The Rose of Versailles [TV Series, 1979]

1979

December

Animage [pg. 39-42]

Point 1: 原作に『ひと味プラスした画面づくり

10月10日に放送になった第1話を見た人なら気づいたはずである。そして、あらためて原作を読みかえした人も多いのではないだろうか。というのは、第1話の話が原作とはかなり違っていたのである。当然見るまでは、アントワネットの幼ないころの話が第1話にくると思っていた人がずいぶんいたはずだ。ところが第1話ですぐにオスカルの誕生、そしてオスカルの近衛隊入りをこばむ話をもってきた。また、原作にはない部分、オスカルと近衛隊のジェローデル大尉との決闘”の話を入れている。原作ものの場合、ストーリーがすでにわかっているというマイナス面「とそのかわり知名度が高いというプラス面がある。この「ベルサイユのばら」は知名度の点では群をぬいている。が反面、すでにみんなに知られている作品をいかに、新鮮に見せるかという難点があったのだが、第1話を見るかぎり、原作にない、いい味をうまく入れてつくっている。

Tadao Nagahama (Director):

そうですね。まず30分のなかで、なにかまとまっているものを見せるということを心がけています。原作にこう描いてあるからこうやりましたということではなく、だいじなことはこちらの主体的立場がはっきりしていることです。わたしは原作を愛していますし、基本は原作に忠実にやりますが、なんでも原作どおりにやればいいものではありません。変えるところは大胆にかえていくつもりです。

Point 2: 背景の綿密さと美しさ

原作のもつ華やかさというものをアニメのなかでいかに表現するかということが一つの課題であったと思うが、美術スタッフの念入りな調査努力と多くの時間をかけての緻密な研究とがあいまって、じつにすばらしいものとなっている。ルイ王朝時代は、ただでさえ装飾・調度品が華やかでこまかく、それだけスタッフも神経を使ったわけだ。一方では、キャラのもつ魅力というものをそこなわないようにといった思いも、うかがわれる。そして、華やかな宮殿とはべつに、深い人間ドラマでもある原作の心理描写を表現するという点で苦労しているようだ。

Tadao Kubota (Art Director):

実際の歴史であり、事実であるものですから、研究に時間をかけました。とくに、当時の窓に注目して、そこから入る光によって写しだされる世界とその影を利用したつもりです。

Ken Kawai (Art):

キャラクターが華やかですから、背景をおさえるべきか、当時の豪華な装飾を生かすべきか迷っています。結局、キャラクターをそこなわない程度にだすことにしました。

Point 3: 苦心の色づかいと影の使い方

原作つきのアニメのために、ファンからオスカルの髪の色やアントワネットの肌の色が原作とは違うのではないかという問い合わせがよくくるらしい。そのせいというわけではないが、スタッフは色に対して細心な注意をはらっている。たしかに、原作の色とは若干違っているところもあるかもしれない。それはマンガと違い、アニメには使える色の数がかぎられているからだ。テレビアニメの場合、色は約100色ぐらい使うのがふつうで、この作品も100色使っている。またその100色のなかで、オスカルの髪の色(88)オスカルの肩章(F2)アントワネットの肌(S−0)アントワネットの肌色の影(89)男のキャラの肌(C3)白い洋服の影(BW)一般的な影(90)の7色は特別に加えた色である。ということは、いかに主要キャラの色に注意をはらっているかがわかる。また、影の色を2色加えている点にも注目したい。ていねいにつくっていない作品はあまり影を使わずにつくると聞く。それは、影をつけるというのは、彩色のさいに1色、影色をプラスしてぬるわけだから、手間は倍近くかかるためだ。また、アニメの場合、たとえ何千色、使えるとしても、かえって多くの色を使うことで逆に現実さがでてしまい、マイナスになることもありうる。以上の2点を考えあわせてみると、どうしても必要な色を範囲内でうまく使い、手間をおしまずに影の部分を使っている作品といえる。※右のチャートがこの作品に使っている全色である。下の番号が色指定番号。文中の()内は色指定番号。セル画とあわせて見て下さい。

Kimie Yamana (Color Setting):

「ベルばら」の場合はほかの作品にくらべて影の部分が非常に多いんです。ですから、ものすごく時間がかかります。影つきの場合だと、1日でできるのは50枚ぐらいですね。色をあまりふやすと、ここはこの色というのをおぼえるのもたいへんになるし、お金もかかるんで、このくらいが適当なんじゃないかしら。あと、ちょっと関係ないかもしれないけど「ベルばら」の演出サイドの男の人たちって、どういうわけかグリーンがきらいなんです。だからやはりグリーンはあまり使いませんね。

Part 2: フェルゼン役の野沢那智したおれる!!新フェルゼン役、堀勝之祐に決定!!!

11月号の取材のときから顔色があまりよくなかった野沢那智さんが、十二指腸潰瘍のために倒れてしまった。さる10月13日に手術、その後の経過は順調だという。1か月もたて退院できる・・・ということだから、この本が発売になるころにはかなり元気になっているはずだが……。しかし、スタッフのショックは大きかった。いろいろ考えぬいたすえに決めたフェルゼン役。それも、太事なキャラのひとりだったのだからほりかつのすけ結局、堀勝之祐さんの友情代役ということで急場をしのぐことになった。代役がさきに声をあてることになった今回のようなケースは、もちろんはじめてである。

Tadao Nagahama (Director)

どうしてもフェルゼン役は野沢那智さんしかいないということから、野沢さんの病気がなおりしだい、復帰ということで堀勝之祐さんにお願いすることにしました。まあ、堀さんの場合は、野沢さんがスケジュール的に合わないときには、野沢さんのあたり役のアラン・ドロンの声をやるなど、声質が非常によく似ている人なんです。それと、もうひとつ、野沢さんのピンチに堀さんが友情出演ということもあり、気持ちよく、出演をオーケーしてくださったので、わたしとしてはホッとひと安心しています。

堀勝之花 (M3)

いま、ぼく自身も、驚いているんです。知人の野沢さんが倒れられ、3週間分のフェルゼン役をやるわけですけれど、まだ実感がないですね。ただ、おなじ俳優としてピンチのときにお手伝いするというのは当然のことですし、1日も早く、野沢さんに復帰してほしいです。なにせ重要な役ですので、これから気が重いですよ。ただ、ピンチヒッターだからといって、野沢さんのまねはできませんから、ぼくはぼくなりにやりたいと思っています。アニメーションについては、いままで「巨人の星」を4~5回やった程度で、あまり経験はないんです。けど、アニメは夢があるものだし、みなさんの見る目もきびしいですから、とにかく、全力でぶつかっていきたい。この「ベルサイユのばら」のルイ王朝っていうのは、ぼく自身、大学時代、フレンチスタイルのフェンシングをやっていたせいか、実に興味あります。第一話でのオスカルの剣さばきなど見ると本当によく描かれています。とにか野沢さんの戻られる日が一日も早いことをいのり

