Shōji Kawamori

1981

April

Roundtable Interview w/ Kenichi Matsuzaki, Leiji Matsumoto, Kazutaka Miyatake, Yuki Shimoyama, Tomoko Suzuki [Anime Roundtable Discussion: Leiji Matsumoto and Studio Nue, My Anime]:

不死鳥「宇宙戦艦ヤマ ト」―元祖ヤマトは アステロイド6

Shimoyama. 松本先生とぬえ”の出会い の作品はなんだったのですか。

Matsumoto. 「宇宙戦艦ヤマト」だね。

Miyatake. そのあと「ハーロック」「999」 でも…。 あと細かいもので 少しありますね。

MA. ぬえ”の方々はデザイン を依頼された場合、松本先生のイメ ージを図形化するのにどういった苦 心をしておられるのでしょう。

Miyatake. 先生がふだん作っているデザ インの中から、先生的要素というの をピックアップする作業が一番大 変です。たとえばヤマト側とガミラ ス側とは根本的にデザインを変える 必要がありますが、それでいて両方 とも先生の世界に入って不自然であ ってはならないわけです。

Suzuki. “ぬえ” の方々は、松本先生 の世界をどう見てますか?

Miyatake. 非常に美術的な世界です。

Kawamori. 世界観がハッキリしてる。

Matsuzaki. というか、完全に個人の世界 なのね。

Miyatake. だから先生が前面に出てくれ ば、ふみはずしというのは絶対にな いですよ。

Suzuki. ところで、メカ設定の場合は やはり動かす時の ことを考えて設定 するんですか?

Miyatake. 本当はそこ まで考えなくちゃ いけないのですが。 理屈より何よりも、 動かしておもしろい もの、格好つくもの、 ということでやらなけ ればね。人物と同様、 カもキャラクターだと いうことなんです。

Suzuki. 私も少しアニメを やってるんですが、すぐ 逃げたくなるんですよね、 メカは(一同笑)。

Matsuzaki. ま、〝ぬえ”なんかは その点、アニメーター泣か せなんですよ。

Matsumoto. 私もそういう点では、 みなノイローゼにしてまわっ てるね。

Suzuki. ええ、999号の動きな んかもう大変なんですよ。

Matsumoto. ただね、私のデザインの 基本というのは、まず見てもっと もらしく迫力があり、デザイン的 に破綻をきたさないこと。だから 動きを多少犠牲にしても、あえて右 と左を変えたり、ムードに流れるほ うなんですよ。 松崎さんとこは違う ね。動かし方については、かなり厳 密だよ。

Shimoyama. そうしますと「ヤマト」の場 合の設定は・・・・・・。

Matsumoto. “ぬえ”にはね、いわゆるア ニメとは少し違って、デザイナーと してのデザインの総まとめをやって もらったの。ただ、艦内の通路だと かハッチとかにつ いては、イメージ とデザインの傾向 を指定しておまか せしたような記憶 があるけど。トイ レにしても、艦が 一回転してもトイ レだけが自在球み たいになってジャ イロで動かないと か….。

Miyatake. ま、トイレは、ちゃんとセル までできて撮影もしたんだけど放映 されませんでしたね。島が入って、 身をブルブルっとふるシーンまであ ったんですよ。

Shimoyama. わあ、それはぜひ見たかった なあ。ヤマトの艦内生活って、あん まり多くは出てないですものね。

Matsumoto. ウーン、長さの関係です。作っ てはあったんだけど、そういう場面 は極端に少なくなっちゃった。

MA. ヤマトの場合、実際の大和 がありますね、それをどのように宇 宙戦艦ヤマトに写したのでしょう。 宮竹 実物の大和、あれ横巾が非常 にあるんですよ。

Matsumoto. タライみたいなね。

Miyatake. ところが、大和の写真という のは横からだけしか写されてません から、もうひたすらスマートで実に きれいなフォルムに見える。だけど 実際は、防水区画と魚雷用の耐弾装 甲との関係で脇に非常に大きなバル ジがあって、世界中例をみないほど 巾の広い戦艦になっているんです。

Matsumoto.それを宇宙戦艦にするときは 万人が大和に持っているイメージを こわさないようにと。我々はあの時、 と改良を加えた。 大和のコンバーシ ョン・モデル、改 良モデルというふ うに言ってたんだ よね。だから、あ くまでも基本型は 大和のシルエット を活かし、なおか 空を飛んで三六 ○度まわりから見 てもおかしくない ようにデフォルメ

Shimoyama. そのヤマトですが、戦艦大和 を宇宙へ飛ばす発想は一体どこから きたんですか?

