1978
August
Interview [for One Million-Year Trip: Bandar Book Animage]:
日本テレビからお話をいただいたとき、初の2時間番組ということで私も大変興味を持ちましたし、また、私が長いこと課題として訴えてきたテーマと一致することが多いので、ぜひとも、意欲的に取り組んでみたいと思いました。作品では、バンダーの強くたくましい心、マリーナ姫のやさしさ、ムズの明るさと活動力、そして全体にSF的なロマンのふんい気を持たせて、幼児からおとなまでおもしろく見せる構成をとりながら、人間連帯と、破滅的な文明にみずからをおとしいれている人間の無知無暴さとを追求してみたいと思っています。正味2時間の内容に、幼児むきの絵本的な部分、少年むきの劇画的な要素のほかに、おとなの鑑賞にもたえるだけの美術的な手法もとり入れ、家族そろって十分楽しめるものにします。全体のバランスは、こどもむき70%、 おとなむき30%になるかな…。
1979
January
Comment [Animage]:
手塚治虫 (原作・構成・演出) ぼくの場合、自分で絵コンテからシナリオまでやらないと満足がいかないんです。 で、「バンダー」でそれをやったら、放映2か月前になっ ても全体の10%も進行しない。青くなっちゃったですね。いまは、再来年初春公開予定の「火の鳥」の製作にかかっています。 フルアニメの予定なので、力が入ります。 これからは、国際的にも通用するものをどんどん製作して海外市場にも広く目を向けていきたいと考えています。
1981
December
Roundtable w/Kōsei Ono, Asuka Ran [The Anime]:
TA. きょうはアニメにかぎらず 話題を映画やコミックスにまで広げ てお話していただければと思います。 みなさんファンの意識を持ち続けら れているんで、アニメあるいはコミ ックスの楽しみ方などもお聞かせ願 えればと思います。
Ono. この頃はアニメという言葉が、 実に広く使われるようになりました ネ。この前もある雑誌で70年代のア ニメについて原稿を頼まれたんです。 よく聞いてみると、テレビ・アニメ のことなんですネ。 さて、どんなも のがあったか、それほど いいものはなかったよう な気がしていたら、”で はゴジラなんかどうです か?”というわけです。 ゴジラやウルトラマンは アニメーションではない けど、アニメ的な感覚で とらえられているんです ネ。手塚先生の「鉄腕ア トム」はアニメで「ゴジ ラ」、「ウルトラマン」は 劇映画なんですが、すべ てアニメとして一括され ているような気がします。 言葉の正確さは別として、そういう 感じ方もあるのかと思いました。
Tezuka. 「ウルトラマン」はアニメに近 「いけど「ゴジラ」はどうですかネ。
Ono. ご存知でしょうけど「ゴジラ」 はアメリカではアニメになってます ネ。
Tezuka. あれは日本に入って来てませ んネ。
Asuka. 入ってませんネ。
Tezuka. わたしはゴジラの子どものミ ニラが登場した時点で、マンガだな と思いましたネ。
Ono. 確かに「ゴジラ対キング・コ ング」になると、あの顔は完全にマ ンガですよ。
Asuka.モノクロの頃のスゴさはな くなりましたネ。
