Makio Inoue

1980

June

Feature Article [“Anime Star”, The Anime]:

必要から生まれたものそれがいちばんステキなんだー!!

一生大切にしたい―ハーロック 男なら、死ぬと判っていても行動しなけ ればならない時がある 銀河銀道999 キャプテン・ハーロック の名せりふである。ハーロックといえば井上 真樹夫さん、いや、真樹夫さんあってのハー ロックかな?ともあれ、ハーロックと真樹 夫さんは切っても切れない仲なのだ。 「ハーロックっていうのは 一生だいじに したい役です。ぼくの出会った最高のキャラ クターが彼だから……。あれだけのすばらし い役にめぐりあうことは、役者生活全体を通 してもまれなことですよ。だから僕は 幸 せ者なんですねえ」 花形満、ミスター神宮寺、ピート・リチャ ードソン、十三代目石川五ェ門、トリスタン、 ユルゲンス二枚目役ならまかせとけ!の 真樹夫さん。 いうまでもなく人気声優のひとりである。 「今、アニメ・ブームということで、僕たち の仕事にも興味を示していただいて そし て今回のように雑誌のかたすみをうめるよう になったけれど、僕にとってはまぶしすぎる ことですね。ただ、この歳までずっと演劇を 続けてきた。それだけなんです。僕なんかス ター”になれない、いや、ならなくていい。 そんな風に思ってやってきただけだから、僕 にスポットが当るなんて、むしろ不思議でし ようがない(笑)。」 ずっと役者を続けてきた。そのことだけで いいと真樹夫さんは言う。現在のブームも、 かなり冷静に見つめているようだ。 「本当に、偶然にサイクルが合っただけです ね。アニメ・ブームっていうのは、僕の人生 の中で、小さな、でも楽しい事件だったなつ て思ってます。」

ワープ? 未来へ!過去へ!!

さて、長年つきあってきたアニメーション に対して、真樹夫さんはどう接しているんだ ろう。 「言ってしまえば メシのタネなんです。 その中で、より職人的になってこそ、良い作 品が出て来るんじゃないですか。単に遊びで 作ってるんじゃなく、やはり”メシのタネ” から人の心に残る作品が生まれる。つまり 必要から生まれたものは1番ステキだと思う んです。」 メシのタネと言いながら、真樹夫さんは心 底アニメを愛しているんだな……..。だから、 真樹夫さんの演ずる役は〝光ってる”んだ! 「わあ、てれくさい(笑)。それはね、日本の アニメってのがすばらしいからですよ。日本 のアニメ文化は世界一だって、誇りを持って いいんじゃないかな。 ただね、女学生ファンの中で、それに気づ いてる人がどれくらいいるかなって思ったり する。ファンであることに対して、もっと自 信を持っていいんじゃないですか。私はアニ メが大好きだって、みんなが胸をはれる時代 が来てほしいな・・・・・・。 ダージリング・ティーを飲みながら、真樹 夫さんは淡々と語ってくれた。ふっと真樹夫 さんは遠くの方を見た。 「僕は、ときたまワープしちゃうんです。そ れが、未来に翔ぶときもあるし、過去にもど つて少年時代を思いだしたり、古本や骨董品 をながめたりする。ま、夢を見てるのかな。 ロマンチストで努力家で、しかもクールと いろんな面を持つ真樹夫さん。きっとこれか らも、アニメーションの画面を通して、我々 に語りかけてくれるだろう。これからもヨロ シク、真樹夫さん!

