがフラウに傾 いていくような……。
Yasuhiko. フラウ・ボウに? そうじゃ ないと思いますよ。そうだといいん ですけどね。
キャラクターを芝 居させている36話
MA. 36話では、ミライとスレッガ ーの急接近があり、そして、スレッ ガーが死んでいくんですが・・・・・。
Yasuhiko. そこはそのままです。そのシ ーンは、キャラクターをちゃんと芝 居させてくれているので、あのまま でいいだろうということになりまし て……。 直す理由がはっきりあると ころは直しますけど、そうじゃない ところは、テレビでやってくれた人 の作業を大事にするという意味でも 積極的に残すところがあってもいい んじゃないかと思います。
MA. 36話で、 ドズルがビグザムで ガンダムと戦って負けた時、後ろに 悪魔のような影が出てきますね。
Yasuhiko. あれは、「悪魔って言ったら、 悪魔描きやがった」って富野さんが あとで怒ってた(笑い)。あれは、イ メージの問題で、悪魔じゃなくして くれって言われてるんです。じゃあ 何を描けばいいのか? 今、悩んで るところです。あのシーンで気にな るのは、ドズが兵隊のノーマル・ スーツを着ているんです。えらい人 なので、もっと飾りのあるものを着 せてやりたかったと思ったんだけど、 逆に富野さんからあのままでい いうことでそのままにしてありま す。 の頃、来月号につく)
Comment [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, Animedia]: 『ガンダム』には、ララァに限らず それぞれにたくさん思い出がありま す。とくに、キャラクターが自然に 芝居しているところが、とても印象 に残っていますね。フラウが3話で 服を着がえなさいといっているとこ ろとか、ブライトが初めてアムロを なぐるところとか、数えきれないほ どありますね。ぼくは、どちらかというと いわゆる名場面よりも、演出や絵かきさん の持ち味が生きる”さりげないところ”が 好きなんですよ。 『ガンダム』っていうのは、結局エピソー ドの集約じゃないかって思うんです。テー マ、ドラマじゃなくって、自然ないくつか のエピソードの中に感情移入できるものが あって、その積み重ねが『ガンダム』だっ たんじゃないかなって気がしますね。
March
Interview [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, My Anime]:
MA. 映画全体のストーリーは、 T Vシリーズの流れとほとんど変わら ないということでしたが、それにし ては描き直しのカット数が多いです ね。かなり見栄えが良くなるという ことなんでしょうね。
Yasuhiko. うーん、なんとも言えません けれど、直すんだから少しは良くな ると思います。かえって悪くなる部 分があるかもしれなかったり(笑い)。 2年前にTVシリーズで見たときは 「あっ、けっこうきれいだな」と思 ったんですけれど、もうだんだんみ んなが凝るもんだから、今はずいぶ ん派手になっていますよね。僕らの 時代… 3年前でも透過光などはぜ いたくて使えなかったんです。「冗談じ ゃない。予算をどう考えてるんだ」 って言われて。今は、テレビでも透 過光は当たり前になっちゃった。あ る部分では、着実にテレビのレベル が上がっているというか、作り方が ぜいたくになっている。 今回の映画 版は、新作映画のレベルでやろうと しているんならいいんですけど、そこ まではいかなくて、今のテレビアニ そんしょく メのレベルに遜色ない程度までは、 持ち上げてやらないと無残だという 感じです。時間のギャップというの を、ファンは見てくれませんから、 テレビより見劣りするようじゃ困り ますね。
MA. テレビと映画で、描き方を変 えたようなことはありますか。 ブラ ウン管は中から光が出てくるわけで、 映画はスクリーンに反射した光を見 るわけでしょう。
Yasuhiko. テレビだと透過光を使ってな くても、ホワイト塗りのブラシをか けると、わりと光って見えたりする んです。でも、スクリーンに映ると 歴然と違うわけですよ。「あっ、塗っ た」ってね(笑い)。テレビは全体が 発光してるから、わりと派手に見え るけれど、映画は正直に映ってしま います。TVシリーズの頃は影をつ けてもらえなかったから、ノペーッ としてるわけです。あれを大画面で 見ると、やっぱり「耐えられん」っ てね……(笑い)。
MA. 本題に入りますが、今回は第 37話「テキサスの攻防」から話を伺 いたいと思います。 マ・クベがガン ダムと戦わないということでしたけ れど、ストー -が変わるのではな いでしょうか。
Yasuhiko. いいえ。変わってないです。 マさんが(笑い)、ギャンに乗ってど うこうする部分がなくなっただけです。
新作カット多数のテキサスでシャアが乗馬姿で出現
MA. マ・クベとアムロのからみの あと、シャアがアムロと戦うシーン は残るわけですね。そのあと、セイ ラとシャアが再会するのですが、そ の発端が、 マ・クベにおびき出され アムロを捜しに、セイラがテキサ スに来ることに始まっているんです ね。あそこでマ・クベが出ない となると、セイラたち がテキサスに降り る理由というのはど うなるのですか。い きなりテキサスに行っ ちゃう? ナレーショ ンで説明したりするわけ れそイン ですか?