1980

January

The Anime [pg. 10-16]

Comment(s):

  • Tadao Nagahama [「ベルばら」の放映も、順調に軌道に乗って来ました。最初は原作のファンの拒絶反応を受け、注文の手紙や、「やめろ!」という手紙までも送られて来ましたが、一方では、厳しい「ベルばら」フアンや原作者(池田理代子さん)からは、たいへんなおほめの言葉をいただき、制作者一同、よりいっそうはりきっております。とくに池田さんは、5、6年前に「ベルばら」のアニメの舌があったときこは反対され、代わりに”黒い騎士”だけを取り上げた「ラ・セーヌの星」を放映したいきさつがあったのですが、今回の「ベルばら」のアニメ化のストーリー作りに積極的に御協力いただき、歴史背景を肉づけして、民衆の生活を原作以上にくわしく描いてゆきます。]
  • Kazuyuki Honma [「ベルばら」の場合、あの華麗な衣裳はキャラクターの一部です。ですから、カットごとに衣裳の指定があり、これはアニメとしては画期的なことなんですが、現場の原画家も苦労はたいへんなものです。さらに制作前には、西洋の服装の歴史や当時の礼義作法、背景となる宮殿の豪華な装飾など、山ほどある資料を徹底的に研究しつくして正確に描くのも根気のいる作業です。また、30分の話としては数多い登場人物を、どう処理し完結させるか、が脚本家の苦労と腕の見せどころだと思います。]
  • Oskar’s charms, a character chart, a visit to the production studio
  • 新たな反響を呼んで「ベルばらブーム」がふたたび巻き起こっている!!オスカルの魅力研究や登場人物全紹介制作現場訪問など「ベルばら」をいろいろな角度から紹介しよう。
  • 「ベルばら」の非常に数多い登場人物の中でも、もっともファンに人気があり、魅力的なのが〝オスカル”でしょう。その人気や魅力の秘密は、いったいどこにあるのでしょうか?それはまず、オスカルが男装の女性であるというユニークなキャラクターとして描かれているところにある、といえます。代々ブルボン王朝に仕えた軍人の家柄のジャルジェ家に6人目の女の子として生まれたオスカルは、ぜひ自分の後継ぎを作りたいと願う父・ジャルジェ将軍の意志によって、男の子として育てられました。そして、美しい娘に成長した彼女は、軍服を着た近衛隊の隊長となります。まつ白な軍服を装うオスカルの男性的なりりしい姿は、まさに女子中・高生のファンをウットリさせるものです。さらに、今回のアニメ化のキャラクターデザインでは、男装のオスカルを美しい女として追求し、女性としてのこの上ない美しさをみごとに描き出していることも、新たな魅力のポイントになっています。男として生きねばならない女”という特殊な状況のもとに設定されたオスカルの人間像こそ、その魅力の根底であり、そんな彼女が革命の嵐の中を勇敢に生き生きざまが、ファンの心をとらえて離さないのです。近衛隊長として衛兵たちを統率し、アントワネットに忠実に仕える厳しさと強さの中に、民衆に理解されないアントワネットを思いやり、かばう女らしい優しさも見せるオスカルそのオスカルをとりまくラブストーリまた魅力的です。ある事件で自分を救ってくれたフェルゼンに、オスカルはひとりの女として想いを寄せます。しかし、フェルゼンはアントワネットの恋人。オスカルはむくわれぬ恋の熱い想いを、任務の厳しさの中に忘れようとするのです。また、育ての母を貴族の馬車にひき殺され、かたきを求める娘ロザリーは、ジヤルジェ家にひきとられ、男装のオスカルを恋慕します。そしてもうひとり、オスカルをひそかに愛するアンドレがいます。アンドレはジャルジェ家のばあやの孫で、オスカルとは兄弟のように育ち、小さい頃からずっと彼女に想いを寄せていましたが、身分が違うため、影ながらそっと彼女に付き添う忍ぶ男です。そして物語の後半では、ふたりは身分の違いを乗りこえて、激しい愛の炎を燃やします。そのエピソードの中には、貴族の身分差別に対するオスカルの正義感の強さが描き出されて行き、ついに彼女は地位も身分もすてて、王家にそむき民衆側へと走るのです実際のフランス革命で、男装の女性がバスティーユの先頭に立ったという話があります。そんなところからオスカルという素晴らしいキャラクタが生まれたのではないでしょうか。その他数々の人物のもつ人間像が「ベルばら」を単なる歴史物ではない、生きたドラマにしています。
  • Comment from Tadao Nagahama
  • 「ベルばら」の放映も、順調に軌道に乗って来ました。最初は原作のファンの拒絶反応を受け、注文の手紙や、「やめろ!」という手紙までも送られて来ましたが、一方では、厳しい「ベルばら」フアンや原作者(池田理代子さん)からは、たいへんなおほめの言葉をいただき、制作者一同、よりいっそうはりきっております。とくに池田さんは、5、6年前に「ベルばら」のアニメの舌があったときこは反対され、代わりに”黒い騎士”だけを取り上げた「ラ・セーヌの星」を放映したいきさつがあったのですが、今回の「ベルばら」のアニメ化のストーリー作りに積極的に御協力いただき、歴史背景を肉づけして、民衆の生活を原作以上にくわしく描いてゆきます。
  • Comment from Kazuyuki Honma
  • 「ベルばら」の場合、あの華麗な衣裳はキャラクターの一部です。ですから、カットごとに衣裳の指定があり、これはアニメとしては画期的なことなんですが、現場の原画家も苦労はたいへんなものです。さらに制作前には、西洋の服装の歴史や当時の礼義作法、背景となる宮殿の豪華な装飾など、山ほどある資料を徹底的に研究しつくして正確に描くのも根気のいる作業です。また、30分の話としては数多い登場人物を、どう処理し完結させるか、が脚本家の苦労と腕の見せどころだと思います。
  • Studio Visit
  • オスカル役・田島令子さん「ベルばら」制作現場訪問
  • オスカルの声を演じる田島令子さんが「ベルばら」の制作スタジオを訪問しました。初めてアニメの制作過程を見学したという田島さんに 、感想を混えて「ベ「ルばら」の出来るまで、を紹介していただきましょう。
