Kimio Yabuki

1980

February

Feature Article [“Interview with an Anime Human”, The Anime]:

つくる側の気持ちと見る側の気持ちが通じあえば最高! 矢吹公郎といえば、あのロングラン・アニ メ、「一休さん」のチーフ・ディレクター。 「タイガーマスク」や「風のフジ丸」、さら には、そのキャラクターが東映のマークにな っている「長靴をはいた猫」の演出を手掛け た大ベテランである。現在は、今春公開を予定されている「森は 「生きている」の制作にかかりっきりの毎日で ある。

一休さんとトンチ較べ

TA. 「一休さん」はずいぶん長く続いて いますが、いまは何話目を……。

Yabuki. 正確にはわかりませんが、190話ぐ らいでしょう。とにかく息の長い作品ですか らね。

TA. 長い間子供たちに愛されている秘密 はなんだとお思いですか。

Yabuki. ウーン、実はわからない(笑)

TA. 演出上の工夫など、作品の魅力づく りに、とくに気をつけている点などは。

Yabuki. 一休さんは、ハテナ? という具合に すくモノを考えるでしょう。座禅を組んで、 ジッと考えこむこともある。もちろん、スト ーリーの流れから出てくるワンシーンなんで すけど、それを見ている子供たちも、つられ て考えてしまう。時には、一休さんよりも先 に答をみつけて、「一休さんに勝った!」と 喜ぶ。時々、わざと答を遅く出してやると、 大抵の子供たちは、一休さんより先に答を見 つけるのです。これは、子供たちにとって、 新鮮な体験なんですね。自分で答をみつける ということが、今の子供たちには少なすぎる でしょう。考えなくても、次から次へと与え られるから。

TA. 一休さんと智恵くらべですね。

Yabuki. 選ぶこと、考えて結論を出すことって いうのはとても大切なことだと思います。テ レビのチャンネルなんていうのは、選ぶこと には含まれないわけです。だって、テレビの スイッチをいれないという選び方だってある のですから……。そういう与えられた選択で はなく、積極的に自分の頭で考えてみるとい うこと、これは、すべての行動の大前提なん ですね。つまり考える時間を与えてやること が、ひとつのリズムになっている。

TA. 190話も続くと、ストーリーやエ ピソードをつくるのも大変ですね。アイディ アづくりには苦労しますか。

Yabuki. ネタ本があるわけではないですから、 日常生活の中からもヒントを探します。 もっ とも、一番苦労しているのはシナリオライタ ーでしょうが・・

「やさしさ」がテーマ

TA. ところで現在制作中の作品は「森は 生きている」ですね。

Yabuki. オフレコ・ダビングが進行中です。そ うしているうちに、リテイクが出ますから、 いま一番緊張する時期です。

TA. 音楽はレニングラードフィルハーモ ニー、合唱はグリンカ合唱団と聞いています が、この起用の狙いは?

Yabuki. 原作が向こうのものですから、音楽性 もそれにピッタリするものということで、レ ニングラードを選んだわけです。となると作 曲やコーラスも、それに合ったものにしなけ ればならない。ロシアの風土や風景にもね。

TA. 作曲は、どういうかたちで依頼され たのですか。

Yabuki. タイムシートと演出メモを一緒にした ノートをつくりましてね。それでイメージを つかんでもらったわけです。演出メモには、 たとえば花びらが散るシーンの様子がこまか く表現されています。そして、その横には、 秒単位で時間が刻んであります。

TA. そうすると、花びらが揺れて何秒、 風にとばされて何秒、空中に舞って何秒とい う具合にですか。

Yabuki. そうです。しかし、そのタイミングは 非常に微妙ですから、今度は逆に、その音楽 に合わせて、こちらが動画をつくる番です。 指示を出して音楽をつくらせ、その音楽に合 わせて演出をつめてゆく、いわば一種のキャ ッチボール。

TA. すると、音楽のウエイトはずいぶん 大きくなりますね。

Yabuki. むろんそうです。それはアンデルセン 物語でもそうでしたが、映像と音楽の合体に 対してはボク自身もおおいに興味を持ってい ます。

TA.「森は生きている」はロシアの民話を もとにしているということですが、ファンタ ジックな作品になりそうですか。

Yabuki. 原作では、主人公はどうやら「わがま まなお姫さま」なのですね。そのお姫さまが 貧しくともやさしさを失わない少女や、各月 の天使、心の貧しい人の醜い姿に触れて、自 分のわがままさに気がつくという筋書きです。 しかし、今度のアニメーションでは、あくま でも主人公は心やさしい少女、アーニャ。そ ういう意味ではキャラクターやストーリーは ドラマ仕立てです。

TA. 原作との違いは主人公の設定部分だ けですか。

Yabuki. この作品は、ある意味ではヨーロッパ 的ですね。最後に、継母といじわるな姉が犬 にされてしまう。邪悪なものは犬になれ、と いうニュアンス。 今度の作品は、そういうこ とではなく、1月の天使が「そのやさしさが、 真冬の森にマツユキ草を咲かせたのです」と いうセリフが物語るとおり、やさしさがテー マになっているのです。