Matsumoto. 「宇宙戦艦ヤマト」というタ イトルと企画書は、西崎氏のところ にすでにあったんです。

Miyatake. それは、松本先生が関係する 一年前から話をおこさなければ・・・。

Shimoyama. じゃあ、その頃からもう 「宇 宙戦艦ヤマト」というアニメを企画 してたわけですか?

Matsuzaki. その頃はヤマトじゃなく 「ア ステロイド6」という名前で、 え〟の前身である”クリスタル・ア ート・スタジオ”もかんでいたんで す。こちらはアステロイドをくり いて、それをいろいろ中で作りあげ から飛ばして、周りのアステロイ ドの岩が吹き飛ぶと戦艦の格好をし ているというシロモノでね。これを アチラの要望にこたえて、だんだん デザインを変えていったら、長門と いうか日本の戦艦に近くなって。そ の間に、制作にあたるはずだった虫 プロがつぶれちゃって一年間空白が あったわけですよ。それからアカデ ミーが松本先生のところへ行って、 企画が別に練り上げ直されて、もう 一度ウチに話がきたわけ。

Miyatake. 戦艦だったら大和じゃないか ということで。

Matsumoto. まあ、武蔵大和かっていえ ば、名前の通りとかで確かに大和の 方が……。 ただ、正直いってこの話 が来た時「なんで俺が大和を」と、 そういうためらいがあったことは事 実。大和というといろいろな思いが かぶるんで、扱い方が難しいなと思 いましたよ・・・・・・。

Shimoyama. それはやはり、先生が本物の 大和の最後を知っておられるから?

Matsumoto.ウン、知っているというか、 現実に大和は二千か三千の遺骨を抱 いたまま、まだ引き上げられていな いし、御遺族の方たちだっていらっ しゃる。そうしたことを考えた場合、 この問題は、配慮に配慮を重ねて軽 率に扱うべきではないと思った(一 同、神妙な顔つきになる)。だから絵 コンテか台本の段階で遺骨の問題を 取り上げていたのだけれど、カット されちゃった。本当はそういう問題 こそ、きちんとやらなければならな いんだよね。ま、それで、あそこま でやりながらいまひとつ心理的に歯 切れが悪くて……………。といっても、こ れはあくまでも内容そのもののこと でね、デザインとか、そういうこと は別ですよ。

アルカディア
テレビと映画、形が違うそのわけ は――マッコウクジラ型誕生秘話

Shimoyama. 先生の作 品にはハーロッ クっていう名前 がよく出てきますね。

Matsumoto. ハーロックというのは、今現 実に使っているキャラクターの中で は一番古くてね。ただ、アニメの場 合 「ハーロック」と「999」とい うのは、松崎さんはよく知ってるけ ど、企画書の原形を作った時は「9 99」を先に書いてあったわけです よ。

Matsuzaki. それで「ヤマト」作った直後 だったし、いくらなんでも「999」 ではなじみがないというんでハーロ ックの名前が先に出ちゃった。

Shimoyama. ハーロックっていう名前は、 なにか出典でもあるんですか?

Matsumoto. 出典は秘密結社の合言葉。ハ ーロックといえばハーロックと返っ て。〝開けゴマ”と同じことだよ。 原形ではキャプテンというのは、艦 長じゃなくて大尉の意味だった。

Shimoyama. ああ、陸軍の。

Matsumoto.そう。だからハーロック大尉 だったわけ、一番最初はね。

Suzuki.ハーロックの故郷、ハイリゲ ンシュタットというのは?

