Hisayuki Toriumi

1980

July

Feature Article [“Interview with an Anime Human”, The Anime]:

演出家が一番大事にしなければ ならないことは、自分が演出する ということに対してプライドを 持つことだと思う

「ニルス―」は冒険的な作品

TA.「ニルス」、好調のようですね。

Toriumi. そうですね。予想してたよりはかなり いいようです。視聴率の方も平均一二%、最 高では一七%まで達したそうです。NHKが 同じ時間帯でこれまで放送した、例えば「キ ャプテンフューチャー」 「未来少年コナン」 など、話題になったものがありますが、それ より視聴率ではいいみたいですね。

TA. 番組の終わりに「ご意見をお寄せ下さい」 とありますが、かなり届いていますか?

Toriumi. 一日にどのくらいくるのか、くわしい 数字は聞いていませんが、とにかくすごい数 の手紙が届いていますね。本当にありがたい と思います。

TA. なるほど。ところで、今、鳥海さんは「予 想してたより……」とおっしゃいましたが、 予想を下に置かれた理由は?

Toriumi. いや、もちろん今ぐらいの視聴率を確 得する自信はありましたよ(笑)。ただ、現在 のTVアニメの状況は(いい悪いは別にして)、 ストーリー主義全盛ですよね。どんどん、ど んどん複雑にストーリーをくるんでいって、 ドンデン返して人を驚かす(笑)。そうしたや り方が受けているわけです。ところが、「二 ルス」の場合は、小人にされたニルスが 旅に出て良い子になって戻ってくる、たった それだけ(笑)。人をビックリさせるストーリ なんてどこにもない。

TA. …ええ…..。

Toriumi. それで、それでというか”見せて行く” 方法には、そうしたストーリーを中心にクラ イマックスを目指して行くやり方も一つです が、一方ではひとつの状況の中でのキャラク ターのリアクション(対応)を主体に描いて 行くやり方もあると思うのですね。

TA. つまり、心の動きを中心にした・・・

Toriumi. そうですね。ひとつの事件(事件とい ってももちろん作為的なものでなく、あくま でも自然界の出来事ですが)があったとしま すと、それに対しニルスたちがどう考え、ど 対応して行くかという、そのプロセスを主 体に描いて行く方法です。もちろん、この場 合”見せる”要素が強くなるというか、見 せて行く”ことが中心になりますので、動き や色彩については、ひとつひとつていねいに 作ってきているわけです。説明が少し長くな りましたが(笑)、つまり、こうした方法とい うのは、現在のストーリー全盛の流れに逆行 しているということなんですよ。

TA. なるほど。そうしますと、鳥海さんはこ の「ニルス――」をお引き受けになる時、か はり躊躇されたのですか?

Toriumi. そういった意味では少し不安みたいな ものはありましたね、正直なところ。しかし、 それ以上に、いや、それだからこそ逆にチャ レンジしてみようという気持が強かった。ど こまでやれるかわからないが、自分に与えら れたのですし、とにかく一生懸命やってみよ うというね。それに「ニルス――」みたいな 作品に興味を持っていたこともあるし……

TA. ーといいますとー。

Toriumi. 実は、五一年の時でしたか、その頃僕 は「竜の子プロ」の社員だったのですが、そ の「竜の子」にフランスから合作の話が持ち 込まれ僕がそれを担当することになったんで す。日本語名を「昔、昔、人類は」というの。 人類の誕生から未来までを描いたものなんで すが、このアニメには台詞が全くないんです。 もちろん絵の意味を見る人に伝え、しかも飽 きさせない工夫をしなければならないわけで すが、それを“動き”でやったのです。台詞やナ レーションがなくても”動き”で、その意味 はもちろんスピリットまでわかるようにした。

TA. ええ……。

Toriumi. そのために一本につきセルを一万二千 枚ぐらい使いました。そんなの僕も始めての ことです。でも完成したのを見てそれが出来 ているのですね。それまでは、濃縮ストーリ もの(笑)ばっかりで、そんなことあまり考 えなかった。

TA. こんな方法もあるかという-。

Toriumi. そう、こんなやり方もあるのかと思い ましたね。それに、私はこの「昔、昔 を二年間担当し、その間、フランスにも行っ て向うのアニメ制作者と話す機会があったの ですが、アニメに対する考え方が僕ら日本人 (少なくとも僕自身を)とは全然違うのですね。 彼らは、アニメというのは楽しいものでなけ ればいけない、ワンカット、ワンカットが心 踊るようなものでなければならない。なのに、 日本のアニメはどうしてあんなに深刻に悩ん だものばかりなんだと僕に言うのですよ。 これには僕もこたえました。心当りがありま すしね(笑)。それからそのことについていろ いろ考えていたのです。

TA. なるほど、そんな時に「ニルス」の 話があったわけですね。

Toriumi. そうです。

TA. ところで、その「昔、昔――」 は、現在 もフランスで放送されているのですか。

Toriumi. フランスだけでなく、ヨーロッパのそ の他の国でも放送されていて、かなりの好評 を得ているということを聞いています。

TA. ――日本ではー

Toriumi. いえ、まだです。

印象深い「科学忍 者ガッチャマン」

TA. 次に、鳥海さんのアニメ歴について伺い たいのですが・・・・・・

Toriumi. そうですね……僕の場合はアニメが好 きで好きでということではないんですよ。 そもそも僕は、シナリオ(アニメじゃなく実 写の)を書くのが好き 中学 ど友だちと一緒に同人誌みたいなもの 書いたりしていたんです。 大学 中央大学 法学部) でもESSに入って英語劇などを っていました。それで四年生の時、なんとか シナリオライターになりたいと、「シナリオ 作家協会」のシナリオ講座を半年間受講した んです。ところが、あの頃は映画がテレビに 押されっぱなしの時でしたから、どこの映画 会社も採用者ゼロ。どうしようかなと、こま っていた時に友人の一人がアニメの会社が人 を募集しているが、と話を持ってきてくれた のです。それで大学卒業と同時に入ったので す。四一年でした。

TA. それが「竜の子プロ」なわけですね。

Toriumi. そうです。丁度その時、例の「宇宙工 ース」の最終部分をやっていた時でしたね。

TA. 入られてからは?