Tezuka. 「レイダース/失われたアーク」 を観て感じたのは、アニメの世界が 実写にどんどん食われているような 気がしましてネ。それはいい傾向だ とも思うんだけど、もうひとつには 映画って恐しいと思いました。今ま でのハリウッド映画などは恋愛物が、 スペクタクルでもせいぜい「十戒」 か「サムソンとデリラ」みたいに、 ただ人を沢山出して凄いセットを組 むということだった。しかし特撮の 革命が起きてからは、変身は出来る 合成は出来るわです。特に「ハウ リング」で人間が狼になるのをその ままモロに見せるとか「スキャナー ズ」で人間の頭を爆発させたり、 『ロンドンのアメリカ人狼男』の特 は凄じいくらいです。そうなると アニメという分野はいったい何だと いうことになってしまう。
Ono. そうですネ。 「ハウリング」 であんな風に見せられると、変身は アニメの楽しみのはずなのに、劇映 画にとられちゃった気がしますネ。
Tezuka. アニメは出来もしなかったり ありもしないような世界に遊ぶ手段 だったのに、最近のアニメはリアリ ティがあるでしょう。その意味から は「ハウリング」はリアリティその ものだから、アニメが実写のあとを 追いかけるんじゃないかって気がす るんです。
Ono. それは「スター・ウォーズ」 以来、当てはまるんじゃないですか。 そのへんが日本とアメリカのちがい かも知れませんが、今、「フラッシ ュ・ゴードン」などのようにマンガ 劇映画でやってるのがアメリカで 日本は劇映画でやるようなシリアス なものをアニメでやっている。そん 逆転の感じがしますネ。
Tezuka. 「ポパイ」もそうですネ。 『ヘ ヴィ・メタル』のアニメのスチール見 ると、コミック誌”ヘヴィ・メタル” の絵そのものですネ。ぼくは”ヘビィ ・メタル”の原作を読んだ方が面白い と思うけど。どうですかアスカさん。
Asuka. それは言えるというか、元 の絵の方がいいんじゃないですか。
Ono. アニメの「ヘヴィ・メタル」 には入ってないのはメビウスだけで すネ。”ヘヴィ・メタル”を代表する 人でありながら彼のエピソードだけ は入っていませんネ。リアルでキレイ な絵を書くリチャード・コーベン・ マイ・クルーン、それにアスカさん がよく知っているバーニー・ライト ソンなども入ってるんです。あの映 画はSF、アニメ、マンガがいっし ょになってるんじゃないですか。名 前だけ見ても錚錚たるメンバーが揃 っている感じですね。
Tezuka. 日本で見せたいですネ。日本 のアニメファンは今、何でも見なき ゃいかんと思うんですが。
Asuka. アニメに対する偏見がある んじゃないですか。いわゆるディズ ニー・アニメは今までの実績からみ て入れてもいいということがある んじゃないですか。70年代にあって実 験的なアニメの「フリッツ・ザ・キ ャット」が全然ウケなかったですネ。 その頃からこういうのは絶対にウケ ないという固定観念ができたような 気がします。
Ono. 日本では一、二週間で打ち切 られたけど、アメリカでは話題にな って、今では古典になってますよ。 そこは日本と体質がちがうのかな。 日本では「宇宙戦艦ヤマト」以来のシ リアスなものがアニメブームを呼 んだ。つまりテレビ・アニメの延長 が主流になったから子どもたちも拒 否反応するようになったのかな。
Tezuka. 日本のアニメ・ファンにも何 種類かあるんですネ。いわゆる一般 のファンと、マニア的なSFアニメ ファン「ファンタジア」を見に行く 人もいれば、いっぽうでは自主アニ メを作っている人もいる、しかも割 と実験アニメなんですネ。 実験アニメはサークルで作ってる 程度で一般にはウケるウケないまで 行ってないんですが、情報誌を見る とあちこちのホールで必ず上映会を やってるわけですネ。今年の学園祭 のリスト見ると従来のアニメをやっ てるところは減ってると思うんです。 むしろ実験アニメを大量に借りてき てやっています。そういうことも前 提にしてアメリカ・アニメも考えな くちゃいけない。 アメリカで劇場用アニメが売りに くいのは、まだディズニーの影響が あるからだと言われてますネ。