Matsumoto. 北ドイツとウィーンの郊外の 二カ所に、まったく同じ地名が実在 してます。本来の場所は北ドイツで、 今の東ドイツ領内にある。またの名 をアルカディアといってね。それで 船の名前をアルカディアにした。

Shimoyama. アルカディア号も”ぬえ”の 方々がデザインしたのですか?

Matsumoto.「999」の時を両方ともそ う。イメージとラフをして、協議 して作ったんたよね。

Shimoyama. アルカディア号の特徴ってい うのは後部のたいなところで すが、 あれの発想はどちらが?

Miyatake. あれは松本先生。

Matsumoto. 海賊船だからね。大海賊とい うと、あのキャビンがないことには おさまりがつかないもの。

Suzuki.先生は海賊がお好きみたいで すね。

Matsumoto. 子供の時から八幡船が好きで 中学生の頃は、よく海賊のマンガを 描いてたっけ。昔の映画には海賊も のがけっこうあってね 「地獄の奴隷 っこうあってね「地獄の奴隷 船」なんかの影響を受けたみたい。

Shimoyama. アルカディア号は、映画とテ レビで形がだいぶ違いますね。

Matsumoto. 映画の時は、テレビ版のアル しようということ カディア号 で。あの時の質武さんだっけ。

Miyatake. ええ、アルカディアに関して は全体的に僕で。前のデザインが いまひとつアニメではなかった ですものね。

Matsumoto.テレビで放映されてみたら、 寸づまりになってね。

Miyatake. あれは、アルカディア号とい うのが、僕個人としては大気中を飛 ぶ宇宙船のイメージが強かったんで す。それでひと思いに、アルカディ ア号は、ヤマトなど今までの宇宙船 と根本的に違った広大な翼をくっつ けてやろうという意図があったんで すよ。 ところが..。

Matsumoto. ウン、翼がやたらに巨大にな って、真下から見た構図ではブーメ ランというか、凸の字が動いている ような異様なことになっちゃった。 まあそんなわけで、全長を伸ばした。 それと「999」の内容で、都市を 頭で押しつぶしてけちらしながら行 くというのがあったため、頭に重量 感を持たせて、あのマッコウクジラ みたいな格好に変えたんだよね。

MA. テレビと映画で色が違いま すけど。

Miyatake. ええ、まあいろいろとありま してね..。

Matsumoto. 本来、船というのはぬりわけ るものじゃないですよね。それで、 戦艦というのはごく同系色の色でう ずめるというイメージで、映画では 色を変えたんです。ま、テレビと映 画じゃ予算がまるで違うから、手を かけられる。「ヤマト」の時に、ガ ミラス艦をまだら迷彩でやろうとし たら、動かせないっていうんで一色 になったけど、「ハーロック」では エメラルダス号をまだらで動かして みせた。やってやれないことはない んですよ。手間の問題で。

本物を知ってればホラ のつき方がわかるー 研究は趣味で楽しく

Shimoyama. 松本先生のメカの内部は、丸 いメーターがやたらに多いですね。

Matsumoto. あれは完全な趣味の問題で。 四角いのもたまには使うけど(一同 爆笑)。これは私が飛行機狂なんでね。 クルマを買うときもメーターが四角 いと買わない。

Suzuki. じゃあ、先生がお好きなクル マは?

Matsumoto. ベレット1600GT、これ なんか丸いメーターの行列。前のク ルマはこれだったけど今はスカイラ イン。昨年の暮れに、家の鉄柱にぶ つけてバンパーがへの字になっちゃ ってるんだなあ(一同唖然)。

MA. アルカディアやヤマトのブ リッジが出っぱっていますけど、そ れまでああいうのはなかったですよ ね。相当新鮮でしたよ。

Matsumoto. あれもまた、ひとえに私の好 みでしてね。じつは、戦艦とか空母 の資料が極端に少なくて、映画なん か見た記憶で再生するしかなかった んですよ。戦艦の本自体はたくさん 出てるけど、ブリッジ内部の写真て のはほとんど無いですね。

Shimoyama. それじゃ資料は映画だけ?

