Hiroya Ishimaru

1981

March

Close-up [“Introduction to Voice Acting”, The Anime]:

待ち合わせの場所、新宿の喫茶店 に、時間ジャストに行くと、スポー ツマンのようにガッシリとした体格 の彼が、先きにきて待っていた。骨 太の体だ。茶のトレーナーがよく似 合う。その彼が、陽やけした顔をニ とほころばせ、白い歯を見せて、 笑ってぼくを迎えてくれた。 ぼくが時間にうるさい男と心得て の行動ではない。プロとしてごく自 然にふるまっているだけのことのよ うであった。(我々の世界は、きわ めて時間にうるさいのだ。時間にル ーズな人間はやがてスポイルされる。 それにしても、笑顔がかわい いな……全然ちがうことを、ぼくは その時瞬間に思ってみたりした。 …………そうか、これが石丸博也の人 気のヒミツナノカ・・・・・・これが女子高 生に、このコーナーに「石丸サンを 登場させて~~!」と手紙を書かせ たのだな……そんなことを感じさせる。 ウームなるほど。このスポー ツマンのような逞ましさは、同性と しても魅力を感ずる。男のニオイを プンプンさせている。女の子たちが 騒ぐのもムリはない。今が、まさに 働き盛り、青年期から壮年期に入る 最も男らしさを感じさせる頃あいだ。 だが、実年齢を聞いて驚いた。予 想より少々オジチャマであった。そ れにしても若い。 石丸博也、昭和16年2月12日、仙 台は青葉城の近く、広瀬川の清流の ほとりで生れた。 5歳のとき千葉に移り、そして東 京へ。東京の目黒四中から東京高校 へ、そして大学受験。機械いじりの 好きな彼は、エンジニアを目ざして 理工系をねらったのだが、これはみ ごと失敗であった。 失敗したおかげで、彼は役者修業 に入ることになった。浪人中に目に 入ったのが、劇団「ひまわり」の募 集広告。これが彼の人生を変えてし まったのだ。おふくろさんは泣いた そうだ。ワルいヤツ……。 我々の世界には、どうもこの手の 人間が多い。 アレも彼もアイツも… ・・・。ほとんどそうだ。ワルいヤツば かり……。実は、かく申すボクもそ うなのだ。 これだと思いこんだら、トコトン 喰らいついて離れない。芝居の世界 に頭を突っこんだら最期、もう何に も見えなくなってしまう。 親も兄弟もありゃしない。先きの ことも金のことも考えず、どっぷり つかって、しゃにむに進む。 気がついてみたら、いつのまにか 役者として身を立て、何とか食える ようになり、妻子を養っていた・・・・・・ なんてもんだ。 彼も我々と同様、あらゆるアルバ イトを経験している。皿あらい、キ ヤバレーボーイ。印刷工、八百やさ んにちりがみ交換、エトセトラ・.:。 30歳のとき、劇団の仲間、紀子さ んと結婚してからもこのアルバイト は続けられた。 「ひまわり」のときは、はたち代の 若者を集めて、鑑賞にたえる作品を とねばりにねばり、東京都児童演劇 コンクールでの最優秀賞にえらばれ たりもした。だが・・・・・・芝居での収入 はかぎりなくゼロに近かった。 結婚のときも、親には十分な収入 があるとウソをついて安心させた。 家具も何にもない六畳一間の貧乏ぐ らしだったが、つらいと思ったこと は、何にもなかった、思い出せない ……と彼はいう。親をダマしたこと だけが辛い思い出として残っている という。 その彼に、やがてチャンスが訪れ た。太陽プロに籍を移してからアテ みち レコの仕事がポッポッ入るようにな った。そんなある日、突然青二プロ の黒田マネージャーから連絡が入っ た。新番組の主役に石丸君を推挙し ておいたというのである。「マジン かぶと ガーZ」の兜甲児だ。だが第一回録 音の結果はボロボロだった。ディレ クターからはクソミソにいわれ、の のしられた。彼はこの役からオロさ れても止むを得ないと覚悟したそう だ。しかし運命は不思議、事実は奇 なりだ。現実はディレクターが交代 され、彼が残った。 それからは好運が続く、「グレー ト・マジンガー」 「グレンダイザー」 での兜甲児「スタージンガー」のジ ャンクーゴ、「宇宙魔人ダイケンゴ ~」のライガー、「プリンプリン」 のウィリーと続き、新たに「ダイオ ジャ」のスケ役も決まっている。 決してハデではないが、着実な歩 みを続けているといえるだろう。 「役者は40歳すぎから本領を発揮す るもんだと思いますよ。売れる売れ ないは時の運、気にしない、気にし ない……。 別れぎわに彼は、また白い歯を見 せ、真黒な顔をほころばせて笑って 見せてくれた。

Welcome to Anime Magazine Archive! We aim to be the ultimate resource for anime magazines, offering page-by-page breakdowns, with a focus on the 1970s-1980s.

RECENTLY UPDATED