  • 地下鉄丸ノ内線に乗って南阿佐ヶ谷駅で下車し、10分ほど歩いたところに「東京ムービー」のアニメ制作スタジオがあります。ここで「ベルばら」の制作が行なわれているわけですが、アニメの制作現場を訪れるのは生まれて初めて。ふだん私たちがアフレコのときに見るアニメのフィルムはどのように作られているのだろうか?私たちが演じていオスカルやアントワネットなどのキャラクターは、どのように産み出されているのだろうか?そういう興味と期待に胸を躍らせながら、スタジオの入口に入りました。廊下の壁には「ベルばら」をはじめ、いま人気の「ルパン三世」「がんばれ!タブチくん」「家なき子」などのポスターや原画などがにぎやかに貼られ、動画スタジオらしい華やかなふん囲気です。「ベルばら」の制作プロデューサー・加藤俊三さんに案内され、企画室に入ると、そこでは作画監督の荒木伸吾さんと女性アニメーター姫野美智さんが綿密な打ち合わせの最中でした。「この企画室で、原作者(池田理代子さん)をまじえてストーリー展開やキャラクター設定が検討され、時代考証も研究されたんですよ」加藤さんの説明に室内を見わたすと、四方の壁に非常にたくさんの本や資料がギッシリ積まれています。「ベルばら」関係の資料には「西洋服装史」「ベルサイユ宮殿写真集(フランス製)」など、山積みされた資料が、ひとつのアニメ作品の制作にとりかかるまでの苦労を物語っているようです。「これがキャラクター表です」と荒木さんが見せてくださったのは、オスカルの絵がいっぱい描かれたボード。そのオスカルの絵のひとつひとつが、髪の長さ、表情、コスチュームなどが全部違います。「オスカルというひとりの人物を描くのにも、物語の展開に従つて、当然彼女の成長してゆく過程を絵の上でも追って行かなければなりません。髪の毛もしだいにのびて来ますし、顔つきもだんだん大人っぽくなって行きます。軍服のコスチュームの色も、純白のものから、今度赤に変わり、やがて青になります。そうして決定されたキャラクターデザインをもとにして、動画家が人物の絵を正確に描いて行くわけです」そう説明する荒木さんの言葉に、感心しきり。私たち声優も、それぞれの登場人物の成長してゆく姿を表現するために、いろいろ演技を工夫するのですが、アニメーターの人たちはそれ以上に、細かいところまで気を配って人物を描いているのですね。それから、背景となるベルサイユ宮殿の設定書も見せていただきましたが、これがまた、大きな壁画から細かい装飾品にいたるまで、ビッシリと描きこんであるのに驚かされました。驚かされました。「ベルサイユ宮殿は実際にある建物ですからウソを描くわけにはいきません。背景の設定書は、宮殿に関する資料や写真を徹底的に研究しつくした成果なんですよ」姫野さんのお話も熱つぼく感じられます。天井画、壁画、廊下大広間、装飾品、窓わく、中庭、そして正面、上、横、ななめ、ロング、アップのベルサイユ宮殿が、ていねいに、そしてきれいに描かれてみるだけでも楽し設定書です。アフレコでフィルムを見るとき、私などは人物ばかりを追ってしまい、あまり背景を気にとめることはなかったのですが、今、こうして見せてもらったていねいな背景画作りが、私たちが演ずるキャラクターを引き立ててくれていたのかと思うと、スタッフの皆さんのかげの努力に頭が下がる思いがしました。こうして出来上がったキャラクターを、どうやって動かすのだろう?という私の疑問に、加藤さんはニコニコと笑って、現場スタジオへと案内してくださいました。そこには幾人もの若い人達が机に向かって、もくもくと仕業を続けています。「キャラクターが決まり、シナリオが出来上がると、次にそれを、演出に従ってカット割りし、絵コンテを作ります。それをレイアウトしたのが基本絵の原画で、動きを指示するものです」私もマネして描いてみようかナ・・・・・・なんて思いましたけど、スカートのひだの一本一本の線の細かさに、目が痛くなりそう。アニメを描くことがこんなに神経を使うせん細な仕事だったとは……。加藤さんの指示によって、次は動画のコーナーへ。その机の上には、少しずつ動きの違う線画が何枚も重ねられていました。「動画は、原画をタイムシートに従って、一秒24枚平均の細かい動きに分けて描いてゆくものです。ベルばらの場合は、衣裳や巻毛の微妙な揺れ方まで描き込んでいるので、ときには一話五千枚以上にもなることがあるんです」たった三十分の作品に、こんな細かい絵を五千枚も・・・・・・気の遠くなるような数字です……..。出来上がった動画は、トレース機にかけられてセル(セルロイド状の透明な薄板)にトレースさ「トレース機が出来たのは、ごく最近のことで、それまではトレースも人の手でやっていたんですよ。手作業ばかりのアニメ制作の中で、ここだけが機械化されたわけです」そのセルの裏から、原画の指示通りの色を彩色してゆくそうですが、その色も150種類以上とか…..。彩色されたセル画を裏から見ると、色がゴチャゴチャで何がなんだか判らないのですが、これを表にして見るとあまりに美しいオスカルの絵に目を見はります。株式会社こうして出来上がった何千枚ものセル画は、撮影に回す前に、荒木さんたちが、色の塗り間違いや線の描き違いがないか、一枚ずつチェックするそうですけど、これも大変な仕事ですね。そして最後に、大きな撮影機のある地下へ降りて行きます。カメラの下に、背景とセル画を合わせ、演出で指示されたフレームどおり、一枚一枚撮って行くのです。ここでも、フィルムを回東京ムー東京都杉すだけの実写とは比較にならない程の手間がかけられています。「ふつうアニメの撮影は1ミリ・カメラを使用しますが、ベルばらは35ミリを使っています。それだけ画面があざやかに、しかも美しく映るからなんです」見学を終わり、加藤さんにお礼を述べてスタジオの外に出ると、なぜかキューッと胸をしめつけられるような思いがしました。私たちがふだん見慣れているアニメのフィルム作りがこんなにも根気のいる大変な仕事だとは、これまで思っても見なかったからです。本当にアニメが好きでなければ、出来ない仕事ですね。私自身も現場の苦労に接してオスカルへのいつそうの愛着が沸き、もっともっと頑張つて演じなければ、という意欲が燃えて来ました。

June

The Anime [pg. 38-40]

(Note: There was a feature article in this issue, however it was just a “script” of episode 26 and featured nothing else.)