Matsumoto. ウン。でもイメージっていう のは拡大されてしまうんでね。実際 のものよりも8畳敷的に広がってい くわけ。だからヤマトがあんな大艦 橋になってしまう。

Miyatake. ぬえ”お得意の倍数効果と いう言葉を生み出すことになるんで すよね。実際に入 らないサイズの中 に、視覚的には入 れてしまうという やつです。

Suzuki. 作品を作るた めの資料集めは大変 でしょうね。

Matsumoto.かかってから資 料を集めるっていうの は非常に苦しいね。 時 時だけど、せっぱつま って持ち出したあとで資 料をあさる騒ぎがある。 これは研究する時間がな いため、非常にストレート 資料が出てしまう上、生 煮えになってしまって。だ から日頃趣味として、勉強じ ゃなくね、楽しく知っておか ないと仕事にならないですよ ね。

Miyatake. ま、多少のかたよりはあ るけど、出てるニュースとか本 とかは買いあさって暇さえあれ ばめくってますね。金はたまり ませんけど(笑)。資料といえば、 最初のヤマトの時スタジオで、オ シログラフのコピーを提供されて あれは圧倒的だった。

Matsumoto. あれは某社の友人に頼みまし てね。実物はこうだから、こうやっ てれば間違いなかろうってことで。

Matsuzaki.とはいってもね、そのとおり うまくいかなかったり(一同爆笑)。

Miyatake. メーターの数が半分に減って しまったりね。

Shimoyama. 僕の仲間のSFマニアの間で は“ぬえ”っていうのは、機能を一 番においてデザインしていくのだと 評価されてるんですが。

Miyatake. それは迷信です(笑)。

Shimoyama. えっ、迷信なんですか。

Matsuzaki. それは、だいたい考えればわ かってもらえると思うけど、あり得 ないものを描いてるのに機能ばかり 追いかけてたら実物が作れちゃう。

Suzuki. すると、メカのデザインや設 定で実際には無い架空のもの、ああ いうのは自分の想像だけで描いてい くんですか?

Miyatake. ですから、まったく架空のも のを作る場合には、現実が踏み台と なるわけ。何もないところからはも のは発想できないでしょう。

Kawamori. その分、理屈も解釈しておか ないと、松本先生も先程おっしゃっ たように、資料がモロに出てしまう というか、全然新しいアイディアがつ け加えられないで出てしまう。(これ まで、じっとみんなの発言に聞き入 り、その一つ一つを吟味していた感 の河森さんが発言に加わる)。

Matsumoto. 知らない世界では、ホラを吹 くと不安があるわけ。ホラがホラに ならなくなるものね。

Shimoyama. ハインラインの宇宙の戦士” のパワード・スーツ。あれも架空な わけですが、でも、もしできるとし たらやっぱりあのデザインしかない んじゃないかって気がするんですけ ど(真剣な表情で)。

Suzuki. そうね。動きの機能や守りの ことなんか、とてもよく考えてある みたい。

Miyatake. パワード・スーツに関しては 僕も加藤も松崎 も、当初からひたす ら作品自体にほれこんでいたから。 あれは作品にまとめる以前に、ブレ ーン・ストーミングを二年ぐらいや ったし。

Shimoyama. そういうのは、松本先生のア ニメにも活きているんですか?

Miyatake. ヤマトにしてもアルカディア にしても、細かいとこのこだわりっ ていうのはずいぶんやってますね。 機首にバーニア・ノズルがくっつい てるでしょ。

Matsumoto. たとえば照準器。 照準器とは あんな格好をしている、というのを 持ち出したのはあれが最初だった。

Kawamori. 結局、本物を知ってればホラ の吹き方がわかるという形で・・・・・・。

Matsuzaki. どっかでふざけて書いてあっ たけど、摩訶不思議な力で飛ぶ、そ れだけはなしにしようということで ね(一同大爆笑)。

フランスで大人気ーキャプテン・ アルバトーレことハーロック

Shimoyama.先生のアニメは、だいぶ海外 へも出てますね。

Matsumoto. フランスでは「ハーロック」 が「アルバトーレ」というタイトル になってね。なんでもむこうに「キ ャプテン・ハードック」っていうの があるんだってさ。

