1982
October
Roundtable w/ Tamiko Kojima & Mamoru Oshii [for “Urusei Yatsura”, Animage]:
「表現の幅をひろくと れる作品だから、若いスタッフを使って、エネルギッシュな話が作れた」
AM. 『うる星やつら』にはアニメな らではのおもしろさと同時に、若手 スタッフが作る魅力もあると思うん です。きょうは、演出の方から見た その魅力を語ってもらいたいと思い ます。とりあえず「面堂はトラブル とともに」でファンの注目を集めた 原画マン・越智一裕くんと山下将仁 くんについて、感想を聞かせてくだ さい。
Oshii. あのふたりがきたのは、去年 の冬だったかな。作画UPが間にあ わなくて、カップラーメン持参で1 週間ぐらい(ぴえろに)とまりこんだ んで印象的におぼえています(笑)。 最初、「鉄人28号』と『ゴッドマーズ」 の原画を見せにきたんだけど、とに 独得ね。人間を描かせたらど ういう味が出るか、興味があったん です。でも、原画があがってくるま では、不安はありましたね。
Hayakawa. 演技がふつうとちがうんです よね。はっきりいって、あがってく 原画の想像がつかない。こっちは コンテ描くときにイメージを持って るわけなんだけど、それにこう・・・・・・ぶ つかってくるような作画なんです。 それを作品のなかにどう組みこんで いくのかが一番問題ですね。
Oshii. ようするに、コンテをきった ときのイメージとはまるでちがう感 じなんです。それで、話の流れに少 余裕をもたせておいて、あるてい ど彼らを泳がせておいて、全体を仕 上げていくと、独得の味が出てくる。 それをしないと、彼らのやった部分 だけ浮いてしまう。
AM. 小島さんは「イヤーマッフル にご用心」の回で一緒でしたね。
Kojima. 感想はふたりと同じなんだけ れども、原画をはじめて見たときは、 正直いって頭をかかえちゃう部分と いうのはありましたね。カット内容 としてはたいしたことがない、たと えば、ただふりむくだけとか驚くポ ーズとかなんだけど、それがみよう に自分の計算とはちがう……。
Oshii. 全然ちがうイメージのものが あがってきたとき、どう対応するか。 これが別のシリーズだったらもめた と思いますね。でも『うる星やつら』 のなかではわりと許される。もとも とそういう幅をもった作品ですから ね。それにこっちが彼らのそういう ところを)おもしろがっている 部分もあります(笑)。「面堂」 の回で、あれだけのスピード 感とか独得のタイミングとか を描けたのはそのせいです。 やっぱり彼らのよさってのは、 バイタリティがあること、そ れは認めなきゃいけないと思 います。ただ走るだけのアク ションでは満足しない。なに かそこに入れないと気がすま ないし、入れることを前提と してしか描かない。そのへん は評価していいんじゃないかと思い ます。このふたりによって、シリー ズ全体が影響をうけた部分は確実に ありますね。
AM. このシリーズをはじめるにあ たって、当初から幅をもたせた作品 作りをしようと考えたわけですか?
Oshii. このシリーズにはいろんなタ イプの話があるでしょう。メロドラ マもあれば、ドタバタもサスペンス もある。それにあわせて、演出や作 画のスタイルがあるていど変わって いってもかまわないという考え方は 最初からありました。絵柄の統一と かカメラアングルの幅とか、絶対に 動かしてはいけない約束事は本来い っぱいあるわけですけど、その点は 自由にやってもかまわないんじゃな いか。それに、プロデューサーが若 いスタッフをどんどん使って、エネ ルギッシュなものを作ればいいとい うことで、それならやりましょうと このシリーズをひきうけたんです。
「あたるは状況によって好きな女の子が どんどんかわっていく。どこまでが本 気で、どこまでが浮気かわからない それが自然なんですね」
AM. スタッフでいうと、作監の遠 藤麻未さんとシリーズ構成の伊藤和 典くんがともに20代ですね。このふ たりの起用もはじめから押井さんの 頭の中にあったんですか?