Episode Summaries

(5/7はナイター中継のため休み)

花びらを踏みにじるな―仮題 (episode 29, 5/14)
オスカルとアンドレが帰ってくる と婆やがメソメソしている。婆やは オスカルを見ると、とたんに取り乱 して「お嬢さま!」とすがって泣き 出した。わけをきくと「だんなさま がオスカルさまのご結婚の相手をお きめになった」というのだ。「誰だ、 この私と結婚しようなどと思ってい るのは、度胸のいいやつだ」とオス カルは憤然とした。

君は光、僕は影 (episode 30, 5/21)
オスカルは父親・ジャルジェ将軍と にらみ合っている。「父上の真意がわ かりません! 今更、私に結婚など と・・・」とあととりを欲しがる父はオ スカルの申し出に最後まで首をたて に振らず「では、こうしよう」とい って、盛大な舞踏会を開くことを提 案した。そしてそこに、オスカルに 結婚を申し込みたい若者をみんな集 めよう、というのだった。

(5/28ナイター中継のため休み)

女隊長大きらい! (episode 31, 6/4)
ベルサイユ庭園の中の大木のかげ でアントワネットとフェルゼンは辺 りをうかがいながら逢引きをしてい る。それを遠巻きに護衛するオスカ ルとアンドレ。アンドレが用事でそ こを離れたとき暗闇の中でオスカル は何者かに襲われた。

Short Q&A with Shunzo Kato

Q. ロザリーのファンです。ポリニ ャック夫人につれていかれてしまっ たけれど、この次に出るのは、いつ ですか?

Kato. ロザリーは、もうパリで暮らし いるはずです。そしてオスカル ら助けているのです。26話 4月9日放送分)でそのことが明らか になっています。 話は次第にピ にさしかかりますので今後とも楽し みにしていて下さい。

Q. 背景がとてもきれいですね。ひとつの話で何枚ぐらいの背景を描くのでしょうか?

Kato. ベルサイユ宮殿等の背景があますから、そうですね、大体一話つき320~350枚ぐらいのカットを使いますね。

April

Animage [pg. 67-70]

Interview with Riyoko Ikeda

映画”ベルばら”を作ったら、字幕が読めない小さな女の子が、ぜひアニメに・・・って

AM. “ベルばら”アニメ化までの 経過からお聞きしたいのですが。

Ikeda. 池田 昨年、映画ベルばら”は作 ってみたいと思ってプロデューサー の山本又一朗さんにぜんぶ、おまか せしたのね。でも、そのときはアニ メまでは考えなかった。それ以前の 申し込みもずっとお断わりしていたし….。

AM. なぜですか?

Ikeda. 読者の”イメージがこわれる から映画やアニメにはしないで”と いう反対が猛烈多かったわけ。

AM. それをおしきってアニメ化し たわけですね?

Ikeda. 映画になりましたでしょう。 そうしたら、わたしの原作もまだ読 めない、映画の字幕も読めないとい う幼稚園ぐらいの女の子から、アニ メにしてほしいという希望がすごく ふえてきたの。で、こんどは小さい 子にも見てもらいたいなあという気 持ちが生まれてきたんです。

AM. ということは、アニメベル ばら”のメイン視聴者は幼稚園から 小学校3年生ぐらいの子どもたちだ というふうに考えていられるわけで すね。

Ikeda. そうですね。あの時間帯なら そうだと思っています。提供会社の コマーシャル商品なんか見ても、ポ シェットやら人形やらで、それはわ かると思うけど。

AM. なるほど。で、アニメ化が決 定して制作が進んでいたわけですが、 その間でのかかわり方はどうでした か?

Ikeda. まったく、ノータッチです。 脚本を送ってくださるけど、あまり 読まなかったし、設定段階もかかわ らなかった。だって、アニメは新 な作品が一つ生まれることだと思う の。だから、それを楽しみにしてい いと思うのね。

AM. では、実際にアニメを見ての 感想をお聞きしたいのですが……。

Ikeda. 毎週ビデオを撮りながら、ア シスタントと一緒に楽しんで見てい るんですよ。仕事中だったりすると、 そのときだけは休憩にして・・・……。で も、わたし、アニメのことはなんに も知らないの。だから、ただミーハ 一的に見てるだけ。

AM. ミーハー的?

Ikeda. ええ。たとえばね、アニメの ジェローデルがすごくカッコよくて ステキなわけ。 第一話で、オスカルと連隊長の地 位を争って決闘するでしょう?? そ のシーンなんか、もうたいへんだっ た。〝わあ、すごく大人に描けてる ゥー。カッコいいわね。髪の毛がな びいて・・・。これは原作よりずっと力 ッコいいわね”って(笑)。

AM. ほかに“ワーア!!”(笑)と印 象に残っていることは?

Ikeda. いまのところ、特別にシーン としてよりも、なにしろ背景がすご くきれいなので、そればっかり印象 的。背景の建物とかね。 わたし自身が”ベルばら”を描い たころはベルサイユ宮殿を見たこと もない。ただ、写真を見ながら描く だけで…。その資料も不足した状態 で…。 で、今度は実際に映画ベル ばら”のフィルムもあるし、すごく 背景が充実していると思います。

AM. たしかにすごく手がこんでますね。

Ikeda. そう、すごく。うちの祖母な んかも見てますけど、バツクは実写 だと思っているの。 ベルサイユ宮 殿とかね。多少、年寄りだから、 目も悪いんでしょうけど(笑)。

AM. 第8話の「ジャルジェ邸」 の夜明けのシーン(写真参照)は、 背景の空の色を変化させて時間の 経過をだしたりしていて、すごく きれいでしたけど……。

Ikeda. そうね。技術的なことはよ くわからないけれど、ほんとうに”き れい!! “って感激してます。

AM. わかりました。ところで、原 作とアニメでは、ストーリーや設定 に少しちがいがあるようですが。

Ikeda. 第一話の導入のしかたはちが っていましたね。わたしの場合は、 アントワネットとフェルゼンとオス カルとアンドレの4人に均等に力を 入れたつもりだった。でも、最初に 一番描きたかったのはアントワネッ トの生涯だったわけ。

AM. えっーーそうだったんですか?

Ikeda. そう。だから、原作の導入は アントワネットの話でしょ。 オスカ ルは、ワキのつもりだったのね。そ れが、史実の人物っていうのは意外 に動かしにくい。だからどうしても 自分の気持ちがオスカルのような架 空の人物に肩入れしちゃうのね。

AM. ドラマ作りもおもしろいし・・・。

Ikeda. そうなのよ。それに、アニメ の場合見るのは小さな子どもだから やっぱりこれが主人公だよ、ヒロイ ンだよ、ってしっかりときめてかか ったほうが、お話としてはわかりや すい。だから、第一話の導入のしか たはあれでいいと思う。すごくすっ きりしていて…。

AM. ほかに、原作とはちがうとい う点で目についたことは?