Suzuki.ハードックなんて、ハーロッ クがなまったみたい。

Matsumoto. ただ「ハーロック」は、受け 入れられ方は大変スムーズだった。 アメリカ人にしろヨーロッパ人にし ろ、たいてい先祖に海賊がいるって わけですね。だからむこうには「アル バトーレ」があるんですよ。本屋に。

Suzuki. おもしろいもんですね。

Matsumoto.その他には「999」 「ヤマ ト」「スタージンガー」、みんな放映 されてますよ。

Shimoyama. そういえば、英語版のパンフ レットを見かけたことあるなあ。

Matsumoto. アニメもちょっと前までは、 ずいぶんいい加減に扱われてね、ヘ タをすると外国人の名前が作者とか 監督の位置に座っているような改編 のされ方で放映されているのが多か った。ただ、この頃はそこらへんが 厳密になって、作者自身の肉筆のサ インが無いと契約書がなりたたなく なってきたんです。だからこれから は外国で放映された「ハーロック」 でも、日本人が描いているとわかっ てきますよね。

Shimoyama. そのために、先生が初めて横 文字でサインをなさったとか。

Matsumoto. ウン、どうすりゃいいんだろ うか、日本語でいいんだろうかって いったら横文字でっていうんで。 ア ラビア語みたいになったけどね。

Shimoyama. アメリカでは、ヤマトの名前 も変えられたんですか?

Matsumoto. ウン、戦艦なんだったかな。 ゴーゴン、ゴーゴン(つぶやく)。

Shimoyama. まさかミズーリじゃ(笑)。

Matsumoto. だからヤマト作る時にね、ソ 連へ持っていけばポチョムキン、ド イツならビスマルク、アメリカなら ミズーリとかアイオワになるように 作ったらどうだと話をしてたんだけ ど。ま、これからは輸出のことも考 えて、外国の国民感情とか民族感情 を充分配慮してかからないとね。

SF感覚の差異歴然― 鉱石ラジオ世代とテレ ビ・ゲーム世代

Shimoyama.先生も”ぬえ”の方もSFの ファンだと思うのですが……。

Matsumoto. 私は単純な意味でのSFマニ アでね、ごく単純な。

Miyatake. 僕なんかは、本当の意味での SF世代でしょうね。SFを知り始 めた頃が物心のつき始め。

Kawamori. もう僕なんかになると、それ に感化されて純粋培養になってる。

Matsumoto. 世代が違うんだね。私なんか 二枚羽根の飛行機を現実に見て、B2 を現実に見て、シューティング・ス ターが初めてドロップ・タンクを翼 端につけて飛ぶのを朝鮮戦争の時に 目撃して、という具合に順番にそれ らを見てるわけ。だから私らがSF として憧れた世界と、今の若い人が すべてそういうものを過去のものと してある上に組み立てていく世界と は、えらい違いがある。

MA. 二〇代、三〇代、四〇代の 差異でしょうね。

Matsumoto. 歴然ですね。まだ鉱石ラジオ なんてものを組み立てて喜んでた世 代と、ビデオだテレビゲームだとい う世代とではねえ。

Shimoyama. ズバリ子供の頃、一番おもし ろかった、影響されたSFは?

Matsumoto. 映画だったら「宇宙戦争」が おもしろかった。見に行った時に非 常に感動しましたなあ。それに「禁 断の惑星」 なんかね。これを見たの は高校の時だったかな。

MA. 「禁断の惑星」のロボット なんかはアナライザーに……。

Matsumoto. イメージ的な影響はあります ね。いわゆる役柄としてね。

Miyatake. 僕は宇宙の戦士”ですね。 この世界にひっぱりこまれた映画は 「2001年宇宙の旅」。 ここに僕の 世界があると思ってしまったのがウ ンのつきですね。

Matsuzaki. 僕もだいたいそんなもの。

Kawamori. 僕になると完全なアニメ世代 になっちゃう。 ヤマト世代。

Shimoyama. 先生、この頃はどうですか。

Matsumoto. この頃は、見たり見なかった り。ますます手がこんできましたな あという感じ(一同笑)。善し悪しは 別にしてね、ひと理屈こねないとす まなくなってきたんで非常に苦しい と思うんですよ、両方が。 作る方も 見る方も。

MA. 松本先生の作品のサーベル ね、あれは切れるんですか?