Yasuhiko. 僕が あそこはい らないってギ ャアギャアと 言ったんですけ れど、たしかに 後で見直してみる と、前後の話が、 全部からんでるから あれはちょっとまずかったかな…. 「マ・クベを消したくらいじゃロク にカット数は落ちないよ」って富野 さんに言われたんです(笑い)。あ そこは、わりと直しのボ リュームがあ るんですけれど、 なぜテキサスで出 会ってしまうのかなというのがよく わからないんです。丹念に見ていく どうかわからないですけれど、説 明をくどくしてるようでもないです ね。場面の流れで、見てわかるんじ やないでしょうか。それほど理路整 然とはしていないです。
MA. その後、シャアがセイラに金 を送ったり、シャアとセイラの会話 をブライトが盗聴していたりするん ですね。
Yasuhiko. あれは、ほぼTVシリーズと 同じ流れていってます。二人の会話 の内容は変わったみたいですけれ どね。
MA. 二人の会話でわかりづら い部分がたくさんありましたね。
Yasuhiko. で、今度もわからない 会話がたくさんある(笑い)。
MA. ニュータイプがから むと依然、悩んでしまうの です。シャアは、ザビ家 への復讐のためにジオン 軍に入ったのですが、 アムロと戦っているう ザビ家を倒し けでは人類の真 平和は得られな と思うようにな って、それをセ イラに告白する わけですね。言 葉ヅラだけ聞いている 納得するのですが、「・・・はて・・・ は真の平和とは、なにかな」って疑 問が残ってしまうのです。セイラも シャアがジオン軍に所属することを 非難するくせに、ガンとしてW.B を降りようとしない。
Yasuhiko. ガンとしてというよりも、た とえ兄に「降りろ」と言われても、「は 「いそうですか」と降りる理由がない んです。そんな娘じゃないんです。
アムロとララァの美の世は大画面で映画館を包む
MA. 第39話はほとんどカットされ るようですね。第4話でガンダムの 性能をアップするために、マグネッ トコーティングをするのですが、そ の理由がシャリア・ブルとの戦闘で ガンダムがアムロの反射神経につい ていけなくなったということでした ね。それで、シャリア・ブルが出な いとなるとガンダムはパワーアップ されないのですか。
Yasuhiko. ないですね。モスク・ハンと いう博士も出てこないです。 ストー リーの流れでは、特にガンダムのパ ワーアップは重要ではないですよ。 その後も、性能が良くなったとか悪 くなったとかいうセリフがないから いいんじゃないですか。
MA. あのエピソードは、アムロの 能力が発達してきたという表現なの だろうと思うんですが。
Yasuhiko. TVシリーズという長尺があ ればできるという話で、映画の中で どうしても入れなけれ ばならないという部分 じゃないと思います。 それであっさりと切っ たんじゃないかな。
MA. 第40話からいよ いよララァとアムロのからみが盛り 上がるのですが、 ララァの能力的な 表現とか、エルメスの操作、ビット の動き方などで、TVシリーズとの 違いはありますか。
Yasuhiko. いいえ、あまり変わっていな いですね。わりとそのままの絵が多 いんです。今から間に合えば直そう と言ってるんですけれど、最終的に どうなるか……。
MA. ララァはほとんど描き直すと 言ってましたね。
Yasuhiko. 絵的には全部じゃないかな。 富野さんがこだわるキャラクターと いうのがあるんですよね。二部のと きはセイラがそうだったんです。 テ レビの絵と新作の絵が入り混じると にこだわるキャラクターというのが あって、ほとんど全部直したんです よ。今度はセイラとララアです。 セ イラの入浴シーンも直します。 あれ はレイアウトがまずかったみたいで すね。一部のミライさんのシーンも 脱衣所があって、銭湯みたいになっ ちゃってね(笑い)。
MA. ララァを全部直すということ はエルメスのコクピットも描き直す ということですね。
Yasuhiko. ええ。コクピットの中は、少 表現を変えようと言ってます。
MA. 二部では、ニュータイプのイ ナズマがずいぶんたくさん走りましたね。
Yasuhiko. 今回は控え目です。 残像が長 すぎたんですね。最初は「あれ、今 イナズマだったのかな?」という ぐらいにしようと申し合わせていた んですけど、だんだん残像が長くな って、はっきり残ってしまったんで す。あれは、あまり良くない。
MA. アムロとララァの場合、戦う シーンと、イメージの世界とでは、 どちらに直しの比重がかかりますか。
Yasuhiko. イメージシーンは、なるべく 丹念に直そうということで、今やっ てる最中です。やはり、あれを大画 面で見るとイメージにならないので はないかという不安がありまして、 スクリーンに耐えられるような絵に 少し近づけなければいけないという 指示が出てます。 背景も少し変わる と思いますよ。 こぼしちゃうのも出 てくると思いますけどできるだけ直 そうということでやってます。
新事実!? ザビ家四兄弟は異父兄弟だったのか…!!
