1982
May
Interview [for Arcadia of my Youth, My Anime]:
MA. 初のアニメ脚本だそうですが、どんな キッカケだったんですか。
Onaka.「アルカディア」は、東映と東急エー ジェンシーのジョイント企画なんです。そし て、東急エージェンシーの創立20周年記念作 品なんです。ぼくが東急エージェンシーの仕 事をさせてもらっている関係から、ある時、 松本氏の「アルカディア」 構成案を見せられ、 感想を聞かせてくれといわれたんです。それ で、ぼくなりの意見をまとめてみると、それ をもとにフリーな形でシナリオ化してくれな いかといわれました。
MA. それが、今度の「アルカディア」なんですか。
Onaka. いえいえ、そのシナリオはぼくのオリ ジナル。それを松本氏や東映のスタッフが練 り直し、再度ぼくがシナリオ化したの ま、製作中の「アルカディア」です。
MA. それでは、「アルカディア」の世界の一 端をご紹介ください。
Onaka. 松本氏もいわれているように、これこ そ、松本作品の集大成といえます。「わが青 春のアルカディア」というタイトルのとおり、 同名の作品がベースです。それに、「スタンレ 1の魔女」「キャプテン・ハーロック」「クイー ン・エメラルダス」といった作品がとりこま れています。「999」を松本アニメの前史と するなら、「ヤマト」「ハーロック」などの戦う 男たちのドラマは後史といえます。「アルカデ ィア」は、ちょうどそれらの作品群の中間に 位置しています。「999」では、まだ人間と して自分の進むべき道や自己を確立していな い少年の日のファンタジーを描き、「ヤマト」 「ハーロック」シリーズは、すでに自分の道 をみつけた男たち、戦うべき敵もはっきりわ かっている男たちの世界を描いています。だ が、「わが青春のアルカディア」では、若きハ ーロックたちが青春のただなかにいて、まさ に、自分が自分であるためにはどんな旗を立 てようか、と悪戦苦闘するドラマです。
MA. その旗が、あのドクロマークの旗ということですね。
Onaka. そう(笑い)。
MA. そのあたりに作品の鍵がひめられてい そうですね。もう少し具体的に教えてください。
Onaka. ウーン(笑い)。全部を公開することは できませんが、 そうですね、ぼくはこの作 品の中に松本氏の「ガンフロンティア」の世 界をつっこんでみたかったんです。 とても重 要なキャラにマーヤという女性がいます。若 きハーロックやトチローの心の恋人です。 マ ーヤはニュー・キャラですが、「ガンフロンテ 「ィア」のシヌノラという女性にヒントを得て います。ヒロイン・マーヤの生き方のなかに 「人間は人間に生まれるのではなく、人間に 「なるのだ」という実存主義の思想のようなの があって、それを子供たちにわかりやすく伝 えられればと考えてます
MA. ハーロックの生い立ちとか、アルカデ ィア号との出会いも説明されるそうですね。
Onaka. はい。ハーロックの1000年前の祖 ファントム・ハーロック1世、かれはハ ーロックの「非情の大河”越えのように、複 葉機でアルプス越えを敢行する。それから、50 年後のファントム・ハーロックⅡ世のエピソ ード。トチローの祖先、大山敏郎がハーロッ 夕日世にからんでの第二次世界大戦中の青春 の日の姿も描かれます。大山敏郎は、ロケッ ト技術者(科学者かな?)でドイツ留学中に ァントムⅡ世と知り合うんです。その子孫 のトチローが、アルカディア号を作り、いま またハーロックとトチローが出会い、その二 人の友情の証がアルカディア号なんですよ。
MA. 作品にキャッチフレーズをつけるとす ると、どんなものになりますか。
Onaka. うーん、そうですね。自己の旗を見い だすために戦う男のバイオレンスロマン、っ てところでしょうか(テレ笑い)。
MA. すばらしい作品を期待しています。 ありがとうございました。
June
Comment [for Arcadia of my Youth, Animage]:
脚本を書い たのは、テレ ビ・スペシャ ルや映画のシ ナリオを多く 手がけている 尾中洋一氏。アニ メの脚本は今回が はじめてとのこと。 「テレビ版のハーロックは完成品で すが、今回のハーロックは青春の挫 折、未熟さや残忍さをもっている発 展途上のキャラクターです。そこに 一番魅力を感じました」(尾中氏) 原作者の原稿用紙200枚以上に わたるプロットが完成したのが去年 の6月。それをもとに尾中氏が検討 稿を作成。9月には松本氏とスタッ フの意見をいれた第1稿ができ、22 月31日に最終稿が完成した。 尾中氏はこの作品のテーマを「人 間はもともと人間として生まれるの ではなく、人間になっていくものだ」 という考えで設定したという。 また新しく設定したキャラのモチ ーフを聞いてみるとマーヤは白いイ メージの女性、ランボーの詩に登場 するオフェーリア、被衣をかぶった 女性を想い描いて書いたとのこと。
August
Comment [for Arcadia of my Youth, My Anime]:
アニメには初挑戦の尾中氏が語 ってくれた”若者”たちへの熱い メッセージ。決定稿に至る過程を 特別に話していただいた!!!マー ヤ登場の秘密も明らかとなった!!