Matsumoto. まずコスチュームの一部分と してデザインしたけど、武器の機能 として、理屈をつけろといわれれば どうにでもつけられますよ(笑)。

Shimoyama. 「ガンダム」のビーム・サー ベル、あれは「スター・ウォーズ」か らきたんでしょうか?

Matsuzaki. あれはどっちかっていうと、 プラズマトーチだよね。

Kawamori. 光るサーベルというと「海の トリトン」があるし、はるか昔まで 遡っちゃう。

Matsuzaki. 結局「スター・ウォーズ」は独 自のアイディアもあるけれど、日本の アニメや特撮から採っていったのが ずい分あるからね。

Kawamori. だいたい見てればわかるよ。 かなりのシーンが見覚えあるって。

Miyatake.ところがいかんせん、見る側 があれをオリジナルだと思ってしま うのが問題なんだなあ。

Matsuzaki. 何せ「スター・ウォーズ」とい えば、他のものと比べてメジャーで すから(一同笑)。

Matsumoto. 我々が作るものが、みんな盗 作よばわりされたことがあるからね え。つい近年、アメリカでね。でも 時間的に逆(制作年度が)だという ことが、しだいしだいにハッキリし てね。

昨日の真実が今日は大ウソ メカ・デザイナー残酷物語

Shimoyama. 昔のSFにはかなり発想 的なものがありますけど、最近 のSFは特にとっぴだっていうよ うなものはみかけないみたいです ね。

Matsumoto. 現実に多少、追いつかれたき らいがある。感覚の世界の発想がね。 それで、昨日いったことが今日は大 ウソになるというとまどいがでてき た。 土星の輪なんかがそうだね。 こ うどんどん変わっていく時は、しょ うがないのかねえ。

Kawamori. 現実の方が、人々に理解され ないぐらいに進みすぎてるというこ ともある。たとえば宇宙船に積むよ うなレーダー・アンテナ。 クシャク シャに丸めておいて手の中にも入る ようなやつが、熱を加えると何十メ ーターにも広がるなんて機構が開発 されちゃってるけど、それを見たと しても見てる側にとっては、とても 信じられない。ウソみたいで。

Miyatake. 社会全般の科学技術に対する イメージと、実際の技術レベルとの 格差がどんどん大きくなったうえに 科学の分野も広がりすぎて、一人一 人の知識では、とても全体を見るこ とができなくなりつつありますね。

Matsuzaki. さっき河森がいった金属など 実際に存在するにもかかわらず、作 ないもの。 品の中で使ってもウソにしか思われ

Miyatake. だから、最近のSFの新しい アイディアはSF作家からではなく みんな科学者が生み出している。九 割九分までね。カール・セーガンと か、オニールとか。「ガンダム」の スペース・コロニーなんて、あそこ までスケールアップしたものなど 残念ながらSF作家は考えることが できないでいる。

Shimoyama. ハアー(ただただ感心)。

Matsumoto.でも、根本からそういう発想 で創作をしていく人間てのが出るは ずで、将来は現実の科学知識と創作 感覚の世界の合体物になるよね。

Shimoyama. そうすると、これからはマン ガを描く時も科学者の目で見ていか なくちゃなりませんねえ。

Matsumoto. そう、これからは大変ですよ。 そういう点での知識を吸収した人間 でないと、やりにくくなる。

Kawamori. しかも考える時に、科学者的 な目を持つ必要があるとはいえ、そ のままそれを表現したんじゃ、理屈ば かりが前面に出ちゃって、なかなか一 般に受け入れられなくなるし。

Matsumoto. それをうまく翻訳するのが感 覚の作業。 この感覚の世界が理屈で はどうにもならない世界なんで、こ れはやっぱり特異な才能が無いと。

MA. 最近のSF映画で「ブラッ クホール」がありましたね。で、結 末はブラックホールの中へ飛びこん でいきましてパッと終わっちゃう。 なんかアッケラカンとして。あれを “ぬえ”が作ったら、あのあとはど うなるんでしょう。

Kawamori. まずブラックホールを持ち出 さないんじゃない!?