MA. 第41話の最初にシャアとキシ リアが対面するシーンも、会話が謎 めいてますね。
Yasuhiko. の部分は少しボリュームが 増えてます。シャアがマスクを取っ て、素顔で対面してるから、芝居的 にはわりとふくらんで見えるんじゃ ないかと思います。ただ、あの二人 はどういう関係なのかというのがよ くわからないですね。スタッフがこ ういうことを言っちゃいけないんだ けど(笑い)。 最後にシャアがキシリ アを撃っちゃうんだけど、あのへん の流れがあまりよくわからない。あ まり詮索しないで見ればいいんじゃ ないかなあ(笑い)。
MA. シャアとララァの関係も、は っきりわからないですね。敵(連邦 軍)のニュータイプが参戦している のを知って、単にララァを兵力とし て連れてきたのかとか、キスシーン はあるけれど、はたして恋愛関係だ ったのかという疑問があります。
Yasuhiko. それも、たいして深読みしな くていいんじゃないかと思います。 シャアにとってララァはなんだった のかというのが、多少クエスチョン といえばそうだろうと思いますけど ね。ララァのほうは「私の大事な人」 という、もうそれだけでいいんじゃ ないかと思います。 その人を傷つけ ちゃいけないとか考えて、ただそれ だけなんだろうと思いますよ。全部 通して見てみると、シャアは、けっ こう純情なようですね。
MA. ジオン軍のソーラ・レイの迫 力はどんなものですか。
Yasuhiko. あのへんまで直しの手が及ぶ かどうか、あまり自信がないけれど、 ちょっと微妙なとこですね。
MA. あの場面で、 ギレンの父親殺 しがあるのですが、その仕掛けがは っきりしませんでしたね。一応、”ワ ナ”であると発表されていますが、 あれはどうでしょうか。
Yasuhiko. デギンを殺さなければいけな いという切実なものはなかったと思 うんです。ワナ”というのでもなく ただ和解に行ってチョロチョロ されちゃ困るから、じゃあ一緒にや ってしまえということなんじゃない ですか。 前からデギンを亡き者にし ようと狙っていたというしがらみで はないと思います。 前から冗談で言 ってたんですけどね、あの兄弟は父 親が全部違うんだよってね。だから 顔も似てないし(笑い)。ただ、個人 的に残念だなって思ったことがあり ましてね。ザビの兄弟が、もともと 仲が悪くて、お互いに殺し合っちゃ うわけですね。あの関係の中でシャ アの思惑がもうちょっと色濃く入る 大きな意味でのあだ討ち話がそ のまま生きてきたんじゃないかって 思うんです。かなり壮絶な話にもな りますしね。
ニュータイプ * シャアはど のように表現されるのか
MA. 一部、二部を通して、ニュー タイプがドラマの前面に押し出され てきているわけですけれど、シャアの ニュータイプの能力の表現というの は三部ではどうなるのでしょうか。 ジオングに乗るわけですけれど、あ れはサイコミュを使ってますね。T Vシリーズより、シャアのニュータ イプ能力というのが色濃く出そうな 気がするのですが。
Yasuhiko. ニュータイプの定義というの はさておいて、シャアは、自分では たいした能力は持っていないと自覚 しているみたいなんですね。ニュー タイプのなりそこねか、落ちこぼれ ぐらいだというコンプレックスが、 すごく強いんですね。だから、あそ こはあんなものでいいんじゃないで すかね。
MA. シャアのたくらみ”という のがあるのですけれど、ニュータイ プを集めて独裁する気だったのでし ょうか。
Yasuhiko. TVシリーズのときよりは、 ストーリーを通して見るということ もあるし、そのこと については少し補足 されてもいるから、 わかりやすくなるん じゃないかと思いま す。ただ、はっきり わかるかどうかって いうのは、あだ討ち 話をどの程度引っ張 ってるかっていうの がありますね。ソロモンでドズルが 死んだっていうのは、シャアが手助 けしてやりゃあ死なないですんだん ではないかとか、ザビ家の不仲につ け込んだシャアの思惑は、ひとつひ とつあるわけですよ。キシリアがギ レンを撃っちゃおうというのも、「お やじを殺した。けしからん。撃っち ゃおう」というんじゃなくて、シャ アが彼らの仲が悪いことを見越して キシリアにギレンを撃たせるという のがあると、すごく不気味になって シャアというキャラクターがかなり 意味深に、もうちょっと強く出たん じゃないかと思います。でも、もう かたき討ちはどうでもいいんだって 言ってるんですよね。セイラに もキシリアにもそういうような ことを言ってる。
MA. で、その後また、キシリ アを殺しに行く(笑い)。
Yasuhiko. あのあたり、あまり本音でも のを言わない男だと思うので、どこ までが本音で、どこまでがたてまえ なのかというのは、映画でもやっぱ わからないでしょうね。
新作ラストシー
MA.ンにララが登場するかもしれない 第43話は全部描き直したいと 言ってましたが、どうなるのでしょ うか。
Yasuhiko. 最終回は4分の3ぐらい直し になるんじゃないですかね。 300カッ トぐらい直すと思います。 やはり、 最終話は、34話とは別の意味でこだ わるんです。他の話数はともかく、 最終話となるとキャラクターを統一 したいという思いが出てくるんです よ。時間切れでおっぽり出すのも出 てくるでしょうけどね(笑い)。