中学時代に見た児童劇にショックをうけて——

真樹夫さんは山梨県甲府生まれ。小学5年の時に東京に移った。 その頃は内気で、人前に立つことが大の苦手だったという。役者に は不向きな性格なのに、なんで芝居をはじめたんだろう? 「当時はね、娯楽がほとんどなかったんですよ。僕みたいに外で遊 ばない子は、やることがなかったんだ。中学時代にたまたま児童演 劇を見て、〝ガーン!”となってしまった(笑)。そこに救いがある ような気になったんですね。それですぐに演劇部に入ったんですが、 それでドロ沼に足をつっこんじゃった(笑)。」 そして高校時代も演劇部で活動、その頃からすでにプロの仕事を 受けていた。劇団にも入団し、”北の会””表現座””草の会””蟻の会” などを経験したという。 「テレビにも出ましてね。〝公開もの”の実験番組に出てたから、 テレビとはその黎明期からつきあってることになる。 しかし、経済的には決して楽な生活ではなかったそうだ。いつも 「やめよう」と悩んだが、そのたびごとに奮起し直したという。 「20代後半まで、親に眉をひそめられながらもこの世界をウロウロ して、自分でも先行きどうなるかわからなかった。でも、自分のよ うにありふれた人間は、とにかく続けることしかないんだ 生きるためには仕事を取らなければならない。真樹夫さんは回転 がきくアテレコを選んだ。アテレコ第1回は〝ドビーの青春”とい う作品。 「一般公募を受けたら、どういうわけか主役をもらっちゃって(笑)。 ところがこれがむずかしい。どうしても口が合わないんですねえ。 それでノイローゼ気味になっちゃって、もう二度とアテレコなんか やるもんか!って思ったんだけど・・・・・・なんだかんだで結局今まで続 けてきちゃった(笑)。」 アニメもアトム”から脇役で出演していたという。〝所員A” とか〝警官B”という、それこそ名も無い役だった。 その後はアニメで大活躍。 二枚目敵役”の草分け的存在、巨 人の星”の花形満を筆頭に、 男どアホウ!甲子園”の藤村甲子園、 さすらいの太陽”のファニー、〝原始少年リュウ”のリュウなど、 数多くの役を演じている。〝リュウ”の放映中に、現在真樹夫さん の所属する青二プロダクションに入ったのだが、その経過がおもし ろい。 「柴田秀勝さんの店(スナック)によく飲みに行ってたんですが 今も年中飲みに行ってるけど(笑)- 今度声優のプロダクションを 作るよって聞いてたんです。その時は、あつそう、てな感じで何気 なくうなずいたけど、少したったら役者がそろってこないんだ、 どう?やらない?”ってさそわれて、それじゃヤルヤルってアッサ 受けちゃった(笑)。トントンと話が進んで、久保進社長と知り合 つて……………もう、かれこれ10年以上たってるんだよね。ありゃりゃ、 いつのまにか僕も古狸になっちゃった(笑)。」 そしてミクロイドS”のヤンマ、 ジャイアンツ”の眉月、 勇者ライディーン”の神宮寺力(ファンにはミスターと言った方 がいいかな?)〝大空魔竜ガイキング”のピート・リチャードソン、 “キャンディ・キャンディ”のアルバート、そして“宇宙海賊キャ プテン・ハーロック”のハーロックを演ずる。 「ハーロックでただひとつ残念なことは、二回病気で休んだことで す。以前の〝佐武と市捕物控〟では、病気で倒れた富山敬さんの代 役を演ったんですけど、〝ハーロック”でそのときの敬ちゃんの気 持が痛いほどわかった。役者として、あれほどつらいことはない。 泣いても泣ききれなかったな……。

1981

June

Spotlight Article [“Hisashi Katsuta’s Biography of Japanese Voice Actors“, My Anime]:

麗峰富士を真近に眺め、黒々と高 く連なる南アルプス山系を遙かに望 む、甲府盆地の南端の田園地帯に、 彼、井上真樹夫の生家があった。 その田んぼに囲まれた田舎家で、 彼は生まれ育った。れんげ畑をわた るやわらかな風に春を知り、小川に 泳ぐげんごろうやみずすましを追っ 夏を送り、秋の夜は、鳴きすだく 虫の声を聞きながら満天の星空を仰 ぎ、冬は降り積む雪を炬燵で眺め、 彼は幼き日々を、自然の中で、自然 の移り変わりとともに過ごした。 彼が小学校二年、七歳の時、田ん ぼの向こうの工場に、働く人たちを 慰める芝居がかかった。兄に手を引 かれ、蛙のうるさく鳴き騒ぐ田んぼ の道を歩いてその工場へ行き、彼 は初めて芝居というものを見た。 板がなって幕が開き、多くの化粧 をした人たちが笑ったり怒ったり、 どなってみたり、ささやいたり。見 るもの聞くものすべてが初めてのも のばかりで、彼は目をみはった。 やがて劇は進行して、ヤマ場とな る。可憐な少女が、いかにも憎々し げなまま母に、手にした煙管で折檻 される。少女はのたうちまわり泣き 叫ぶ。だが、まま母はなおも執拗に さいなみつづける。少女はたまらず 悲鳴をあげて、髪ふり乱し逃げまどう。 真樹夫少年は、その恐ろしさにい たたまれず、隣に座る兄の手をふり 切ると、脱兎のように走り出し、真っ 暗な夜道を一目散に逃げ帰った。胸 は早鐘のように打ち、家にたどりつ いてからも、なおしばしの間、震 震え が止まらなかったという。 これが、井上真樹夫と演劇との 初の出会いであった。その鮮烈な印 象は、どうしても拭い去ることがで きないと、遠い過去となった多感な 少年時代を回顧して彼は語る。 その多感な少年が、一家とともに 東京に移住し、中学生になったばか りのころ、二度目の演劇との出会い を経験した。それは、学校巡演の移 動劇で、「ヘンゼルとグレーテル」で あった。小学生が見るような童話劇 であったが、彼は役者たちのつくり 出す不思議な世界に、ぐんぐん引き ずりこまれていった。 みにくい魔法使いの老婆は、七歳 の時に見た村芝居のまま母のように 思え、グレーテルは、あの時の可憐 な少女のイメージとダブり、中学生 の彼はたちまち、七歳の少年の心と なっていく・・・・・・。 劇が終わるまで、彼は怒り、恐れ、 胸をときめかせた。幕がおりた時、 彼はどっと疲れていた。だが、なぜ 彼はすぐ家に帰る気にもなれず、 観客の去ったあとの会場内をうろつ きまわり、幕をまくり上げて、舞台 をのぞいてみた。 彼は驚いた。たった今、グレーテ ルを食べようとしていた、あの魔法 使いの婆さんが、ヘンゼルやグレー テルらと一緒に、笑いながら仲良く 弁当を食って いるではない さっき見た あの世界とは 全く違う…。 また別の世界 がそこにあっ たー。 彼は困惑し ながらも、こ の不思議な不 思議な世界に 住む人たち、 役者というも のになぜか引きつけられていった。 魔法にかかったように、演劇の世 界に引きずりこまれていく自分を、 この時、ハッキリ意識したと彼はい う。 その後、東京都立文京高校へ進ん 彼は、受験勉強に日夜明け暮れる 友人たちを尻目に、演劇部の活動に 熱中した。 文京高校といえば、当時は 有名な進学校であり、教師も生徒も 大学受験にたいへん熱意をもってお り、進学率も高かった。 そうした高校で彼のやっていたこ とは、夜遅くまでの演劇の練習とそ れから深夜におよぶ道具作り。 これ で無事でいられるわけも ない。呆れ果てた先生か ら、退学処分をほのめか す戒告を受けた。 だが、彼は演劇活動を やめられず、三年生の時、 卒業も間近いというのに 転校を決意し、都立北園 高校の夜間部へ移った。 そして彼の演劇熱はま すます高まり、日曜日・ じっとしておられず、 曜講習の、東京アナウン スアカデミーに通い始め た。発音、アクセント、 朗読・・・と、言語表現の基本を彼はこ ここで学んだ。 その時ここで、二十九歳の青年講 師、勝田久へこれボクのこと、スミ マセーン!>と出会う。熱心な指導者 であったが、若すぎて、あまり頼りに はならなかったかも…。 しかし、もう一人の講師、山口純一郎 は、キャリア十分の新劇人。その先生 の薦めで、北村喜八氏が主宰する北 の会> 公演 「バーナーディーン」に、 少年役で出演できることになった。 これが、プロの劇団での初舞台とな る。井上真樹夫十八歳の時のことである。 これを機に彼の演技力が認められ、 NTV(日本テレビ)の初カラー化の ドラマ、内村直也作「花と光と」に出 演した。