構成案について
MA. シナリオ決定に至るプロセ スをうかがいたいのですが、尾中 さんが最初に企画を受けた段階で は、物語はどうなっていましたか。
Onaka. 最初に、松本さんの構成案 を見せていただき、非公式な形で 意見を求められました。この時点 ではまずマーヤはいませんでした。 物語はトチローとハーロックの男 同士の友青い夜りこまれ、「スタン は、回想の形ですべてが入ってい ました。このほかにも視力を失っ 老ハーロックとトチローの息子 のエピソードなど、全体を二時間 半とすると二時間までがこういっ 回想となり、シナリオとして”座 り”が悪いのではないかという点 にレポートの中心はありましたね。
MA. 尾中さんの提案はどのよう なものでしたか?
Onaka. まず「スタンレーの魔女」は 削除し、メッサーシュミットの戦 いも2/3に減らすという回想部分の 整理と、男同士の友情だけでは、 ハーロックの持つ反面の優しさが 十分に表現できないのではと “恋 人”を設定しました。それに、全 体的には静的な構成だったので、 テンポも少し早いものへと変えて みようということです。 それで、この意見に基づいて書 いた検討稿を経て、松本さん、高 見さん、松島さんの意見をフィー ドバックして第一稿に取りかかり ました。
MA. そこでの尾中さんに出され た”注文”は?
Onaka. 松本タッチを壊すな、とい うことですね。ハーロックの恋人 にしても、声だけにしてくれとか いわれましたが、これは強く押し てマーヤの登場となったわけです。
MA. マーヤのイメージは?
Onaka. これは松本さんの「ガンフ ロンティア」に出てくるシヌノラ がヒントでした。そこからイメー ジをふくらませ、結果的にはまっ たく違うイメージのキャラですが、 マーヤが生まれました。 このネー ミングは松本さんの愛着のある名 前だそうですね。「みつばちマーヤ」 というのもありますね。僕の原案 では、その登場させた意味も含め イレーネ(平和)という名前だ ったんですけれど。
マーヤを通して語りたかった
MA. マーヤを出そうと主張された理由は?
Onaka. これはやはりマーヤを通し て僕の語ろうとしていることを語 らせたいというのがその理由です。 地球の明日を地下放送を通じて呼 びかける設定は、リリー・マルレー ンがモデルですが、彼女を通して 語ろうとしたのは、サルトルの実 存主義でした。
MA. 具体的には?
Onaka. 人間は人間に生まれるので はなく、人間になってゆくのだ。 人間は人間の未来だーという思 想です。これは小説版の後書きに も書きましたが、アニメをきっか けにそういう興味をぜひ広げてい って欲しいと思っています。
MA. なるほど。しばらく話を戻 しますが、最終稿はどのように決 定されましたか?
Onaka. 実は、僕もわからないわけ で(笑い)。つまり、第一稿のあと 改定稿を作りました。これには東 映の営業サイドから「もっと楽し いものを」という要求があり、物語 をもっと弾んだ若々しいものに仕 上げようという方向になりました。 これで実は検討稿の僕の意見が 再び浮上し、ちょうどそのころ上 映されていた「Uボート」の迫力、 「レイダース」のテンポがその目安 となったわけですね(笑い)。
MA. 改定稿がマスコミ関係にも 公開されたものですね。
Onaka. そうです。この段階で問題 のないシーンは絵に入ろうという ことで勝間田さんにお任せして作 業を進めていただきました。 そうして様々な調整を経て、昨 年の12月3日に一応の最終稿がで きました。決定稿は、これ以後の 作業でまたどのような変更が入る かもしれないので、僕はわからな いということです(笑い)。 一ついっておきたいのは、こうし て話すとものすごくもめながらや ったような感じもしますが、そ は「わが青春のアルカディア」と いう〝大冒険の作品”を生み出し 松本作品の一つの転回となってゆ くためには当然の経緯だと思って います。僕としては、アニメを手 掛け、なぜ子供たちがこれほど熱 狂するのか?という”何か”がわ かったような気がして、大いに得 る所も大でしたから。
処刑シーンはマーヤとエメラルダス
MA. 最終稿での改定稿との変更点は何でしょう?
Onaka. 第一はエメラルダスとゾル の処刑シーンが、マーヤとエメラ ルダスになったことです。ハーロ ックが処刑を知りながら、それで も旅立つことを見せるためには、 やはりマーヤが処刑台に立つほう がより深くその想いが伝わると考 えたからです。
MA. ほかに問題となったところなどは?