MA. 絵コンテは変わってますか。
Yasuhiko. ずいぶん変わってます。 流れ はたいして変わってないのですが、 アングルが変わったり、アクション が変わったりするのもあります。
MA. ラストシーンでアムロが脱出 してみんなの所に帰る途中、アムロ はララァに話しかけますね。そこで ララァのイメージが出てきそうな気 がするのですが、どうでしたか。
Yasuhiko. ええっと・・・どうでしたかね。 コンテを見ないとわかりませんが出 てたかもしれないです。あの流れは いいと思うんですよ。とくに最後、 子供たちが締めてくれたっていうの は、感じとして優しいし、いいなァ 思う。
MA. カツレツ、キッカですね。 あの子たちがニュータイプだという 表現は、はっきりするのですか。
Yasuhiko. みんながあそこでコミュニケ ーションできちゃうんですね。で、 子供たちが一番敏感で、というふう な話になってるけど、「みんながニュ ータイプだった」でいいんじゃない かという気がします。たとえばブラ イトなども、自分がニュータイプだ なんて全然思ってない。「あいつら、 いいなあ」って感じでいるわけだけ れども、わりとピピンとくるから助 かっているという部分があるわけで すよ。そういう意味で、あのクルー は全員ニュータイプじゃないかと・・・ もっと拡大して、ニュータイプなん てのは、気の持ちようで誰でもなれ るんだというふうに考えてもいいと 思うんです。テレビの流れでいうと ララァが出てきて、シャリア・ブル が出てきて、イナズマが走って、イ メージシーンがあって、「ほんとにま あニュータイプってのはすごいんだ なあ」と思うでしょう。その延長線上 にラストシーンがあって「みんなが 呼び合えたんだから、ああそうか、 ニュータイプってそういうことだっ たのか」と、なにか包み込みが優し くなっていると思うんです。
April
Comment [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, Animedia]:
パートIIIの新作は75 パーセントにもおよぶ。 劇場版に対し、これほ どまでに情熱を傾けて 作画にとりくんだ作画 監督の安彦氏に、その へんのことを語ってい ただいた。 「テレビのとき、33話あたりからラスト スパートをかけて、つづけて作画監督や るつもりだったんです。そしたら、かき 始めたあたりでコケちゃって…。 未練 の度合からいっても、36話ぐらいまでの 話というのは、すごく未練があって…….. あれはやりた かった。37~ 42話絵コン テを見ていな かったので知 らないんですけど、最終回はどうあって も自分で作監やるつもりだったんです。 富野さんのストーリーメモを読んで終わ り方は、知っていたんです。ハッピーエ ンドで包んだような終わり方で、良い終 わり方だなと思ったんですね。 そういう意味で、今回はラストシーン、 ラストカットまでやっているからずい分 すっきりしました。できたら全部やりた かったという気もしますが、それをいい だすと再編集ものは、何なのだろうとい うことになるから……。 今回、新作部分が約1200カットで、 動画3万枚位あるんで、Ⅰ・Ⅱの時とは 逆に旧作が目立つんです。もう主な芝居 のところは九割位やったんですが、戦闘 シーンまでは手が回らなくて。時間的に いうと新作が約1時間40分位かな。もう 少しやりたかったなぁ・・・という気分です」
June
Comment [for Mobile Suit Gundam III – Encounters in Space, My Anime]:
Growth 1: 戦いが終わり、平和が訪れるとニュータイプは伝説となって
MA.「ガンダム」はとうとう終わっ てしまった。終戦協定が結ば れた後、WBのクルーはどう するのだろうか。カイなどは、 ポイと軍を飛びだすような気 がする。アムロは、また元のメ カ好き少年に戻るのか、職業軍人 で、軍 にて、 にとどま るのか。母の もとへ帰るのだ ろうか。誰も 知っている 人のいない所でひっそ りと暮らすのか。
Yasuhiko.「アムロが母と別れて 暮らすようになったのは5 ~7歳くらいのときですよね。イメ ージに残っているお母さんていう のはおっぱいくさいんです。そ れにひかれて会いに行ってみ ると、ずいぶん変わっていた んです。お母さんじゃなく て自分がですね。だから母 を慕って戻るということは ないでしょうね。 戦争であれだけのことを したんだから、軍の学校と かに入れてもらうと思うん です。まだ教育課程も終わ ってないんだから。でも、お そらく、そうしてもらっ もだめじゃないかという気 がするんですけどね。『おか しいな……あのときのこい つはもう少しすごかった のにな』という感じでね。そのうち だんだん忘れられていくと思うんで すよ。平穏になると、みんなあぶく となり、消えちゃう。おかしいなっ て話になって、(ニュータイプの) 神 話だけが一部に残るというふうにね」
MA. 彼が戦士として歩み始めたのは、 偶然からだった。アムロとしては不 本意だったろうに、戦いが終わると 忘れ去られてしまうのか!?