TA. そのためには、やさしい少女、アー ニャが主人公でなければならなかった。

Yabuki. はじめの部分で、アーニヤがこういう んです。 「雪が降ったら、動物たちの食べるものがな くなってしまう」 と。これが、真冬にマツユキ草を咲かせる 奇蹟の伏線になっているのですね。

「やさしさ」の関係をつくること

TA. 以前は演出の仕事が多かったと思い ますが、現在はディレクターとして・・・・・・。

Yabuki. 私はディレクターなのだと思っていま す。少なくともディレクター志向ですね。ア ニメーターの力量を生かし、ひとりひとりの オーケストラのひろがりをつくりあげること によろこびを感じますね。

TA. 個人プレーを全体の作品にまとめ上 げていくという……。

Yabuki. ひとりひとりの持ち味を生かすことが ボクにとっては大切です。

TA. 作品の傾向としては「やさしさ」が テーマになっているものが多いような気がす るのですが。

Yabuki. 内容がやさしいこと、それを見る子供 たちへやさしいこと、そして自分自身のやさ しさを維持すること。そういう考えでやって きたつもりです。 そしてそれは、アニメづくりの中で、ボク自 身がもっとも大切にしているものです。

TA. その「やさしさ」は具体的にいうと…。

Yabuki. 豊かさにつながる「やさしさ」、自分 と、それを見る側との関係がそうでありたい ということです。ものをつくるということは、 結局、自分自身との葛藤です。子供のためと か、やさしさをテーマにとかいう考えのはい りこむ余地のない、自分自身との問題なので すから。そうすると、自分自身の原点に、何 かがなくてはならない。そういう意味で、相 手につたえられる「やさしさ」が問題になる のですね。

TA. 自分自身をみつめてしまう、という ことですか。

Yabuki. ボクはディレクターですから、ひとつ の世界をつくらなくてはならない。その世界 をつくりあげている側のやさしさや豊かさは、 当然その作品の持ち味にならなければならな いわけです。こうやったらやさしさが相手に つたわるという技法的なことではなく、見て いる側と、いわば「やさしさの関係」が成立 することを願う、ということですね。

TA. つくる側と見る側の関係というと、 たとえばテレビなんかは、完全にワンウェイ だと思うのですが。

Yabuki. さっきの話に戻っちゃうのですが、だ からテレビを見ないことも積極的な選択なの です。それも、自分の考えでそうできればね。 つくる側と見る側の関係は、時間が経つと逆 転したり、結局、同じところにゆきついたり するものだと思ってはいるのですが、こんな にテレビの番組が氾濫してくると、いま見て いる側にいる人が、時間が経って、いくら待 っていても、こっち側にはきてくれないのじ ゃないかと思ったりもするのです。ボクらは、 飢えてガツガツと見て、つくる側にまわった。 す。 今の子供たちは満腹して、一日に何本ものア ニメーションを漫然と眺めている。そうだと したら、異人類があらわれてくるのではない かと……..

TA. それは、アニメーション文化にかか わってくる問題だと思うのですが、矢吹さん はアニメーションに何をお求めになっていら っしゃいますか。

Yabuki. やさしさの関係を、つくる側と見る側 感知しあえたら、それ以上になにも望みは ないのですが・・・・・・。 アニメーションのように、 人の手によってつくられる映像というものは、 そこに投影する。つくる側の気持と、それを 見る側の気持は、とても近いような気がしま

TA. 矢吹さんはディレクターだといわれ ましたが、アニメーションの中で、ディレク ターというのは、どういう仕事なのですか。

Yabuki. 私は絵をかくでもないし、曲をつくる でもない。でも、作品に対するイメージはも っているわけです。そのイメージを豊かにつ くりあげるのは、アニメーターや作曲家なの ですが、ディレクターの指示、構想がなけれ ば、前に進めないでしょう。

TA. オーケストラの指揮者みたいなもの ですか。

Yabuki. 旅に行く場合、天気予報や時刻表を見 るでしょう。何時に出発して、どこで昼メシ を食べて、午後には、こんなきれいな山陵に めぐり逢えるはずだ。って、それに似てます ね。

TA. そうすると、晴れるかも知れないし、 雨が降るかも知れないという、ハプニングも 含んでいるわけですか。

Yabuki. トンネルを越えると、秋に出くわす、 というイメージを、絵を描く人は、紅葉とい う絵ではっきり示してくれるわけです。

TA. ところで、こんごの展望は?

Yabuki. いわゆるアニメブームがきていますね 今はひじょうに量が多いですね。それ自体 は非常に歓迎されることですが、あいにく量 と質は比例しないようで……。

TA. といいますと。

Yabuki. どうしても全体の量が多いと質が低下 していく傾向がありますね。すると、せっか くのブームも立ち切れる恐れがある。その辺 をふまえて、質の上でキッコーしていって欲 しいと思いますね。

TA. いろいろと有難とうございました。 (敬称略)

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