Onaka. トカーから地球へハーロ ックが戻るとき、プロミネンスの 河でトカーガ人の戦士たちが飛び 降りるのですが、これを僕はミラ を救うためにどしていたのです。 つまり、ミラは最後のトカーガ人 として生き残らせたかったのです けれど、残念ながらミラは死んで しまいます。 なぜミラを生き残らせたかった かといえば、この作品には子供た ちが感情移入できる子供のキャラ がいないのです。いってしまえば 大人たちが自由の旗を立てようと それと子供たちは関係ないと思う のです。 かつてケネディ大統領の葬儀で その子、リトル・ジョンが理由の わからぬまま父の遺影に無邪気に 敬礼する姿が、全世界の人々の涙を さそいました。僕は、ミラにもそん なシーンを用意したかった。そし アルカディア号の旅立ちととも にトゥーガ人の新しい時代も予感 させるようにしたかったわけです。
MA. 尾中さん自身のお好きなシ ーンなどありましたら。
Onaka. 処刑台から救出されたマー ヤとエメラルダスが傷つきながら、 ある小屋の中の隣同士のベッドで 語り合うシーンですね。そこで語 ることに、僕はかなりのことを盛 り込みました。「人間を永久にとじ ・・・」など、ぜひここのところのセリ くのが戦いというのは悲しい」 「けれど戦いぬかねばならない・・・ ・・・」など、ぜひここのところのセリ フをよく聞いてみてください。
ハーロックの意義
MA. 尾中さんのお考えになるハ ーロックの意義とは何でしょう?
Onaka. それは冒頭シーンのスタン レーの山越えをする初代ハーロッ クの姿にすべてがあります。
MA. というと?
Onaka. 夢を捨てない限り夢は消え ない。自分の旗の下に戦えば、明 日が見えてくる。そしてそれこそ が青春ではな いのか、とい うことです。 初代ハーロ ックは、僕は 1917年と 厳密に時代設 定をしました が、それは彼 のスタンレー 越えが社会とも関係のない、自分 自身の夢のための、自分の旗の下 での戦いであったことをより明確 にするためです。1917年、 の祖国は第一次大戦の最中でした….。 ところが二代目ハーロックは、 ナチスの旗、いってしまえば他人 の旗の下で戦い敗れます。自分の 旗を立てれば、いつか必ず勝利す る-そのことが時を超え今や3 000年を迎えようとする三代目 の我らがハーロックへと伝わるわ けです。彼は最初他人の旗の下で 戦い敗れ、そして自分の旗を立て て勝利するわけですから。 ここに汲みとってもらいたいこ とがもう一つあります。それは僕 が親として子供たちに語り継いで ゆこうとこの物語に盛り込んだこ との一つですが、それは歴史につ いてです。 つまり千年の時を隔て、初代から 三代目に伝わったのは、決して血 のつながりでもロマンティシズム でもなく〝精神〟なんだ、という ことです。歴史に、輪廻はなく、 継承され、つねにふくらんでゆく 発展的な形があるのだということ です。そういう歴史観を語りたい ということと、もう一つは”自我” を大切にして欲しいということです。
MA. それが先ほどのお話にあっ 実存主義”に通じるわけですね。
Onaka. そうです。僕には高校生の 子供がいますが、自分のその当時 の感覚では律し切れないものを今 の子たちは持っています。僕らが 必要としていた〝哲理”はなく、 感性”がそのすべてです。まあ 硬直さないのはいいことですが、 今度はその直感が狂えば100%だめ になってしまいます。感性は感性 でいいと思います。けれど、なお かつ人間には哲学と歴史の勉強が 必要なのだ、ということを伝えた いのですね。
MA. その歴史観は今、語られた ことですね。では哲学のほうを詳 しくお願いします。
Onaka. サルトルの著した「実存主 「義とは何か」というわりと平易な 短い論文がありますが、この中で 彼は「人間は自由の刑罰にさらさ れている」と書いています。つま り何かを選択する自由があるとい うことは、何も選択しないという 選択はできないのだ! というこ となんです。そのことをしっかり と意識することは、自我〟をはっ きりと持つ 自分の旗を立てると いうことです。自我の確立こそこ の「わが青春のアルカディア」で 語ることを超えて、また若い諸君 の最大のテーマのはずです。 そして、それから先は、それこ そ“自由”なんだ、ということで す。その二つのこと、哲学と歴史 についてを僕は語り継ぎたかった わけです、親としての務めとして。 ですから小説版の後書きにも、 んで欲しい本として数冊あげてあ るんですよね(笑い)。
MA. どのような本を?
Onaka. サルトルの「自由への道」 「実存主義とは何か」、ランボーの 詩集「酔いどれ船」、そしてマルタ ン・デュ・ガールの「チボー家の 人々」です。
TVと映画
MA. 最後に、シナリオを書く上 でのTVと映画の違いを。
Onaka. やはりそれはCMが入るか 入らないかですね。同じ二時間の 枠でもTVは七つのパートに分か れてしまうので、CMに続いてイ メージを損なわないか、次のパー トが始まるとCM前を少しダブリ 返さなければならないのです。T Vはコンクジュースのままでは出 せないということですね。それに CMの関係でCMへ続くブリッジ という部分をどこへ置くかもだい たい制約されてしまいます。 映画にはその心配はありません が、逆にTVにならないか、十五分 で物語がへたばっていないかをチ ェックしますね。
MA. シナリオは何度くらい書き 直されますか?
Onaka. 普通の長編や映画で四度で すか。この「アルカディア」は、 細かな変更分を入れるとその倍く らい書き直しましたよ(笑い)。
MA. どうもありがとうございま した。