Growth 2: おさななじみの想い出は、戦火の煙とともに流れていった・・
MA. フラウは第1話で、一瞬のうちに 孤児になってしまった。アム 口はそのとき、フラウの ために涙を流したが、 それ以後、フラウのた めに流した涙はない。
Yasuhiko.「TVシリーズで は、アムロがフラウに りましたね。きつすぎる芝居なんか があって、ああまですることはない んじゃないかって部分が、ごくまれ にありましたね」
MA. アムロは、めぐりあいと別れを重 ね、思い悩み、苦しみながら成長し ていった。ふと振り返ると、そこに はいつもフラウがいた。戦闘で疲れ きったとき、戦争がいやになったと き、戦友の死に涙するとき、自分の 置かれた立場に悩むとき、いつもア ムロを見守っているフラウがいた。 アムロがWBを脱走したときも、フ ラウはただ一人、アムロを追いかけ ていった。しかし、当時のアム ロには、フラウのやさしさを受 け入れるゆとりはなかった。
Growth 3: メカ好きの少年は戦いの中で成長し、やがて大人になって……
MA. ハヤトは、アムロに一種のコンプ レックスを持っていた。フラウの気 持ちをアムロにとられたことで、ア ムロに対する競争心が、ハヤトを支 配していた。負傷して戦闘から離れ ると悔しがり、復帰するとき は「休んだ分頑張ります」と 言って出撃する。女が影響を およぼす力は、かくも偉大な のだ。
Yasuhiko.「第3部でケガをしたの をきっかけに、(フラウに) 介 なんかされて、フラウも、ア ムロは(自分とは違う人間だ っていうふうに、なかばあき めちゃっていた。(それでい ヤトはフラウと)仲良くやれ そうだな、恋人になれそうだ なっていうのがあると思う。あ のシーンでアムロがブリッジから出 てくるときに、ちょっと(フラウと ハヤトを)振り返って見るところが ある。あれは、ひどい言い方をする と、アムロが大人になっちゃってる ということで、ハヤトに彼女をあげ よって気分でしょう。それで、最 後に(ア・バオア・クーを脱出すると きに『僕の好きなフラウ・ボウ』っ て言うとこがあって、あの辺は『大 人になるんだよ』っていうひとつの 描き方じゃないんですかね」
MA. ハヤトはついにアムロに勝てなか ったと悔しがる。その後アムロは次 第に、フラウにやさしくなった。
Yasuhiko.「(心が)離れるっていうのは、そ ういうもんじゃないですかね。それ がすんだら余裕ができて、やさしく してやれる」
MA. かつての隣組の顛末だ。フラウと ハヤトの結婚はあり得るか?
Yasuhiko.「するんじゃないんですかね。 わりかし……」
Growth 4: 戦場に、窓は静かにはぐくまれ、戦場で失った恋心はどこへ
MA. ブライトは、戦争がなければ、職 業軍人としてエリートコースをひた 走ったに違いない。しかし、シロウ トのアムロの戦いぶりを見て、ニュ ータイプに対するコンプレックスを 持ってしまった。しかし、彼は、戦 争が終結しても軍人をやめないだろ う。彼はそれほど器用な男じゃない のだ。ミライとブライトの将来はど うなるのだろうか。
Yasuhiko.「(結婚は)永久にしないんじゃ ないかと思いますね。TVシリーズ にはなかった、Tシャツをつくろっ てやっているシーンがあって、あの ときはミライがブライトに対して世 話をやきたいなって気分になってい る。そう悪い男じゃないし、しっか りしているし、一緒になってもいい からって気分でつくろいものをし ているわけですよね。それでカムラ ンのことをブライトが聞いたときに ミライは、『違うのよねあの人』 と… 言外にブライトのほうがよっぽど男 らしいと言ってるわけですよ。そ のとき素直に、男らしく受け止めた らいいものを、いじけるでしょう。 『俺は不器用だから』とかね。さら 「人の心は大事に』とか心にもな いことを言う。それで(ミライは) アラーってシラけちゃう」 ミライの持っている男らしさのイ メージはスレッガーが持っていた。 スレッガーのビンタはミライの心を 捕らえたダメ押しビンタ〟だった。
Growth 5: 泣き、苦しみ、励まし合い、哀しんだすべてがなつかしく……
「ガンダム」のキャラクターは、一 人一人が強い個性を持った粒ぞろい だった。 シロウトの寄せ集めだったWBク ルーの中にいて、彼らをかばって死 んだ戦闘員リュウ。 幾度もこの世の地獄を、幼い目で 見ながらWBと行動を共にしたカツ、 レツ、キッカ。 幼い弟妹を育てるため、スパイを していたが、キッカたちを見て参戦 し、大西洋に散ったミハル。 けなげなミハルを見て、一度降り たWBに戻ったカイ。彼はひねくれ もので、軟弱者で、シャ イだったが、悲惨な 恋の結末が彼を成 長させた。 破壊しつくす戦争 の真っただ中にあって唯一創造的な 補給部隊で、命を賭け、散っていっ た麗人マチルダ・アジャン。 マチルダの遺 志を継ぎ、WBを守るために死 んだマチルダの婚約者、ウッディ。 兵士の死にざまを見せつけ、アム ロに多大なる影響を与えた戦争屋ラ ンバ・ラル。 ラルの仇を討つためWBに特攻を かけたクラウレ・ハモン(映画では ハモン・ラル)。 死んでいった者あり、生きのびた 者あり、どちらにしても、物語の中 で周囲に影響を与え、それらの一人 一人がファンの心を捕らえて、過剰 なまでにブームをあおった愛すべき キャラクターたちだった。今となっ ては誰もが皆なつかしい。
Growth 6: 戦争は劫火の中に悲劇をはらみ、産みおとして、焼いてゆく
MA. 最後まで素性の知れなかったララ ア・スン。年齢さえも明かされ なかった。ただひとつ「だから 大佐(シャア)は私のような女を拾っ てくれたんでしょう」というセリフ に彼女の前身の影が見える。
