1980
August
Animage [pg. 52-54]

September
Animage [pg. 30-32]



増加一途の人口問題の解決策として海洋開発をシャニムニ進める地上人。だが、その陰で苦しんでいる海の民がいることを、彼らはまったく知らなかった。日本海洋科学局のスタッフ、海野広は科学局爆破の原因を究明するため、事件直後失踪した同僚のナミを追ううち、海の民の存在を知りガク然とする。が、時すでに遅く、ただ一人、海の民の存在を知っていたビルバードは女王イザナミの警告戦闘開始でこたえていたと、ここまではAM8月号で紹介済み。このあと、物語は不毛の闘いの中で悲劇的なヤマ場を迎えるわけだが、ストーリー的にも絵的にもさすがに見どころがいっぱいだ。まず、海での戦闘シーン。海の民の存在を賭けて勇敢に闘うゼイ海の戦士たちも、圧倒的な陸の武力攻勢の前につぎつぎと倒れ、そして海の底に沈んでいく。その姿に、見るものはいいようのないモノ悲しさをおぼえるに違いない。さらに見逃せないのはマリンスノーの降るシーン。どのスタッフも一様に苦労したというこの場面、いったいどのような仕上がりになったか、興味シンシンである。さて、肝心の戦いの行方だが、海の民の劣勢はすでに挽回不可能なところまできてしまう。追いつめられた海の民たちは、第二の故郷ガニメデを目ざし、つぎつぎと宇宙船を発進させる。だが、それも地上軍の砲火に会い、1隻、また1隻と沈められていく。苦悩するイザナミ。もはや海の民には滅亡の道しか残されていないのかー?
Comments:
Fumio Ikeno: この企画がもち上がったときに最初に感じたことは、こりゃマリンスノー”で苦労させられるぞってこと。案の定、制作に入ってからはマリンスノーの描き方に頭を痛めっぱなしでした。何といっても、マリンスノーはこのアニメ作品の生命をにぎっているといってもいいほど大切な要素ですからね。美しく、詩的に、そして象徴的に表現しなくてはなりません。しかもですよ。実際の海の底では、いつも降っているはずなんですが、そんなことをすると画面がうるさくっさらに背景が暗い海ときた日には、本当に困りましたよ。で、ひとつの方法として、動画ではなく、絵画的処理で、海底場面ではつねに降っているというふんい気をつくったわけです。実際に降らす場面では、光を使ってリアルに、そして情緒たっぷりに描いてみました。雪国の夜に、街路灯のあたっている空間だけ雪が見えて、まわりは闇というシーンがあるでしょう。あんな感じで追ってみたんです。あと、それぞれの担当スタッフが話してくれると思うけど、美術では海の色出し、キャラでは性格設定で、かなりスッタモンダしました。じつをいうと、ぼくは海底ものをやるのは2度目なんですが、以前のはリアルそのものに描いたんです。ところが、今回はSFメルヘン風でしょう。そのうえ、マリンスノーが降るというのですから、まるっきり勝手がちがってしまいましてね(笑)。でも、それだけ熱中してやれましたし、何とかねらいどおりのきれいでファンタジッな絵になったと思います。いまは放映がまち遠しいですね。
Jirō Kōno: 美術の場合、ポイントはテーマそのものである海の描き方―これにつきますね。もともと海というのは、星のようにアクセントがない。それだけ宇宙を絵にするよりむずかしいですからね。ずいぶん悩まされましたよ。まず海面の色。これについてはある程度のイメージがあったから比較的スンナリいけました。指宿や東京湾、太平洋と、それぞれ微妙に色を変えたりして……。まあ、かなりウマくできたと思います。問題は海底。実際は真暗闇なんでしょうが、それでは絵にならない。スタッフ間でもいろいろなイメージがぶつかりましてね、結局、松本先生が「こんな感じだろ」と見せてくれた外国雑誌をヒントに、光を使って海を描く手法をとったわけです。サーチライトをサァーと走らせたり、海の宮殿の明かりを使ってコントラストをつけたりね。つまるところ〝海を感じさせる”ということで、ムード的に表現していったんです。海底もの”というのはぼくもはじめて。ですから、かなり緊張しましてね、いまはグッタリですよ。
Seiji Yamashita: テーマの大きさにキャラが食われたというか、とにかく、脚本を読んだ段階でも個々のキャラの印象が薄くてね、設定のときも個性がつけにくかった。まず、これという主人公がいない。それと、どこから見ても悪役というものがいない。つまり、ほかのアニメと違って、シチュエイションが非常に複雑。それだけに、顔つきなんかも単純に色分けできないむずかしさがあるわけです。とくに苦労したのは海野広とゼルバード。海野の場合、もっとも出番が多くて、一見主人公ふうだけど、実際は進行役。だから、基本的には無個性なんです。ただ、黒子じゃないから表情は追わなくてはならない。もっとも出番の多いキャラが平凡で、しかも場面場面で表情にメリハリをつけるんだから、正直シンドかったですね、これは。一方、ゼルバードというキャラ曲者でね。一筋縄ではいかない。すべて私利私欲のためではなく、彼なりに人類の未来を考えている、という設定なんです。脚本を読んだだけではそのへんがつかめなくてね、極悪そのものの感じで描いてきたスタッフもいました。最終的には善悪はタナ上げして、とにかく大物感を出そうってことでまとまったんですが・・・。そんなわけで、一つのキャラを描くのにもずいぶん知恵と時間をかけたしだい。それだけに愛着もひとしお、という感じがします。
The Anime [pg. 30-37]