Matsuzaki. まだちょっとこわくて、でき ないよね。あれはもう科学者でさえ いくらでも説があるというもので。

Miyatake. 逆に、わからないからできる というものもあるけど。でも、だっ たらそれはまるでわからない方がい いんで、少し足がかりがついた段階 というのが一番いや。

Suzuki.それは、たとえば?

Miyatake. 僕は今、宇宙船をデザインす るのが非常につらい。スペース・シ ャトルによって、ほんの二、三年後 には大変新しい金属が生まれるはず なんです。 この金属で作る宇宙船は 確実にこれまでの二百分の一の重量 になってしまうんで、デザインがも う根本的に違ってしまいますから。

Kawamori. 戦闘機なんか紙のようになっ て、あるんだかないんだか・・・。

Miyatake. でも、それを描いたら、さっ きも話に出たように、見た方からウ ソだといわれるんですよね。といっ て、そういったことを視聴者の側に 一々知っておいてくれというわけに はいかないし。

Matsuzaki. 一つ一つ説明してたら、作品 の筋がどっかへ行っちゃう(笑)。

Kawamori. やっぱり見せ方の問題になる わけだよね。

Miyatake. ですからこれからの数年とい うのは、デザイナーにとっては本当、 地獄ですね。

Shimoyama. 地獄ですかあ (神妙な顔で)。

Kawamori. 逆に、やりがいという点で今 が一番楽しい時期でもあるけど。 近は一つ科学技術を導入したら、世 界が全部変わるとみておかないと。

Miyatake. 一つの科学理論の上に立った 世界観を構築して、それが作品世界 全体を傷つけないという配慮がと かくむずかしいですね。ま「ガンダ ム」ではミノフスキー粒子を持ちこ んだだけで、世界観全部のぬり直し が必要になったほど。あれは架空理 論を持ちこんだことで現実から完全 に脱却して、大ボラが吹けたんです が、それをやるためには、逃げ道の 作業が大変だったんですよ。

Shimoyama.「ガンダム」っていうのは、ミノ フスキー粒子が存在しないと根底か ら崩れちゃうんですか(驚き)。

Matsuzaki. まったく全部崩れます。必然 性がなくなっちゃうの。

Miyatake. だからあの時代にはできてい ない小型核融合炉も、ミノフスキー粒 子の媒介によって初めて可能になる という仮説を持ちこんで逃げてる。

Kawamori. なにかわからないことがあっ たり、技術が進みすぎてる部分があ るとミノフスキー粒子でまかなって しまってるんだよね。

Shimoyama. まるで魔法の呪文ですね。

Miyatake. そう、その魔法の呪文を知ら ないと、あの作品は全部ウソになっ てしまう。

Matsuzaki. そういえば早とちりの視聴者 がいて、ミノフスキー粒子の出ると ころを全然見ていずに他を見て、ア レはウソだって文句をいってきたこ とがあったよ。

Matsumoto. SF作品には、そういった架 空理論を導入する見極め、思いきり、 SF的なセンスといったものが必要 になるわけね。

Miyatake. 「ヤマト」についていえば、 ものの見事に波動理論というのを持 ちこんできたでしょ。あれは事実上 架空理論ですからね。

丸ダンゴから美人体型へー女性 キャラクター自立の親は松本先生

Suzuki. だいぶむずかしい話が続いた ので、このへんで女性のことを。 先 生の作品では、女性がかなり重要な 地位を占めていると思うのですが。

Matsumoto. あれはもともと単純な話で、 アニメに出てくる女性がみんなキレ イに見えなかった。「白雪姫」の、昔か ら。それが不満だったのと、自分の 作品に比較的そういうキャラクター が出てたんでアニメにも強引に出し たんだけど、非常に不安はあったん ですよ。初期の森ユキの顔なんか、 まあソーレツだものね。