Oshii. 伊藤くんに関しては、文芸と してははじめから参加することは決 まってました。シリーズ構成として は3クールからになりますね。遠藤 ちゃんに関しては、女性キャラの多 い作品なので作監を若い女性に頼ん だわけです。男が女性キャラを描く と、どうしても邪念というか、過剰 な色気(笑)が出やすいんですよね。 男の目から見た女というか……。
Hayakawa. 欲望がはいる(笑)。
Oshii. ちょっとこれはというような 原画もありますね(笑)。遠藤ちゃんが 描くと、若い女の子独特の潔癖感と いうか、清潔感がそのまま出ていて、 その意味でラムなんか成功している と思いますね。
AM. 唐突ですが、あたるはやっぱ ラムちゃんがいちばん好きなんで しょうかね。
Oshii. いや、それがね (笑)。 ふつうのシリーズをやるときだった らこのキャラはこのキャラが好きと か、とりあえず関係を固定してかか らなきゃいけないし、また、それに 近ずけていくのが演出の仕事なんで すけどね。ただ、実際に動きが入り声 が入ると、キャラのイメージはひと り歩きをするんですよね。そのころ がやってていちばんおもしろい時期 なんですが・・・・・・。あたるはかなり計 算しにくくて、原画も人によってず い分とらえ方がちがっていたみたい ですね。
AM. 遠藤さんはやっぱりあたるは ラムを愛しているといってましたね。
Oshii. (笑)それはやっぱり若い女の 子だからでしょうね。
Kojima. 年とってるのがいいましょう か(笑)。
Hayakawa. あっ、いって(笑)。
AM. どうなんですか、小島さん。
Kojima. ラムだけを、ということはな いんじゃないですかね。あたる自身 の女性像みたいなものもあるんでし ようけど、軽佻浮薄でいいんじゃな いですかね。
Oshii. 軽薄な人間のもっているバイ タリティみたいなものでいいと思う んですよね。たとえば、あたるとい うのはこういう人間だといいきるこ とで、成立するようなキャラじゃな いでしょう。さぐりながらやってい くキャラというか、相関図みたいな ものを作って、そこからドラマが発 生するというんじゃなく、やってる うちに、どれが本気でどれが浮気か わからなくなっていくというキャラ だと思いますね。このへんが「うる星 やつら」のキャラクターの特徴なん じゃないかな。とくに、あたるなん か、全然わかんないキャラですね。
Hayakawa. 押井さんのコンテを見てると ね、状況状況でいくらでもかわって いくというところで、キャラクター の芝居づけというのを考えてるんだ なって思っていたんですよ。おれの 場合は、はじめコンテ描くときに、 じつをいうとあたるが描けなかった。 どう動かしていいかわかんないわけ。 そういうときに、押井さん(のコンテ) を見てると、ある状況のなかで「あ つ、この人きれいだな」と思うと、 あたるはすぐそっちにいっちゃう。 それを前後の芝居のなかにどう自然 に入れていくかが問題だとわかる。 そうすることで、若い人の心のゆれ 動きを拡大してとり出してみせてい けるんじゃないかなあ、と思った。
Oshii. やっぱり、あたるの本音とし てね、ラムが追いつめられて哀れっ ぽくなってくると「ああやっぱりこ いつもかわいいやつだ」と思うんだ ろうけど、それを本音といいきれる かというと必ずしもそうでない。 がう女が出てくると、そっちがいい ということになるし、そのほうがあ たるにとって自然なんですよね。
Kojima. 自然ね(笑)。
Oshii. あくまで状況にさからうので もなく、流されていくのでもなく、 積極的にのみこまれていくタイプで すね、あたるは。
AM. 押井さんのその意見には、お ふたりとも賛成なんですか?
Kojima. そうですね。そのほうがコン テを描くうえでもいいし、あたるが ラムに思いをよせてるってことにな ると、この『うる星』のイメージが 変わってしまいますからね。
Oshii. ひとつには、人間関係が定着 しきってしまうと、そこで終わって しまう世界なのね。よく出てくる リフに「醜い人間関係じゃ」という のがあって、それが半分本音なんで すね。人間関係なんてのは本来いい かげんなものだっていうか。「うる星 は本音とたてまえがガラガラ変わっ てくる部分がおもしろいんです。
AM. しかし、あたるみたいな生き 方は、かなりバイタリティがないと たいへんでしょうね。
Oshii. いや、もう実際にやっちゃっ てますからね。自分の行動倫理とい うかいい女がいたらつっ走ってな ぜ悪いという考え方があってね。い ろいろやっても別に罪悪感をもたな い。普通の人間っていうのは、そこ 罪悪感とかもろもろの感情が発生 しているから、実際にはやれないわ けてしょう。
AM. それがあたるの魅力なんですね。
Oshii. あたるはね、セルにして壁に はっておきたいっていうキャラじゃ ないですよね(笑)だから、わりと素 直に自分のなかの軽薄な部分をギャ グとして出せるような気がします。
「当初考えていた、作画対演出のホ ットな関係は、ようやく最近できる ようになって来ました」
AM. あたるの話が出たところで、 ラムについてはどうですか?