夜間高校に通う苦学生の役で あり、実生活そのものの役ということ もあってか、彼は実に素直に好演した。 一回こっきりの予定だったが、レギュ ラー出演ということになり、毎回役も ふくらんでいって、これでテレビ演技 も覚えることができた。昭和三十四年 の秋のこと! そのころ、TBS(東京放送)の外 国テレビシリーズ「ドビーの青春」が 放映開始に先だち、主人公ドビーの声 を演ずる新人を公募していた。 彼は臆せず応募、みごと合格、チャ ンスをつかんだ。声優の世界へ入る突 破口となったのだ。 だが、やってみて驚いた。一秒間に 二十四コマ走るフィルムの速いこと。 外国映画に声を当てることの難しさ を、この時彼はイヤというほど思い 知らされた。特にこのフィルムはア メリカコメディー。そのセリフの速 いのなんの。猛スピードでドラマは どんどん展開していく。いくら懸命 にセリフを言ってみても、あちらの 演技に追いつけない。気ばかりがあ せる。 それまで演技に多少の自信があっ た彼も、すっかり打ちのめされ、自 信を失い、アテレコ恐怖症にもなっ た。 しかし、ここでくじけて諦めてし まったら、今日の井上真樹夫は存在 しなかっただろう。 彼はさらに演技力をつける努力を 続けた。舞台公演にも積極的に参加 した。イオネスコ作の「義務の犠牲 者」(表現座)、竹内健作の「ワクワク 学説」(発見の会)・「埋葬伝説」(表現 座)、馬場あき子作「般若由来記」(表 現座)などの公演に客演として参加 している。
昭和四十三年三月、その後三年半 も続き大きな話題を呼んだアニメ番 組「巨人の星」が始まった。 彼は幸運にも、主人公、星飛雄馬 の宿命のライバル、花形満の役に選 ばれた。「巨人の星」のヒットととも 彼のアニメスターとしての地位 は決定的なものになっていった。 「巨人の星」を追うようにして、そ の後すぐ「佐武と市捕物控」が開始 されたが、途中で主役・佐武役の富山 敬がノドを痛め、番組を降りなけれ ばならなくなってしまった。 そのピンチヒッターとして、彼が 引き継いで佐武を演じた。彼にとっ て、アニメ番組では初めての主人公 役になったわけだが、代役という苦 しさがあったという。それは富山敬 が佐武になりきっていただけに・・・。 また、彼も後、「キャプテンハーロ ック」の時ノドを痛め、何回か代役 をやってもらったが、ハーロックに なりきっていただけに、はがゆかっ たともいう。 昭和四十五年九月に始まった「男 どアホウ!甲子園」の藤村甲子園 役を皮切りに、翌年十月「原始少年 リュウ」、四十八年四月「ミクロイド S」と、立て続けに主役を演じ、ま 「侍ジャイアンツ」「ドカベン」「ル 「パン三世」と個性ある脇役を演じ、 アニメスターの座を不動のものにし た。そして昭和五十三年三月から始 まった「キャプテンハーロック」で は、甘いソフトなボイスで、主人公 のハーロックを演じ、多くのファン を魅了した。 また、その活躍は、アニメだけに とどまらず、ナレーターとしても、 現在NHKテレビの「海外ウィーク リー」で、軽妙洒脱なナレーション 若い視聴者を引きつけている。
彼は、よく絵を描き、詩を創る。 絵を描くことは幼い時から好きで、 よく描いていたが、詩を創るように なったのは、敗戦の混乱時に栄養失 調で弟を失った時からで、その悲し みをいやすために書き続けたのが、 いつしか習慣になったという。 絵も詩も、実に繊細な、やさしい 心でものをみつめ、自らの内なる心 を謳いあげている。 その心は、クリスタルのように透 き通り、一片の不純さもなく、てら いもない。 きっと、彼を育んでくれたあの甲 府盆地の清らかな水や空気が、彼の 心をも、汚さず、清らかに守ってく れたのかも知れない。 昭和五十六年三月二十九日、早咲き の桜がほころび始めた春の宵、代々木 の桜がほころび始めた春の 代々木 の森の近く、東京・渋谷公会堂の舞台で は、当代人気声優たちが演じる、シン フォニック・ドラマ「星のオンディー ヌ」が上演され、宇宙の彼方からやっ て来た妖精オンディーヌと、若い騎士 ハンスとの恋物語が展開されていた。 ヒロイン、オンディーヌを演じるの 増山江威子、そしてハンスは、彼、 井上真樹夫である。 客席からはハンスがささやくたびに 溜息にも似た嘆声が上る。その言葉の 一つ一つが詩となり、音楽となって、 聴く人の心に沁み入っていくからだろ (敬称略)

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