Yasuhiko.「TVシリーズのときは、たし かに絵コンテにあったと思うんです けど、慰安婦のようなことをやって いたんじゃないかと思うんです。若 いけど、よくあることですよね(戦 時中では)。15、16歳でも……」 画面には出なかった悲劇がここに あった。アムロは、ララァとの接触 できっとこのことを知ったに違いな い。だから、「ララァだったらなぜ戦 う!」と叫ん だのだろう。 不幸なおい たちを知り、なぜその不幸を作るこ とに加担するのかという 気持ちも入っていたに 違いない。しかし、 アムロは自分の手で 父を廃人にしたことを 知っていたのだろうか。
Growth 7: 執念の果て、人知れずいずこともなく去っていく者あり・・・
MA. ララァの死でシャアは涙を流した が、恋人に捧げる涙だったのか、ニ ュータイプ能力がひとつ消えたこと の悔し涙だったのか。
Yasuhiko.「日頃、目一杯突っ張ってるや つが、涙を見せるときって、 わりと自己嫌悪とか、自 戒するときとか、そうい う心理状態のときが多い と思うんです。みすみす (ララァを死なせてしまっ て、なんてふがいない人間なのだと いう部分もあるでしょう。 恋人が死 んで、ただそれだけで泣くんだったらめめしいでし よう」 シャアは、 映画の中では 人間が丸くなっていた。TVシリー ズと比べると、したたかさ、狡猾さ などの影が薄くなっていた。ファン の人気を集めたせいか? エン ディングのザンジバルにシャアのシ ルエットが浮かんでいたのに気づい ただろうか。シャアは生き ている。
September
Comment [for Crusher Joe, Animage]: もともと原作にさし絵 を描いていたこともあっ て『クラッシャージョウ』 の世界は、高千穂(遙)さんとぼくのふたりの ものだと思っていたような節があったんです よ。でも、脚本・絵コンテという実作業の段 階で、そうじゃないと気づいた。あきらかに 『ジョウ』というのは、高千穂遙の世界であ るわけですよ。そうしてみると、メイン・ス タッフとして“原作もののアニメ化〟にかか わるのは、これがはじめての経験になるんで す。 つまり、ぼくにとっての問題は高千穂遙の 原作をどう料理するかということなんですね。 たいへん、おっくうな仕事だったわけなんで す。 でもね、やってみるとこれが意外とたの に、原作や原案に対して気は使 原作の料理というのはなかなか知 的な作業のようでね。それに、ひょっとす ると自分は原作者よりエラいんじゃないかと いうような自己満足の気分にもひたれる(笑)。 だいたい、アニメ化しようなんて原作が、ぜ んぜんおもしろくないわけがないんで、こっ ちはそのおもしろさをベースにして、それに プラスアルファをのっけていけばいいわけで すから。オリジナルをやるときのような、手 さぐりの不安感はないですよ。
Interview [for Crusher Joe, The Anime]:
TA. ジョウといえば、やはりフ ァンなら”かっこいい!”と メージがある。
Yasuhiko. ジョウは、 正統派のヒーローではないと 思います。ものすごく現実的 というか、打算的な性格でし ょう。いわば、一種ダーティ なんですね。高千穂氏の小 説の主人公は、そういう性格 のキャラクターが多いんです が、ジョウがその出だしだと 思うんです。 アニメにする上 で、そこは最初におさえてお かなければいけないと思う んですよね。
TA. ジョウは、クラッシャーで ある。クラッシャーとは、宇 宙空間のなんでも屋航路 の邪魔になる小惑星を破 壊したり、船団などのガ ードをしたりと、かなり荒 っぽい仕事もする。時には、 依頼人の足もとを見て、巨額 のギャラをふっかけることも。
Yasuhiko. いちばんの 正統派ヒーローは、 勧善懲悪、正義の 味方で見るからに 美形じゃないかな。 そこへいくとジョ ウは、現実的で泥 くさいんですね。
19という年齢は微妙ですね・・・
TA. ョウのチームは、1歳の ジョウをリーダーに、その補 佐といった感じの50歳は越え たであろうタロス、あとは、 まだミドル・ティーン のアルフィンとリ ッキーである。
Yasuhiko. 実は ジョウは、18歳だと思っていた んですよ(笑)。シナリオを見た ら、だって出てきたんでな るほど”と思いました。1歳と いう年齢は、面白い設定ですね。 18歳未満ではないが、決して 大人ではない大人である ような、子どもであるような、 象徴的な年齢でいいなア と思うんです。 高千穂氏は、 そのへんを意識しているんで しょうね。まずこの19歳とい う年齢をおさえておきたい。 ジョウのやっていることは、 仕事をして金をもらって生き ているんですから、これはま ぎれもない大人ですよね。で も、心情的には、あくまでも 若者なんです。そうした20歳 未満の部分を、ドラマとして 出していければいいな、と思 っています。
なんか面白いなそういわせたい
TA. 『クラッシャージョウ』は、 安彦氏の初の監督作品。原作 の高千穂氏も、そこがポイン だという。
Yasuhiko. アニメーターが監督を やるというのは、宮崎駿さん などがそうでしたよね。ただ、 作画もやりながらというのは、 なかったでしょうね。実のと ころ、最初は監督なんかいら ないんじゃないかと言ったん ですが、いないとやはりサマ にならないということでー ま、なりゆきで監督になっち やったんですよね(笑)。
TA. とはいっても、監督業と作 画となると大変である。ひと り二役の苦しさだ。