Oshii. 『うる星』のキャラはどのキャ ラもエゴイストでね。ラムだけはそ こから例外的に抜けているというか、 ラムは生まれながらにごく自然に状 況を超越した存在ですね。
Hayakawa. メシ食っていても絶対ホーム ドラマにならないっていうかね。
Oshii. ぬかみそくさくならないって いうか。なんか、自分との距離があ るところで、はじめて見れる存在) という気がするんです。ラムみたい な女の子がそばにいたらいいかとい うと、そうも思わないというか……。
AM. 小島さんは、アニメ界ではめ ずらしい女性演出家なんですが、原 作が女性ということもあって、やり やすい部分というのは、かなりある んじゃないですか?
Kojima. たとえば、ラムならラムとい う自分ののめりこめるキャラが出て きますよね。そういうときは、コン テを描いていてもつっ走っちゃって (笑)。それがいいか悪いかはわから ないけど、シラケないで描けますね。
AM. ところで、最初の2クールを 15分1話で、3クールから30分1話 でいくというのは、最初からの計画 だったんですか?
Oshii. いや、ぼくはスタートすると きに、15分で1話というスタイルで いきたいといったんですが、いろん な事情があって変わったんです。た だ、いまでも実質1週2話構成とい うのはありますし、むかしは逆に実 質30分1話というのもあったんです。
AM. 演出上での変化はありますか。
Oshii. どうかな。コンテのきり方は ちょっと変わったかな。
Hayakawa. そうね。
Oshii. ひとついえるのは、15分のと きはストーリーを追うなかで、遊び もやらなきゃならなかった。それが 30分になってからは、ストーリーの 部分と純然たる作画の暴走”の部 分というのを別々にとれるというこ とで、ラクになったということはあ りますね。たしかに、原作8ページ しかないのに、どうやって30分みせ るかという問題はあります。そうい うときは、ライターもたいへんだけ ど、演出家もたいへんなんですよね。 コンテ描く段階で、いってみれば腕 の見せどころみたいな部分があるわ けでしょう。どこをふくらまして、 どこで作画を暴走させるかを考えて いく。そういうおもしろさは最近感 じるようになりましたね。だから逆 に、話がきつく入っていると、話だ けで30分終わってしまうみたいで、 しんどいですよね。どこかで遊ぶと ころがほしいなあと思ったりする。
Hayakawa. 自分のほうへ作品をひきこん でおかないと30分にはならないね。 15分のときは、原作をあるていど追 っていって、遊びをこまかく入れて いけば15分になったけど……。
Kojima. なんか15分で話おっかけるの が精いっぱい、という感じもあった わね。
Oshii. たとえば、動かせば動かすほ ど、作画もしんどいけど、演出もし んどいんですよね。たまたま「うる 星』の場合は、暴走するタイプのア ニメーターが多いっていうか……。
AM. 暴走するタイプね(笑)。
Oshii. 限りなく枚数のことなんか忘 れちゃうし、秒数だって平気でかわ っちゃうし……。
Hayakawa. 6秒のコンテに2秒の原画を 描いてくるとかね。
AM. 描いちゃうわけですね。
Hayakawa. そうです。だから、けずると きもあるけれど、その原画の完成度 が高ければ、こっちはもう手をつけ られないくらいですから。
Oshii. 当初考えていた、作画対演出 のホットな関係は、ようやく最近で きるようになってきましたね。まえ からね、アニメじゃなきゃできな いギャグのセンスというか、作画が 野放図にやるような、ちょっとブラ ックになるぐらいの笑いというのを やりたいと思っていたんです。いま ならチャンスかな、という気はしま すね。『うる星』の場合、それは、あ たるをなんでもできるキャラにして おいたのがよかったと思うんです。
AM. さて、最後に2月に公開され ある映画の話をうかがいたいんです。 これにはみなさん参加されますか?
Oshii. いや。ぼくだけですね。
AM. 押井さんの演出、絵コンテと いうことで。
Oshii. そうですね。
AM. ストーリーは?
Oshii. いちおう、ラムとあたるのラ ブストーリーになっているんです。 『うる星』の世界の基本は残ってま すが、原作とすこしイメージがちが ってくるかもしれませんね。テレビ シリーズを見ていない人にも楽しめ る作品にしたいし、テレビの20分の 枠のなかでできないことを、とにか くやろうと思っています。
Comment [for “Urusei Yatsura”, Animedia]:
『うる星やつら』のギャグは、原作のコ マで見せているものを、決められた時間内で、連続し たものとして見 せなければならないから、むずかしいですね。こちらの考えているギャグ感覚と、見てい る人のギャグ感覚とに、ギャップができないようにと考え、苦労します。ただ、最近はア ニメの『うる星やつら』ギャグが、定着しはじめているので、以前ほどは、ギャップに対 して苦労するということは、なくなってきていますね。 『うる星やつら』のギャグというのは、脚本・演出・作画の三者が、それぞれ盛り上げよ うとするので、普通なら敬遠したくなる様なギャグでも、見る人が楽しい物として受けと めやすくなっていて、笑えるんじゃないでしょうか。