Ono. ラルフ・バクシなどは一応は 商業上映だから純粋に実験アニメと はいえないけど。思い切ったことを やっていると言えるのかな。日本で は二の足を踏んでもアメリカでは受 け容れられてます。
Tezuka. それとカナダのネルヴァーナ プロダクション。
Ono. あちらではディズニーのいい 面を活かす面もあるんじゃないですか。
Tezuka. あれは70年代のポップ・アー トの影響もあるんじゃないですか。
Ono. そうですネ。その意味ではポ ップ・アートはいろんなところに影 響を与えていますねェ。イギリスの 「イエローサブマリン」にもありまし たネ。それがアニメをある程度は、 変えたんじゃないかな。ディズニー からちょっと脱け出たみたいな。
Tezuka. ディズニーというのは、やっ ぱりマンガ映画という感じがありま すネ。今のアニメは必ずしもマンガ ではないんですネ。イラスト的でも いいわけですよネ。『アメリカン・ポ ップ』というのはほとんどロート・ スコープを使っていますね。リアル に人間を描き写したりして。あれは 音楽消して絵だけ見たら面白くない だろうなという気がするなア。
Ono. アニメは夢とか幸福感を謳い 上げるけど、そこがバクシはちがう。 むしろ絶望感を与える。それがショ ックを与えたと思うんですよ。「フ リッツ・ザ・キャット」もニューヨ ークの非情な感じを描いた。そこが 面白いですネ。バクシは商業主義に 沿いながら私小説的というか、私映 画の部分が少しあるんですネ。「指 輪物語」はちょっとちがうけど。他 の作品はそういうところがあるんじ ゃないかな。
Asuka. 自分の思想的なものを入れ する。
Ono. それが暴力的ではあるけど迫 力になっている。
Tezuka.ところでアスカさん、マーベ ル・コミックにあなたが入れ込むよ うになったキッカケは何なのですか。
Asuka.もともと絵が好きだったん です。60年代のニール・アダムスに
Tezuka. ホレ込んだんですよ。当時、彼は20 代半ばから後半にかけての頃でした。 最初に見たのは『ゴム人間』だった んですが、それでいっぺんで好きに なって、『ジェリー・ルイス』とか 『レッド・マン』に入ったんです。 その少し前に、日本のある出版社 が「スーパーマン」とか「バット・ 「マン」の単行本を出しました。 「バットマン」は何号くら い続きましたか。
Asuka. 確か十四、五冊ですネ。と にかくコミックを見て絵で好きにな りました。コミックを本格的に集め 始めたのは70年代に入ってからです ネ。ちょうどニール・アダムスの全 盛期で、次から次へといい作品を生 み出してくれたので、それを見て興 奮しました。
Tezuka. もともと個人崇拝から始まっ たんですネ。絵に惚れ込んじゃって るわけですか。
Ono. ニール・アダムスがいちばん 好きなんですか。
Asuka. ま、いちばんはそうですネ。 あとはフィリピンの人とかスペイン 系の人とかですネ。
Tezuka. フランク・フラゼッタはどう でしたか。
Asuka. フラゼッタも最初見たとき から好きでした。神田の古本屋でペ ーパーバックを集めました。
Ono.ガービーはどうですか
Asuka. いいですねェ(笑)
Tezuka.