Suzuki. 昔のアニメは男の世界って感 じで、女は出てきても添えものにし かすぎなかったですよね。

Matsumoto. 女性をメーンの役として扱っ に「アタックNO1」、当時あれを 担当したプロダクションの人から相 談をうけたんですよ。なにか少女も のをやりたいけど、いかんせん描き ようがないと。それで、少女マンガ のスポ根ものをやれば、動きが速い から破綻をきたさないでしょうとア ドバイスしたの。 そこらへんから徐 徐にアニメに女の キャラを描く可能 性がでてきた。そ れまでの丸ダンゴ の女キャラじゃな くて、いわゆる美 人体型のね。

Shimoyama. 最近は少女 マンガのアニメ化も進んでいますね。 「キャンディ・キャンディ」や「は いからさん」。少女マンガの歴史は、 アニメとしては新 しいから、まだア ニメ化されてない 分野はあるんでしょう。

Matsumoto. ジャンルと いうのはいろいろ 広大無辺だけど、 まだまだあるよ。

Shimoyama. たとえば・・・。

Matsuzaki.時流と、そ れからスポンサー で決まります(シビ アに)(一同爆笑)。

MA. これから のアニメの予定は どうなっておられるのですか?

Matsumoto. TVと劇場用の「1000年 女王」と、夏公開の「わが青春の アルカディア」、それにあともう一 本が決まってます。 「1000年女 王」というのは、メカニックなSF ものというより、感覚的な世界を描 いたSFといえますね。ちょっと怖 い感じのもので………。

Suzuki. ’82の「わが青春のアルカディア」の方は?

Shimoyama. 戦場マンガですか?

Matsumoto. ウン、一部ね。いままで作っ SF系のものとは、まったく違い ますよ。発想を変えてるから。

MA. これも”ぬえ”とご一緒に?

Matsumoto. ええ、ハーロックとその先祖、 子孫を含めて代々続く限り共同して やろうと思って。 ね。 ま、大いに期待していてくださ いよ。

MA. お忙しい中、長時間、あり がとうございました。これからも、 よい作品を作ってください。

漫画と、 アニメの仕事 一松本先生談一

私がアニメを作りたいと思い出し たのは、小学生の頃です。特に「ガ リバー旅行記」 「白雪姫」あたりを 見たあとは、強烈にそう思った。 さて、いざアニメに関わってみる と、いろいろあるわけです。漫画家 の場合はプロダクションがあっても 基本的には自分一人、徹底して一人 です。一人っていうのはまことにラ クなんで「おらぁやぁめた」で、す むわけ。アニメの方は基本的に共同 作業だから、そうはいかない。どう 転んだって一人じゃできないし、各 各得意とするものを合体していかな いといいものができない。 漫画家としては、好きなものをの どかに描いていたい。 一枚一枚丹念 に、ベタも自分でね。それから、 業中は絶対人に見られたくない。こ れは絵描きの本性じゃないかなあ。 でも、そんなこといってたら失業し ちゃうけど(笑)。 アニメの仕事は猛烈に体力を消耗 します。アニメをやってなかったら、 私などもっとブクブク太ってたかも しれないなあ。長編を一本やると、 あきらかに最後の方はやせてる。ア ニメというのは、気苦労が、多いで す。チームが大きいし、交渉ごとが 入ってくるでしょ。 人間関係などは 気を使っていても、やめるやめない の大騒動が必ず何度かある。まなじ りあげてやってる最中は、ヤダナア、 ヤメタイナと思うけど、終わるとケ ロッと忘れるんですよ。そしてまた 次の制作に夢中になって。それのく り返しだよね。 あと、アニメの制作には、原作者 として最低やらねばならないライン があります。どんなにもめようと、 血の雨が降ろうと、そこは譲らない という。そうしないと出来上がった ものが、自分の作品でもなければ人 の作品でもない、という甚だ妙なこ とになってしまいますからね。

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