Toriumi. とにかくそれまでは、アニメについて は、大学の時、友人の下宿で「ジャングル大 帝」を一、二度見た程度で興味もありません でしたので何ひとつ知らないわけです。です から半年間ぐらいは何もせずに、アニメ作り を覚えました。もっとも会社の方も、「宇宙エ ース」が終わり、「マッハGO GO GO」の 準備時期でしたのでかなりヒマだったですね。 それで、三ヶ月に一本ぐらい、各演出家が「マ ッハー」を作っているうちに、自分にもそ の順番 回ってきて作ったのが最初でした。 丁度三クールめからでしたね。

TA. それからはどんな作品を

Toriumi. それ以外では、「科学忍者隊ガッチャ マン」「破裏拳ポリマー」 「宇宙の騎士テッ カマン」「ゴワッパー5ゴーダム」などです。

TA. その中で印象に残っているのはどんな作品ですか?

Toriumi. やはりいろんな意味で「ガッチャマン」 でしょうね。

TA. いろんな意味とは?

Toriumi. まず、この「ガッチャマン」が総監督 として僕がかかわった最初の作品であるとい うこと。とにかく二年間必死でやったことを 覚えています。それから、この作品が、それ までの、いわゆる、マンガマンガしたストー リーから脱却してシリアスなものにしたこと から、かなりの抵抗があったようなことです。

TA. と言いますと?

Toriumi. お前が作っているのはアニメじゃない と言うんですね。アニメは子供が見るものだ からストーリーなんかはやさしくなければい けない。難かし過ぎると言うんですよ。それ 僕もその頃はまだ若かったものですから、 子供だけでなく中には大人も見ているであろ う。アニメだって大人の眼にも十分耐えられ るものでなければいけないとそれを通し たんです。しかしそれも完全に、ということ でなく、部分的にはマンガ的なところも入っ たりしましたが……。 そういう意味では中途 半端だったのかもしれませんね。それでも二 年めに入ってかなりの反響を呼ぶことができ、 僕自身も気をよくしたのですが、それ以来、 鳥海はシリアスものが向いている、といった 評価が竜の子内で定着しまして非常にこまっ たわけです。

各作品の全責任は 各担当の演出家に

TA. それから、最後の質問ですが、総監督の やり方”についてはどんなお考えですか?

Toriumi. 今の「ニルス」の場合を話してみ ますと、演出家は僕を含めて五人いるのです が、それぞれに僕の意図を伝える方法として、 は、まず自分で演出したものを何本か先に作 りまして「こういったものを作ってほしい」 とそれを見せることをやっています。本当は 皆の前で一席ぶてばいいのですが、僕はそう したことが、どうもニガテなものでしてね。

TA. なるほど。

Toriumi. それから演出”ということですが、 僕はそれぞれの演出家に絵コンテを切らせ、 最後の処理までやってもらうようにしていま す。つまり、各一話一話はその担当の演出家 が全責任を持つ、という方法です。 最近です と、絵コンテは絵コンテマンガ、処理は処理 マンガというように役割を分担するやり方が 多いのですが基本的に僕は反対なんですね。 絵コンテというのは演出家のいわば〝演出メ モ”だと思うのです。メモですからそれは書 いた本人しかわからないわけですよね。この 絵コンテに対する考え方は僕は竜の子で教わ りました。それから、これが一番大事なこと だろうと思うのですが、演出家は自分が演出 するということに対してプライドを持つこと ですね。

TA. 最後に、これからどんなアニメをやって 行きたいですか?

Toriumi. とにかくスケールの大きいものをやっ てみたいですね。実写で言えば中、高校時代 に観た「ベンハー」とか「モーゼの十戒」と か「椿三十郎」みたいなものね。そういった ものであれば、SFだろうが時代ものであろ うが何でもいいですね。 本当にぜひやっていただきたいですね。 今日はありがとうございました。

1981

November

Comment [for Space Warrior Baldios, Animedia]:

新作部分の絵コンテは、全部僕が描きま した。約800カットですか。 これは、時 間でいうと、一時間30分ぐらいになっちゃ うんですよ。とにかく僕のやり方は、ーカ ットの中で2つ3つの芝居を要求しますん で、そのくらいになってしまいますね。 カットでじっくり見せるべきだというのが 僕の持論なんです。 映画では、テレビシリーズの登場人物の性格が良くわからなかった部分 があったので、僕自身が解釈のできる人間像にしてもらいました。 たとえ ば、テレビですとアフロディアがどこでマリンにひかれているのか良くわ からないと思いますし、弟を殺されただけで2時間恨みを持っていくのは、 できないと思う。『嵐ヶ丘』のヒースクリフみたいに、愛するがゆえに相手 を憎み、傷つけるというような……。 アフロディアも、愛するがゆえにマ リンを憎むんだ、と考えると理解できるんですよね。絵コンテを起こして いく過程で、自分で解釈したキャラクターに整理したつもりです。

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