Ikeda. オルレアン公がアニメでは最初から悪役で登場するでしょう。わたしの場合は、わりと陰で画策する人物で終わるけれども………あたし、これも、いまとおなじ理由でー 聴者の年齢が低いっていうことね そのほうがいいと思うの。やっぱり オルレアンが悪人なのか、いい人な のかっていうことがはっきりしたほ うが、話としては単純明快だもの。

AM. 現場スタッフと以心伝心です ね。

Ikeda. そうね。とくに要望をだした わけじゃないものね。

AM. メインテーマの描き方という 点ではどうでしょう?

Ikeda. あたしがこの作品で描きたか ったことは、ひとつには、さっきも ったようにアントワネットの生涯 すね。それと、オスカル自身の生 き方。 女性ながら男性として生きざるを えないという設定のなかで、ほかの 人にはできない生き方をし、しかも 最終的にその生き方を自分で納得し て選んでいくということ・・・・・・。

AM. アニメでそのへんは描かれて いますか?

Ikeda. まだ途中だから……。ただ、 プロデューサーが山本さんである以 上はだいじょうぶだと思っています けど。

AM. “オスカルの女性としての生き 方”というテーマは、視聴者と考え られる幼稚園児や小学生には、少し むずかしすぎるということの心配は?

Ikeda. 年齢的に限度はあると思いま すけど、要は描き方しだいだと思う の。 わたしは、中学のときにある37歳 で独身の大学の女性教授のインタビ ューを聞いたのね。そこで、最後に ご結婚は?”って聞かれて〝え あら、いやだ。忘れていたわ”って 答えたの。そのときすごく感激した。 結婚を忘れられるほどの仕事が、女 性にもあるんだなあーと思って、す ごく感激した。まだ子どもだったけ どね..。

AM. キャラデザインの点について は?

Ikeda. すごく似せてあるほうじゃな いかしら。自分としては、連載した ての自分の絵がとてもきらいなわけ。 へたっぴいだしね。それもそのまま 似せてあって、はずかしくていやだ わ。とっても……。

AM. へたっぴい?

Ikeda. そう、若いころのオスカルや アンドレって、コロコロしてるでし よ。で、だんだん年とってきて頬が こけてくるでしょ。あれね、意図的 に描いたわけじゃないの。コロコ したオスカルも、あれはあれで死ぬ まぎわのオスカルと同じように、精 一杯大人っぽくカッコよく描いたつ もりなわけ……………。でも、へたっぴい で……………ね。だから、もう昔の絵は二 度と見たくないというかんじ……。

AM. 声の配役については、どうお考えですか?

Ikeda. フェルゼンは野沢那智さんで すよね。彼の声って、オスカルと同 18歳で登場という設定なのに、す ごく年齢の差をかんじさせる。3か 33歳ぐらいの声のよう・・・。 性格的に は、それでとても合っているとは思 うんですけど。 それと、少し早口の 気がするわ。

AM. オスカル役の田島令子さんの声はどうですか?

Ikeda. いまはいいんだけど、先でど うなるか、とっても心配なの。アン トワネットもそうなのね。つまり、 若いころのアントワネットに合って る声でしょう、上田みゆきさんの声 は。でも、30いくつになったときに も、あの声かしらって、ちょっと気に しています。

AM. なるほど。

Ikeda. アンドレの志垣太郎さんは、 彼が若いころからテレビにでていた のは知っているけれど、あんなにう まい人だとは思わなかったの。彼の イメージって、演技よりもハンサム なマスクで売っている役者さんとい うかんじだったのね。だから、セリ フだけの演技は…なんて思ってた わけ。そうしたら、すごく上手なん で驚いちゃった(笑)。

AM. ナレーターは?

Ikeda. まず、迫力がありますね。年 齢のいかない子どもたちには、ちょ っとこわいくらいの声じゃないかし

AM. そうですか。

AM. いままでお話をうかがってき たことから考えると、アニメベル ばら〟にかなり満足していらっしゃ るようですね。

Ikeda. そうですね。というより、基 準になるものがなにもないし、わり とすなおに喜ぶほうだから。よくみ なさんが、なんだかんだおっしゃる けど、でも、あなた、考えてもみな さいっていうの。自分が苦労して描 いたものがこうやってテレビになっ て、有名な声優さんがやってくれる というだけで、人生にそうあること じゃないわよって。

AM. すごいラッキー?

Ikeda. そう思うの。ほんとうにラッ キーなことよね。だから、あんまり あそこが気に入らなかった、ここが 気に入らなかったっていうふうに思 わないんです。

AM. では、先生のほかの作品にアニメ化の申し入れがあった場合はもちろん……………。

Ikeda. 池田 ええ。そのほうがほんとうに わたしの作品でこれを描きたかっ た” “この人はこういう性格なんだ” ということを理解してくれる人だっ たら、おまかせするでしようね。 だって、わたしもベルばら”を ツバイク(ドイツの作家)の「マリー・ア ントワネット”という本をヒントに して描いたわけね。 そのときにツバ イクがね〝少女まんがなんかにされ ては困る〟っていわれたら、わたし も困る(笑)。

AM. 読者もすごく困る。

Ikeda. わたしはツバイクという人 が〝それじゃちょっと描いてみなさ いよ”とこちらの創作者としての主 体性を尊重してくれたと解釈して ・・・ツバイクは故人なのね…で、描 いたわけ。

AM. それと同じことが作品のアニ メ化にもいえると…。

Ikeda. そう。

AM. でも、ずいぶん長くアニメ化 を許可なさいませんでしたね。

Ikeda. ファンの猛烈な反対があって 恐ろしかったから。わたし自身とし ては、やってもおもしろいという気 はしていました。

AM. おもしろい?

Ikeda. ええ。自分の作ったキャラク ターたちがほんとうに動くという意 味でね。これ、やっぱり絵を描いて いる人の夢じゃないかしら。

AM. ところでベルばら”以外に アニメについて少しお聞きしたいの ですが……。

Ikeda. 困ったな。わたしは、まった く遅れてきたファンだから(笑)。

AM. アニメはよく見ますか?

Ikeda. いいえ。〝宇宙戦艦ヤマト”も〝銀河鉄道999″も見なかったし。

AM. 今後、見たい作品は?