Yasuhiko. 全部で2時間15分なん ですが、長くて退屈 だとか、お尻が痛くな ったとか そう言 われるのがいちばん こわいですね。見終 って、なんか知らん が面白かったなって 言ってもらえれば、それで本 望って感じで作っています。
TA. そして、安彦氏は、話はス トレートなものになると言う。
Yasuhiko. 長編アニメとして、今 までにない単純素朴なものに なるんじゃないですか(笑) ただ、単純なだけではつまら ないので良かった”と言っ てもらうためだけでなく、ジ ョウたちキャラクターの生き 方が、どこかに残っていくよ うな作品にしたいですね。
Comment [for Crusher Joe, My Anime]: いままで、い ろいろやってき て、過激というか 肩が凝るというか、(見てて) 疲れる ようなアニメが、最近多いですね。 それは僕も嫌いじゃないんですけ ど、ややそういう作品が多すぎ るかな? という、作り手の反 省が少しありまして、見てもら う人にも、こういう映画ばっか りでいいのか なっていう気 もありまして ね。作るほう でもストレス がたまってく るみたいな… そういうスタ ッフサービス も含めて今回 は楽しくやろ うということで作ってるわけです。 動画枚数は、全編で6万枚くらい になると思 います。 数のわりに は動いて見 えるんじゃ ないかと思 います。コ ミカルな部 分も含めてよく動かしてい て、いわゆる漫画映画的に 動くのが多いですね。
October
Comment [for Crusher Joe, Animedia]: 映画『クラッシャージョウ』の第1の ポイントは、アニメーターの安彦良和氏 が、作品のすべてをとりしきる監督〟 についたことだ。い タロスの必死の表情 わば、定評のある “安彦アニメ”の 決定版! なの である。では、 安彦氏の話を 聞いてみよう。 安彦「原作のあるお話を、映画という別 の形にするためには、脚色役として、誰 かが最終的に責任をとらなければならな いでしょう。 高千穂遙氏の小説のさし絵 僕が描いたこともあって、監督を引き うけたわけです。 監督!っていうと、なにやらエラそう ですが、僕の仕事内容というのは、脚本 高千穂氏と練って、絵コンテを切って、 第一原画を全体の八割ほどやってと現場 の作業で手いっぱいという状態なので、 名前だけって感じなんです。 人手とお金がかからない、というのが モットーでして(笑)、我々にも長編アニ メが作れるんだ、ということを見せたい ってところですか。たとえば、コンピュ ータ・アニメの部分なども、うちのスタ ッフがやっています。僕としては、コン ピュータ・アニメを使うのは始めて なので、違和感のないところにはめ こもうかと思っているんですが、さ てどうなりますか。ともあれ、うち のスタッフが、ある日ただでマイコ ンを手に入れたんで、これはいいや とプログラミングにかかったのです。 なにせ、専門の人にコンピュータの 処理をお願いすると、えらくお金が かかってしまうもので(笑)。 スタッ もおもしろがって作っていますよ。 そうなると、いろんなことがやり たくなるものです。 絵コンテの段階 では、あれもやりたい、これもやり たいと描いていたら、結果的に尺数 が2時間半を越えてしまいました。ホン トは2時間5分くらいでまとめたかった のですが。ちょっと無理なようで、上映 時間は2時間15分ほどになりそうです。 動画の枚数も、4~5万枚をメドにし ていたのですが、このまま行くと6万枚 をオーバーしそうです。なお『クラッシ ャージョウ』は、テレビサイズよりやや 横長の、ビスタフレームで作っています。 このフレームは、上下差を使いたい構図 の時に苦労するんですよ。 さて、映画は小説とはまったく違う表 現方法です。といっても、「クラッシャー ジョウ』のイメージが、まるきり別もの になってしまうのでは困りもの。その部 分をふまえた上で、とびきりおもしろい ものを作りたい。それは、高千穂氏も僕 も同じ考えです。ですから、小説と映画 のギャップはないと思います。 キャラクターも、小説のさし絵とアニ メーションで、べつだん描きわけをして いるわけではありません。ま、自然に絵 が変わってしまったことはありますが。 ただ、リッキーだけは地味すぎるので、 目をちょっと大きくしたり、髪形を変え たり(さし絵のリッキーは、前後左右か ら見たら、どんな髪形かわからんという 困った絵だということもあって……) 多 少派手めにしたんですが。 ともあれ、見終わった後で、とにかく おもしろいと、そして、ジョウってこう いう生き方をしているのかという部分が どこかに残っているような作品にしたい な、と思って作っています」 安彦氏を始めとするスタッフたちが、 ”楽しく”作っている『クラッシャージ ョウ』、かなりのものになりそう 早く3月にならないかしら…。
November
Comment [for Crusher Joe, The Anime]: 『クラッシャージョウ』のスタ は、若い人が多い。まず、安彦良和 監督に、若手アニメーターの活躍ぶ リを聞いてみよう。 安彦「この作品は、若手の人が活躍 している、というより、その人たち が、今後より活躍してくれるだろう と思ってやっています。というのは、 作画を僕の好みでやっているので、 アニメーターの人たちには、マンガ のアシスタントのような仕事をして もらっているんです。若い人たちは、 窮屈な思いをしているかもしれませ ん。 この方法でいいな、と思うのは 描いた絵がほとんど無駄にならない ことです。全編で動画70000枚 近くになりますが、僕がラフ原画を 描いているので、再編集しなくても キチンとつながるはずなんです。 従 来の方法だと、大勢の人が原画を描 くため、最終的にまとめると、どう しても無駄がでてきてしまうのです。 その意味でも、おカネがかかりま せんね(笑)。映画だからテレビより ランクが上でなければ、という考え 方はしていません。我々でも映画が 作れるんだ!ということを見せな いと、映画化することが、どんどん “高嶺の花”になってしまうのでは ないでしょうか。 ともあれ、現在、作画はあと4分 の1を残すだけになりました。絵的 に均一感があり、ムラのない画面に したいですね。」
