1979
May
Feature [“Seiyuu 24 Hours”, Animage]:
高校のときに決めた結婚
ついこのあいだまで「はいからさんが通る』で、ヒロイン(ヒーロー?)花村紅緒役をつとめていた横沢啓子さんである。芸能歴10~20年のベテランが大半を占める声優界にあっては稀有の存在で、昭和30年9月生まれの花もはじらう25歳。娘さかり…と固く信じ込んでインタビューを開始した。途中、何度かウラ若き乙女には似合わぬことをいうなとは思っていた。―お休みのときは?「だいたい家にいて、編み物したり・・・。外に出る気にはなりませんねご家族は?■「エート、主人が一人おります」ガクッ。『はいからさん』収録のまっ盛り昨年10月に結婚したばかり、ただいま、アツアツの新婚ミセスである。だれが、タマの休みをノコノコ雑踏の中に出かけたいものか。ちょっと見はまだ高校出たてみたいな感じ、ビックリさせるナ|ア、ホント。高校までの生まれ、育ちは新潟県。「主人とは同郷なんです。高校は違うんですけど、高1のとき、文化祭で知りあってずうーっとつきあってて、結婚「することは高校のときから決めていました」小柄で色白、一重まぶたの典型的新潟美人。ケロンケロンと、顔に似合わぬオノロケをいってくれる。高校は新潟県きっての進学名門校・新潟高校。そこから日大芸術学部放送学科に進学した。東大、京大に合格してあたりまえ、早慶パスじゃちょっと落ちるなんてのが常識の秀才校にあっては、異例の選択だった。「受けたのも日大芸術学部一本。声の仕事をしたいと決めていましたから、ほかの大学受ける気はまったくありませんでした。なんでも自分で決めちゃって、決めた以上は、ソク、パーッと実行していく…。そういう性格なんです」と自己分析してくれた。
テレビ女優を自らやめる 「声の仕事をしたい」と決めた動機は小学校のとき、NHK新潟児童劇団に所属しており、その関係でラジオドラマなどに出演した経験があったことから。「だけど、大学へ入ってみたら、まるっきり声の仕事とは関係ない勉強なんです。未練もなく、さっさと3年で中退しまして・・・」でも、日大の放送学科なら、たとえば女子大生に人気NO1の職業、アナウンサーになるって道もあったでしょうに、といったら、「アナウンサーなんて、つまんない。ぜんぜん、おもしろそうに見えないもの。そう思いません?」真顔で切り返してきた。自分の心の中に、すすむべき路線を決めたら、その路線のほかに、いかにおいしそうな話がころがっていようとも、おしげもなくバンバン切りすててしまう。そういう決断力のすごさは、この年齢の女性にしてはちょっと類をみない。テレ女優としての可能性を、みずからソデにしてしまったのも、そのいい例だ。日大入学と前後して、横沢さんは、俳協俳優養成所に入った。初仕事がNHKドラマ『花ぐるま」。島田陽子の妹役として天下のNHKにレギュラー出演というのだから、新人としては、このうえもなくめぐまれたデビューだったといえよう。つづいて、TBSのテレビ小説『絹の家』など数本の連続ドラマにやはりレギュラー出演、よそ目には、順風満帆の女優生活がはじまったかにみえたのだが・・・。「所属の俳協は声の仕事をとってくるのは強いけど、映像には弱い。いきおい、いい仕事したかったら、オーディションでいい役とるしかない。みじめな思いをしたくないし、それに、私のキャラクターからいえばワキ役でいくしかないけど、ワキ役でやっていくには、あまりにも演技力がなさすぎる。やっぱり、本来、やりたかった声の仕事一本で行こうとはっきり決めたんです」
趣味はなんとマージャンとお酒
芸能界のスイも甘いもひとわたり経験しつくしたベテランの決断ではない。女優生活をはじめたばかりの、夢と希望にみちあふれる二十歳そこそこの女の子の決断、相当なクールさ、冷静さ、あるいは、花村紅緒ばりの猛勇〟の持ち主。紅緒といえば、オチョコ一杯で目もとほんのり的なアドケない表情で、またまヒトを驚天させるようなことをいいだした。「趣味はマージャンとお酒」―お酒って、何を、どれくらい?「日本酒、ジン、ワイン。ウィスキーを除いては、ほぼ、なんでも。量ですか…えーと、本気で飲めば紅緒ぐらい」「紅緒ぐらい」とはいいもいったり。とたんに、大和和紀さん描く一升ビンゴロゴロ「らんばるーッ」、酔眼モーロー、大暴れのベニオ嬢を思い浮かべ、151秒、4㌔、小柄で楚々たる風情のこの美女の体のどこにそれだけの酒が・・って顔で眺めたら、「で、一定量をこえますと、紅緒同様、大立ちまわりを演じるらしくて・・・最近は自粛しております」とトドメの一撃。『はいからさん――――』の収録当時、しばしば登場する二日酔いシーンのたびに共演者にヒヤかされたそうだ。「ワー、いまの演技リアルー、実感でてるー」「ほんとは、二日酔いの実感ワカルだけに、演技となるとかえってむずかしいんですけどネ」みかけとはちがい「本当は、男性的な性格だと思います」ともいった。『はいからさん―』が終り、4月からアニメのレギュラーは『シートン動物記』
(テレビ朝日土夜7・00)と『ドラえもん』 (テレビ朝日 月~土夕6・50)の2本。こ れに、ときどき、単発の洋画の吹き替えが入り、「ちょうど、週に一~二日休みというぺース」とか。
「ナレーションをやりたい」
新婚ミセスとしては理想的なスケジュール?「いえ、もっともっと忙しくなりたいです。まだ、声優の仕事、軌道に乗ったとはいえないし、ヘタですしネ。絵をみて、自分ではイメージがあるのに、どうしてもその声がでないなんてこともしばしば。ほんとにもどかしくなります」この若さで、自分の実力の目測も決して見誤らない堅実派でもある。家庭に帰れば、家事雑事「ひととおりのことはする」そうだが、「ときには、私が仕事のときなんか彼が料理作ってくれることもあります。いえ、亭主関白的なんですけど、ナゼだか・・・仕事やめろなんて全然。どんどんやりなさいのほう」といってニコッ。高校のときから「決めたらパーッと実行し、その決めたことは、だいたいうまくいっている」というが、その最高例が「高校のときに決めた」ご主人?ちなみに、彼は「ふつうのサラリーマン」とのこと。故郷の新潟には、進学名門校から声優目指して日大を受験する娘に反対ひとつせず「やりなさい、やりなさい」と快く送り出してくれた両親が健在である。「妹とふたり姉妹なんですけど、ふたりとも長男と結婚してしまって。両親が何もいわないだけに、よけい気になります」今後、一番やりたい仕事はと聞いたら、即座に「ナレーション」と、またまた意外な答えが返ってきた。「洋画にしても、アニメにしても、あらかじめ作られた絵があって、それに合わせる演技でしょ。ナレーションの場合は、自分が主役で、自分で演出できるから」理屈としてはわかるけど、この年でやりたい仕事がナレーションとは…やはり、かなりユニークな目のつけどころというべきだろう。そういえば、この人の「決めた」こと、たしかにぜんぶツジツマは合っているけど、ご主人の選び方にしろ、大学の決め方にしろ、やはり、常識の回路からはちょっとズレてるユニーク選択・・・現代のハイカラさん、とでも呼ぶべきか。(次号は曽我部和行氏です)