Ikeda. そうね。とりあえずいま手塚 治虫先生がつくってらっしゃる〝火 の鳥〟なんか見たい。 あ、いま思いだしたけど、最近、 10分ぐらいのソビエトの短編アニメ 映画を自主上映会のようなところで 見たんですね。たいしてストーリー もなくて、ただチョウが飛んでいく だけのアニメね。 でも、すごくよか った。

AM. じゃあ、アニメに関心はもた れてるわけですね。

Ikeda. ええ。だから遅れてきたファ ンじゃないかと思う。手塚先生が『アニメはいいよ。あ んた作りなさい』っておっしゃるの 「ベルばら”みたいなお金になるもこと のじゃないけれど、10分ぐ らいのもので自分ひとりで 描くの。たとえば、公園で 少年と少女が出会って、 淡 い気持ちで見つめ合って、 すーっと別れていく。そう いう、ほんと10分くらいの とてもいいものが、10年半 もやれば描けますよ って いわれちゃった。

AM. ステキな構想ですね。

Ikeda. そういう作品、趣味 で描いてもいいんじゃない かなという気はする!!

AM. アニメの技術的なこ とは知っていらっしゃる?

Ikeda. ぜんぜん知りません だから、そのうち虫プロに 弟子入りしますって、いっ てあるの(笑)

AM. 最後に”アニメ”と いう表現形式についてひとこと。

Ikeda. わたしは大学で哲学 を専攻してたでしょ。それ を中学の恩師がとてもよろ こんでくれてたわけ。教え 子の中から純学問をやる人 間がでたということでね で、まんがを描くために大 学をやめるといったら”そ んなくだらないものを描く ヒマがあったらドイツ語の の 単語の

The Anime [pg. 64-66]

Comments:

Shunzo Kato:

反響は多いですよ。ほとんどが中学、高校の女の子たちですね。画面がきれい、物語が素敵という意見が圧倒的に多いです。放送が始まる前には「もしも原作と違ったオスカルやアンドレが出てきたら承知しない!」というような、おどしまがいのコワイ投書もあったんですが、今ではそういう内容のものはありません。きっと、アニメの立体感をたんのうし、そこから彼女たち自身、何か新しい発見をしているんじゃないんでしょうか。制作上の苦労ですか。いやあ、大変なんですよ。なにしろ登場キャラクターが多いもんですからね。それに主要キャラクターがむずかしいですね。オスカル、アンドレ、アントワネット等、ぜいたくさや豪華さ、繊細さを出すために、普通のアニメーションの倍以上の時間をかけているんですよ。さらに、背景にベルサイユ宮殿がありますしね。そういえば、初期に較べて、オスカル等の主要キャラたちも大人になってきて、全体の動き等もシャープになってきました。これから先、21、22、23話では、例のフランス史上有名な〝首飾り事件”が描かれています。さらに騎士事件”を経て、オスカルの周辺には、にわかに新しい展開が繰り広げられます。今までのようにアントワネットを守るだけのオスカルではなく、いろんな意味でオスカルは成長していくんですね。片や、オスカルとアンドレの関係も次第に明確になっていきますし、物語りの中で一番面白い部分にさしかかってきました。楽しみにしていて下さいね。

September

Animage [pg. 57-59]

3週間かけて決定したシナリオ

オスカルとアンドレがついに結ば れた。衝撃のラブ・シーンは「ベル ばら』での最大のハイライト・シー ンのひとつとなろう(第3話)。 このシーンをつくりあげるため、 制作スタッフはなみなみならぬエネ ルギーを注ぎ込んだ。まず、プロッ トを組み立てるため、打ち合わせと ハコ書きを繰り返すこと4回。さら にシナリオ書きで3回の書き直し。 通常、30分番組をつくるばあいに 打ち合わせからシナリオ完成までは 一週間といわれているが、この回に 限っては3週間近くもの日数をかけ ている。最後には、スタッフ同士、 電話連絡をとりあいながらの仕上げ になったという。 TVアニメの『ベルばら』は、原 作とはまた違ったひとつの作品世界 をつくりあげているが、第33話にも その姿勢がつらぬかれている。 アニメでははじめてのラブ・シー ンを誌上公開するとともに、制作ス タッフのコメントを紹介する。

ときめきのなかでひとつになった!!

愛がむすばれる。月の光、螢の ゆらめき、天の川の流れがロマン チック。ことに、螢のゆらめきと ふたりの表情をカット・バックさ せた効果に注目したい。このシー ンにはテーマソングが流れている。 美しい絵と音楽とモノローグがフ ァンタジックな世界をつくる。

私が苦心したところはここ!!
このシーンで各担当の方々がいちばん頭を悩ませた点について聞いた。

Comment by Kazuyuki Honma

このラブ・シー ンは「ベルばら」 には不可欠な重要 シーンなのです。なぜなら、貴族の オスカルと平民のアンドレがひとつ になる。つまり、オスカルにとって は自分の貴族の身分を捨てるという 意味があるからです。 むすばれるまでに、ふたりには心 理的な伏線が用意されています。ひ とつはアンドレの目が悪化して、も ラオスカルの顔さえ見ることができ ず、オスカルもそれに気づく。もう ひとつはオスカル自身が胸をわずら って、すでに治る見込みのないこと を医者から宣告されています。ラブ シーンは、こうした絶望的な状況に あるふたりが、 しかし前向きの決意 のもとで結ばれるところです。

Comment from Keiko Sugie

ラブ・シーンに いたるまでの経過 を原作とはだいぶ変えています。 原作では「アンドレ、あとでわた しの部屋へ・・・」、そして「今夜…ひ と晩をおまえ ・・・・・・・・」 と、オス カルがアンドレを寝室に誘っていま すよね。でも、これはつらい。 原作 なりのよさはあるんですが、これだ 金持ちのお嬢さんが下男を寝室に 引き込んでいるみたいになってしま うのでは……と思うんです。 ですから、このシーンでいちばん くふうした点といえば、オスカルの 気持ちの動きなんです。 オスカルを ほしいというアンドレの気持ちは前 々からわかっていますよ。 女であるオスカルがどんなふうに 燃えあがっていくのか。ことに、女 のほうから話を持ち込むときには、 女の生理として、なんらかの激情が なければいけない。内から燃えてくる熱い気持ちのたかまりが必要なんですね。 そこで、原作ではオスカルの寝室 に設定されていたラブ・シーンの舞 台を、パリ郊外に移すことになりま した。アンドレが民衆の暴動に巻き 込まれる。その彼を救い出すことが、 ラブ・シーンの直接のきっかけにな りました。ここでオスカル 衛兵隊 の隊長という自分の身分を忘れて群 衆のなかに駆け込んでいきますが、 それはつまりアンドレとの愛のなか にまっしぐらに飛び込んでいく場面 なわけですね。 この恋人同士はこのあとおたがい に命を捨てます。 もう先がないのだ ということを本人も、そしてまた、 お客さんもよく知っています。私と してはそういう点で、後を心配する ことなく安心して書くことができま した。