Asuka.さんは筋肉質の人が好 きなんですネ(笑)
Asuka. 筋肉志向はありますネ(笑) 日本人ではあれほど見事に筋肉を書 ける人はいないんじゃないですか。 画風がちがうから比べるのはおかし いけど。
Ono. フラゼッタはボクも好きだな。 「キング・コング」が本になったと きの表紙を描いているでしょ。あの 表紙が好きなんです。
Asuka. フラゼッタの筋肉には実際 の人間にはない夢があるんですよ。
Ono. そう温ったかいですネ。それ にフラゼッタは女性もいいんじゃな いですか。目が細くて黒い髪の女性 が多いですネ。
Asuka. 表情が東洋的なんです。
Tezuka.ところでアメリカンコミック 界の現状はどうなのかな。
Ono. マーベルにしても全盛期に比 べるとコミックだけではなかなかや って行けないので、いろいろとタイ アップをしたりテレビ化したり、映 画を作ったりしてるんですネ。
Tezuka. スタン・リー自身が原作者な のに今やセールスの中心になってる わけですネ。
Asuka. 面白い話があるんです。 ワ ンダー・ウーマンのトレード・マー クが変るんですよ。今までのアメリ カの国章の鷲がWWになるんです。 商品化権がからんでいるんですが、 そういうところに来てますネ。40年 も続いたマークだからファンは反対 してるんですが。
Tezuka. アニメのことを言うと、今ア メリカのテレビ・アニメは落ち込ん でいますネ。それに比べ日本アニメ を見るファンが増えてるんですネ。 アメリカではこれと言ってウケてい るのはないんですが、フランスで、 「ゴールドラック」がウケたり、イ タリアでは「マジンガーZ」が見られ たりしている。この傾向はどう見る べきなんですかネ。
Ono. 日本のアニメが、フランスな どヨーロッパでは、カルチャー・シ ョックを起してるんじゃないですか。 暴力的という批判がありながらも子 どもはテレビの前から離れないんで すよネ。向うに日本アニメが受け容 れられるフィールドがあるのかなと 思います。
Asuka. またアメリカに戻りますが、 こんどディズニーが『トロン』とい うのを作りますネ、ヘヴィ・メタル” で活躍中のメビウスも協力するとい うことですネ。
Ono. 『トロン』のためにだけアメ リカに行ったらしいですネ。
Tezuka. メビウスは日本人好みがする ようですネ。ところでネルヴァーナ プロダクションのフィルムは日本人 には、もうひとつ肌に合わないんで すが、ネルヴァーナの社長に会った ときは日本をマーケットとして考え てるみたいでした。 一生けんめい、 日本に売り込む話とか日本人の好き なアニメはどんなものかとか聞くん です。その割には向うのコミックや アニメは日本で売れないんですネ。
Ono. 日本人はアメリカ文化を受け 容れているようで、根本的にはどこ かに拒否反応があるんじゃないかな。 それは英会話ブームと同じですネ。 フィリピンなどは英語が生活上、必 要なんですネ。だからアメリカン・ コミックも入りやすいんですネ。日 本の場合、ミッキー・マウスとかの キャラクターは受けるが、コミック 本になると、受け容れられないんで すネ。
Tezuka. Tシャツ用のキャラクターと しては人気があるのに変ですねェ。
Ono. 生活に英語が結びついていな いんですネ。それだけ日本は文化侵 略されてないんでしょうが…。 アニメについても日本はブームは あるけど一部だけが肥大したという 感じなんですネ。テレビ・アニメの 延長が主流になっている状態じゃな いですか。 ボクは最近、感動したことがある んですよ。フランスのポール・グリ モーが、「やぶにらみの暴君」を28年 後に作り直して「王様と鳥」という のを作りました。前の作品よりはい くらか暗いんですが、彼のメッセー ジは伝わってますネ。その執念には 驚きました。
Tezuka. ナルホド。ぼくは20年前に「鉄 「腕アトム」を作って、今また作って るんですが、今から20年後にまた完 全版を作りたいですネ(笑)
●優しい笑顔を絶やさず、次から次 へと話題を提供する手塚治虫先生。 やや早口で熱っぽい語り口が印象的 なヒゲの小野耕世氏。 少しはにかみ ながらアメコミの魅力を語るアスカ 蘭さん。さすがは、その道の権威、 話の内容は密度が濃く、話題も豊富 で、充実した座談会になりました。 そのため、今月号だけでは、全部 を収録できず、残りの部分は、来月 号に掲載することになりました。ま すます熱の込もった展開の後半部に 御期待ください。 ★愛読者プレゼント ●手塚治虫 直筆サイン色紙 5名 小野耕世 サイン入著書「バット マンになりたい」 5名 ●アスカ 蘭 サイン入アメコミ10名 宛先 「ジ・アニメ」