Comment [for Crusher Joe, My Anime]: この作品を作るにあたって、僕ら スタッフが課題にしていることが2 つあります。 1つは、アニメーションを動かす というのは、手間やお金がかかり、 なかなか難しいのですが、よく動い てワクワクする面白いものを一度作 りたい、という気持ちがずっとあり ました。それが、 ちょうどよい素材 を得、それを作る 機会を得たわけで すから、これはも うがんばって実現品 したいと思っています。 もう1つは、製作日数はいただき たいが、お金は必要最小限でやって みせるということです。こういう作 り方で成功すれば、長編アニメを作 る上での1つの革命だと思います。
December
Interview [for Crusher Joe, My Anime]:
MA. まずは、製作状況をうかがいたいのですが。
Yazuhiko. タイトルバックなんかも含 めて、手つかずのカットが、残り3 00カットぐらいです。こないだ、 やっと2ブロック目のラッシュがで きました。
MA. ごらんになって、思いどおり にいってると思いましたか。
Yazuhiko. 大体こんなもんだろう、と いう感じですけどね。自分の描いた 絵だから、そんなにアッと驚くほど 立派になる わけないの を知ってい るから。高 千穂さんか ら電話がき て、彼も見 たらしいか ら、「どうかねェ」と言ったら「面白 いし、いいんじゃない」って、喜ん でいるみたいでした。原作者が満足 なら、言うことはない。
MA. ギャグっぽい顔やアクション が、想像以上に多かったのですが、 なにか意図があるのですか。
Yazuhiko. ギャグを作ろうということ ではないんですけど、表情やアクシ ョンの芝居をつけていくと、自然に ああなってしまうんです。くずして 楽しむとか、意図的なものではなく、 気楽にやればくずれるというなりゆ きじゃないですか。イメージが狂っ たという手紙をもらったこともある けど、(ジョウやアルフィンは) 美男 美女じゃないと思ってやってるんで す。芝居をつけた結果がああなると いうことです。意図的にやると、臭 いと思うし、アクションでも同じで すね。
作品を盛り上げる漫画家のキャラが続々と登場する?!
MA. 吾妻ひでおさんとか、他にも 漫画家が、ちょっとしたキャラクタ ーデザインをしていると聞いたので すが。
Yazuhiko. コンテで、ボス(ビッグマ ーフィ)の背中に、小動物が乗って いるんですけど、その動物のイメー ジがわかなくてねェ。考えたら「これ は、何といっても吾妻ひでおの世界 じゃないか」ってね。高千穂さんに 「どうか?」っていったら大ノリにノ って、彼の交友関係で、あの人にも 頼みたい、この人にも頼みたいって 十数人に頼んだかな。吾妻さんもた いへんまじめに考えて、色つきのキ ャラ表も描いてくれました。(吾妻さ んのキャラは)目がうつろでね、あ れが困っちゃって。視線を定めると 吾妻キャラではなくなるんで、あれ がフレームの中にいるとコケてしょ うがない (笑い)。 吾妻キャラだけはレギュラーだか ら、事前に発表しようと言ってるん です。 他の方のは、発表しちゃうと 話題性作りになっちゃうから、協力 してくれた人たちに申し訳ないとい うことで発表しない。 それと、「見て のお楽しみ」みたいなものが一番自 然でいいんじゃないですか。 吾妻さんも含めて、最初から「ノ ーギャラです」と、「そのかわりカッ ト出演していただきます」、それから 「打ち上げのとき、飲み会におよび します」という条件で(笑い)。「これ だけの協力をもらっている」という と宣伝に使うような感じになって、 ノーギャラで描いてくれた人たちに 悪いという道義的なこともあって、 「これだけのゲスト出演がいますよ」 というのは 宣伝では使 わないでお こうと。そ れで正しい んじゃない かな。ひょ うたんから コマで、僕 が言ったの は吾妻さんだけなんです。
一年かけて、やっとこさえた作品がどういうものか?!
MA. 今回初めて、監督をやってみ て得たものというのはありますか。
Yazuhiko. 得たものというのは、これ から徐々にわかってくるんじゃない かと思う。ただ、意外な人が非常に がんばってくれたり、ある人の才能 を見つけてしまったり…… 「あ、今度この人と仕事を する時はこういうつきあい 方がいいな」とかというの が、数少ないスタッフでやっていな がらも随所にあります。
MA. 「クラッシャージョウ」の公開 を心待ちにしている人たちに、何を 楽しみに待っていればいいのか、教 えていただけますか。
Yazuhiko. とにかく、実質的にも1年 間もたっぷりかけて作っている。そ れは人手が足りないからそうなっち やったんだけれども、1年かけて、 やっとこさえた、そういうものがど ういうものかっていうのだけは、多 少期待してもらっていいんじゃない かって気がするんですけどね。2千 カット全部、これが百パーセントベ ストという見せ方はできないんだけ ど、ある程度の水準に全部そろえた いというやり方はしているし、「この シーンはおそまつだから、目をつぶ っててください」ということにはし たくないと思ってやっているので、 力量がそのまま出ています。
