1982
November
My Anime [pg. 50-52]


1: 大河ドラマのプロローグ
物語は突如、宇宙から飛来し 物体が地表に激突するという SF作品ではきわめてオーソド クスな展開からはじまった。 演出の石黒昇氏によれば「マク ロスは徐々に話のボルテージが あがっていく大河ドラマ。そこ でプロローグはごくスタンダー ドな演出をねらった」という。 マクロスが落下した小島の位 置は伊豆七島の南端付近、統合 戦争の結果、人種や言語の区別 っきりしなくなっている。 島民の大半がマクロス修復関係 者とその家族という設定にな っている。
2: 魅力あふれた艦橋
マクロスの艦橋シーンでは日常の取るに足らないよ うな会話をとおして、さりげなく人物紹介がなされて いた。日常感覚の魅力を生かしたいと石黒氏はいう。 「人間の平凡なおかしさ、たくましさを、ドラマ全体 の設定の壮大さと対比的に描いていきたい。これはぜ ントラーディ側の描写にもいえることで、マクロなも のとミクロなものの出会いというテーマを意識した演 出のひとつです」(石黒氏)
3: スタントパイロット・一条輝
バルキリー隊によるアクロバット 演技の中に飛び入りする一条輝のフ アンレーサー。さっそうの主人公登 場!だった。バルキリー隊のコンバ ットロールの動き、ファンレーサー がロケットブースターに点火して一 気に上昇していくさまなど、メカの 動きをみせる視点がなんともカッコ よく、メカ演出と作画陣のレベルの 高さを感じさせる。輝とロイフォッ カー少佐とのやりとりも軽妙で楽し く、今後の期待感を盛りあげる。
4: ヒロイン(リン・ミンメイ)登場のさせ方
アクロバットを見物する群衆のひとりで登場したリン・ミ ンメイ。これもまた実にさりげない。彼女のヒロインとして の存在は今後のストーリー展開上、非常に重要な位置にある らしいのだが・・・・・・。 そのミンメイのかわいらしさにさっそく 目をつけたロイ・フォッカー。「彼は輝の父親が結成したアク ロバットチームのナンバーワンパイロットでしたが、統合戦 争の時に戦闘機乗りとなり、そこにアクロバット以上の魅力 を感じてしまった。輝の父親はすでに死亡しており、いまは 輝の兄のような存在です」(石黒氏)
5: 周到なSF設定
マクロスが落下した光を10光年先で探知したゼント ラーディ軍は、ただちにフォールド(ワープ) 航法に より地球近くに出現。 それを探知してマクロスの自動 攻撃システムが、その先導艦を撃ってしまい、望まぬ はじまってしまう。 マクロスの修復期間中にゼン トラーディ軍がやってこなか った理由、戦わねばならぬ状 況をみごとに設定していた。
キャラデザイン・美樹本晴彦
リン・ミンメイに早 くも人気が集中してい る。これは美樹本氏が マクロスの企画以前か あたためていたキャ ラ。上の図は氏が描い キャラ関係図。 「ゼントラーディ人と 人類をならべて描いた とき、どうしても彼ら が巨大なのではなく人 類が小人のように感じ られる。いまうまい表 現を模索中です」
6: 臨場感の出し方
宇宙戦闘シーンのメカのていねいなこわれ方 に注目してほしい。たとえばミサイルが至近距 離で爆発すると、その熱で艦内の人々が死亡、 コントロールを失い、2発目の衝撃で外壁がこ われていくといったこまかい演出がなされてい た。ビームで撃ちぬかれる“アームドI”など は爆発もせずに撃沈され、かえってリアルな臨 場感を表現していた。
7: 異種人類の謎
50万年以上も前から、監察軍との戦いをつ づけているゼントラーディ軍は、本星からの 無限ともいえる武器の供給を受けて戦ってい るため、メカを修復する技術をもたない。油 らはマクロスが地球人の手で修復改装された ことを知り、さらに同様にしてすでに彼らが 失った反応兵器(核兵器)の攻撃を受けるにいたり 人類を簡単に滅ぼせなく なる。 しかも「小型の人類に 手をだすな”とのいい伝 えがゼントラーディにあ る」(石黒氏)という。
8: スピード感あふれる空中戦
メカ作監・板野一郎氏の腕がいかんなく発揮されたシー ン。ラダー(尾翼)の点検後、短い距離で離陸するバルキ 目にも止まらぬ速さで展開していく空中戦など、 輝 がはじめてバルキリーを操縦して体験したそのままを、こ ちらに伝えてくる。メカにうるさいスタッフたちのなみな みならぬ苦心がうかがえるシーン。
9: 業界注目のバトロイド変型
バルキリーがロボットに変型するのに要する時間は きわめて速く、約3秒前後である。これは変型の途中 は無防備に近くなるという設定から、従来のロボットア ニメにおける変型よりも数段スピーディになったため。 変型パターンも美しく、かつリアルに矛盾なく設定さ れている。 左の写真をじっくりみてほしい。
上の写真はアートランドのス タッフで構成されているメカシ ーン作画のためのチームだ。メ カ作監の板野一郎氏は「イデオ ン」「ガンダム」のメカシーンの 作画を担当していた。「アクティ ヴなカメラワークで、迫力ある アクションシーンを描いていく」 とはりきっている。