Comment from Shingo Araki

全裸シーンは人 間の曲線が露骨に 出ないようにシル エット的に、螢はあわい光で、スロ ーモーション的な動きに。ふたりの アップの表情は、心のなかのきれい のが出るようにとくに美しく―。 注意したポイントはそういうこと になるでしょう。たしかに、全裸で 抱きあうラブ・シーンはアニメーシ ョンでははじめてのことです。しか し、絵づらとしては強烈なものでは なくて、自然な流れのなかで描くこ とができました。むしろ、結ばれる イメージを、オスカルとアンドレの 心の流れを表現したものと解釈して ください。

Comment from Osamu Dezaki

なぜ螢が舞い、 天の川が出てくる のか、といわれて も…………。このシーンはひとつの話の なかのひとつの映像のタイミングで しかないわけです。ぼくとしては、 オスカルとアンドレの気持ちを盛り あげよう、ふたりの思いがつながる ようにやってみたとしかいえません。 見てもらう前にあれこれいうのは 理屈でしかないわけで、とにかく見 てください。 それで、きれいになっていないと 思われたら、ゴメンなさいというし かありません。

November

The Anime [pg. 76-82]

18世紀後半のベルサイ ユフランス革命とい う激動の歴史を背景に、 ここでオスカル・フラン ソワをはじめとする数々 の女たちの、美しくも激 しいドラマが生まれては 消えていったー。

1: 王家に仕える将軍の家に女 ばかりの子供達の未娘として 生まれたオスカルは、男とし て、軍人として育てられ、バ ラのように気高くも激しい人 生を送ることになる。 14の年、オスカルは軍人と しての腕を見込まれ、王妃マ リー・アントワネット付きの 近衛隊長として、王妃に仕え ることになった。

シャルロット「私…ちゃんと 手を洗ったわ。だからまた、 このバラのように綺麗にな れるの。結婚なんて・・・いや」 2: 王妃アントワネットの側近 ポリニャック夫人は、権力と 欲とに取りつかれていた。そ の娘シャロットは母のみにく い欲望の犠牲となり、政略結 婚を迫られたあげくに塔から 身を投げたー。

ロザリー「やめて下さい、私 はあなたを母などと思って おりません」 3: シャルロットの姉ロザリー は、シャルロット同様母親ポ リニャック夫人の犠牲になり、 捨てられて別々に育った。そ の上、彼女は育ての母を実の 母に轢き殺されるという皮肉 運命を背負いながらも、け なげに生きて来たのだった。

ジャンヌ「ごめんよ、ニコラ ス……………。ごめんね・・・私・・・ ひとりじゃさびしくって…」 4: ロザリーには血のつながら ない姉ジャンヌがいた。ジャ ンヌは薄汚れた下町の暮らし を抜け出し、華やかな貴族の 生活を送るという野心のため に次々と悪事を重ね、果ては フランス犯罪史上名高い〝首 飾り事件を起こす。

5: 王妃アントワネットと深く 悲しい恋におちたスウェーデ ンの貴公子フェルゼン・・・・・・。 オスカルは彼にほのかな慕情 をいだいていた。そして・・・・・・ アンドレもまた、オスカルに 秘かな想いを・・・・・。 アンドレ「愛し、愛されて、 何がつらい。打ち明けるこ とすら出来ない恋だってこ の世にはゴマンとあるんだ」

フェルゼン「・・・美しい人で、 やはりブロンドの髪で・・・」 オスカル「フェルゼンの腕が 私を抱いた・・・これで、私 はあきらめられる!!」 6: 舞踏会は幸福のときであり、 また悲しみのときでもあった オスカルは秘めた想い をドレスに託し、フェルゼン にそれと分からぬよう、彼と ダンスをするのだった・・・・・・。

アンドレ「はなしません!! オスカル様をお斬りになる というのならば、この手、 永遠に離しません!!」 7: 三部会を解散させようとし 近衛連隊から平民議員を守 ったオスカルは王室にたてつ くとして父ジャルジェ将軍の 怒りを買う。成敗されようと したオスカルを、身を挺して 救ったのはアンドレだった!

オスカル「アンドレ・グラン ディエ、あなたがいれば・・・ 私は生きられる……いえ、 生きて行きたい……!!」 8: オスカルの肖像画も、アン ドレにとっては悲しみの象徴 でしかなかった。彼の目は昔 受けた刀傷がもとで、ほとん 光を失ってしまっていたの だ……。 そして–革命前夜、 二人の愛は固く結ばれる・・・。

9: 1789年7月13日、民衆 への一人の兵隊の発砲が引き 金になり、ついにフランス革 命の幕が切って落とされた。 オスカルは、自分の信じる 道に従って貴族の身分を捨て た。民衆とともに革命に突き 進むオスカルとアンドレ・・・・ だが、この道はもう二度と戻 れない道であるかも知れない ことを二人は知っていた。

Interview with Osamu Dezaki

歴史と個人の問題なんだ

AM. 出崎さんが「ベルばら」 CDを引き継がれたのは第19話『さ よなら、妹よ!』からですので、 中間あたりですね。

Dezaki. ええ、前CDの長浜忠夫さん を継いで、ポリニャック夫人の娘シ ャルロットが征略結婚を嫌って自殺 する話からです。今はとにかく、ボ クなりの仕事をやり終えたっていう のが実感……。

AM. 出崎さんにとって少女マン ガの仕事というのは、「新・エース をねらえ!」に次いで2作目になり ますが……。

Dezaki. そうですね、少女マンガって 表現の上でもストーリィの上でも、 ちょっと独特の感じがあるでしょ。 だから、原作をベースに、ボク自身 の土壌に引き込んで作って行ったと ころもあるね。「ベルばら」の場合、 大きな設定が大変面白いと思いまし たね。ただ、一話一話の話を、それ ぞれどう解釈して行ったらいいのか という部分で、難しいところもあり ました。

AM. 難しい面といいますと、こ の作品はフランス革命という歴史の 一大事が背景にある、そんなところ もとらえ方として難しかったのでは…?

Dezaki. そう、歴史の中にオスカルと いう架空の人物がいて、それが歴史 上の人物と関わって行くわけ。だか ら、ある意味ではフランス革命の裏 面史というか、大きな歴史の中にあ ったひとつのプライベートな出来事 というとらえ方を、ボクはしている んですよ。オスカルがいたから革命 が起こったわけではないし、また革 命が成功したわけではない。ひとつ の大きな流れの中で、生まれて、苦 しんで、恋して、そこに死んでいっ オスカルとアンドレという二人の 人間を描いてみたかった。

AM. そうですね。オスカルがフ ランス革命を変えたみたいなドラマ になっては、出来すぎですね。

Dezaki. こういう社会の激動期に揉ま れて、揉まれながらもその人がその 人自身であり得たかという、いわば 歴史と個人の問題がテーマだと思い ますね。そういう視点に立ってみな いとオスカルが結果的にフランス革 命を変えたようで、豪慢な人間にな っちゃう。そんな女にはしたくなか ったね。アンドレは貴族の館でメシ を食いながら革命に参加して行く。 オスカルも貴族でありながら革命に 身を投じて行く。そういう矛盾をひ とりの人間の悩みとして、出来るだ けとらえようとしたつもりです。

AM. なるほど、そういう出崎さ んのとらえ方は、画面によく出てい たと思います。

Dezaki. 「ベルばら」に限らず、ドラ マというものは全て、ストーリィの 中に人物がいるんじゃなくて、まず 登場人物がいて、そこからドラマが 生まれて来るんですね。存在感のあ るひとりひとりがフィルムの中にあ って、それぞれの個性が織り成すも のが、全体的に見たときにストーリ として出来ている。それが演出の 基本だと思います。

AM. だから、オスカルが革命に 加わったから面白いのではなく、オ スカルというひとりの人間が、結果 として革命に向いて行ってしまった ということが面白いんですね。

Dezaki. オスカルは社会の変動という 状況の中で、どうしようもなく動い て行ったんですよ。アンドレへの愛 情とか自分の内面の問題も含めて、 市民側へ走らざるを得ない、そうせ ざるを得なかった。歴史の陰に、そ ういうひとつの生き方があってもい いんじゃないかと思うし、そういう 人がいたと思うこともステキなこと じゃないかって気がしますね。そう いう見方のほうが、より人間的だし ね。

ジャンヌがすごく好きだった

AM. 出崎さんご自身、印象に残 っている場面とか、エピソードなど はありますか?

Dezaki. うん、登場人物がたくさんい けどね、中でもボクはジャンヌが すごい好きでしたね。ジャンヌって アントワネットにひとアワ吹かせよ うとして首飾り事件の主犯になった り、徹底的に悪い女だったけれど、 彼女の中に“より生きよう”という 根強いものを感じますね。彼女は、 自分自身の中で徹底的に生きようと したんじゃないかな。 ベルサイユと いう虚飾の中では、そういう強烈な 人間に皆んな負かされてしまうんで すよ。どこかカッコつけてる人達を 心の底から揺り動かしちゃうみたい な感じで、「アタシはこれがやりた いんだからしょうがないじゃない!」 ってヤツがひとりいたりすると、皆 んなワ~ッとなっちゃてさァ…… オスカルとはまた違ったところで、 鮮烈な生き様がジャンヌの中にあっ たと思う。

AM. 終盤にきて、原作とはだい ぶ変わったところもあるようですね。 アンドレが死ぬ回の39話で、 オスカ ルが「裏切ることより、気づかない ことのほうが罪だ」と言いますが、 あれは原作にはないセリフですね。

Dezaki. そうです。アンドレの愛情と 民衆のこととか、オスカル自身は どこかで気づいていたけれど、あの 場面で、決定的にもっと存在意識の 深いところで気づいたんだという描 き方をしたんですよ。あそこでオス カルにひとこと、そう言わせること によって、ボク自身も納得がいくわ けですよ。だって、それでなきゃ、 アンドレがあまりにも可哀そうじゃ ない(笑)。やっぱり人間は、人そ れぞれの持ってる苦しみや悲しみに 気づいてあげるべきじゃないかな。

AM. よく分かります。それに気 づいたとき、二人はすでに生きるこ とさえ出来なかった……。

Dezaki. ボクがアンドレの死を描く場 合、オスカルと行動を共にして、オ レの人生はこれで終わった、幸福だ ったんだっていうふうには死なせた くなかった。オスカルにしてもそう です。ここで死ぬなんてくやしい、 もっとやりたいことがたくさんあっ たんだって、そんなふうに死ぬのが 彼らの、つまり人間の死に方だって 気がするんだな。アンドレはオスカ ルと結婚式を挙げて、新しい人生へ 向かって踏み出したかったはずです よね。だから、アンドレが死ぬ場面 は、アンドレ本人はまだ生きている つもりで、まだオスカルの言葉を聞 いているうちにフッと逝ってしまう ような描き方をしたんです。

AM. そういえば、あの場面はシ ナリオとは違っていましたね。シナ リオでは死んでゆくアンドレがオス カルに向かって話しかけるところを、 演出では逆に、オスカルがアンドレ に語りかけるように変えていました ね。オスカルが「これから教会へ行 って、式を挙げて」と言ったと きには、アレ? オスカルって、こ んなことを言う女性だったのかって いう感じがしましたが……。

Dezaki.あのセリフは、あえてシナリ オとは逆に、オスカルに言わせてみ たんですよ。というのは、オスカル を、やっぱり可愛い女として描きた かったんですね。理想的なイイコち ゃんで終わっちゃったら、キャラク ターとしての魅力がなくなってしま うもの。アンドレが言うから、アン ドレのために・・・・・・だから私は民衆側 につく……そういう女としての可愛 らしいところも、オスカルの一面と して出してみたかった。そのために、 途中から原作とは違って、オスカル アンドレの立場を逆転させてしま ったわけですよ。だから、最後のほ うでは、アンドレがオスカルを引っ 張って行くような感じになっている んですね。

Comment from Toshiharu Mizutani

止め絵として挿入されていたイラ スト画は、ボクが描いたものです。 色鉛筆で描いたラフなタッチの絵で したが、絵の具より色鉛筆のほうが ちょっとザラッとしたタッチになる んですね。ツルツルしたセルなどと は対照的に、人間の肌の感じを別な 面から出せたと思います。 普通はセル画と同じように、輪か くにトレース線を入れて撮影するん ですが、最終回のときだけはトレー ス線なしで、イラストそのままで出 してみました。うまく撮ると、かな リアルな感じになる。今まで試す 機会を狙っていたので、最後にここ ぞとばかりに使ってみました。 美監の仕事は「ベルばら」が初め てだったんですが、背景画は出崎さ んの注文もあって、演出効果をねら った、ポイント描写が多かったです ね。それに、イメージ的な心象風景 もかなりありましたね。

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